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「分かり合う、分かち合う」
真の国際親善、これからも

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株式会社スマイリーアース代表取締役社長、ウガンダ政府公認特命コーディネーター 奥 龍将さん(平23卒・119期日文)

2021年9月25日更新

 東京五輪開催前の6月下旬、世間の注目が集まった国といえばアフリカのウガンダ共和国だろう。同国選手団が泉佐野市(大阪府)と立科町(長野県)で事前合宿を実現させた裏には、長年にわたって同国と日本を繋いできた卒業生の存在があった。ウガンダ産の綿花を使ってタオル製造を続ける奥龍将さん(平23卒・119期日文、ウガンダ政府公認特命コーディネーター、株式会社スマイリーアース代表取締役社長)は今後の国際親善をどう見ているのか。

【後編】ウガンダに学んだ自然と共生 資源を生かしチャレンジを

――東京2020大会のウガンダ共和国のホストタウン事業にかかわった経緯は。

 私の会社はタオルの原材料であるオーガニックコットンをアフリカのウガンダから輸入し、現地の農家ともかかわりを深めてきた。こうした関係が発展し、会社のある大阪府泉佐野市とウガンダ北部にあるグル市は2017年に友好都市提携を締結した。ウガンダの都市と友好都市提携を結んだのは、日本の自治体では初めてだ。

 一方で東京への五輪招致が決まったことで、泉佐野市から選手の事前合宿を受け入れるホストタウンプログラムに参加したいとの話が持ち上がり、それを実現するために個人的に協力してきた。そうした中でウガンダ政府から政府公認の特命コーディネーターに任命され、泉佐野市をウガンダ選手のホストタウンにすべく活動をしてきた。

 その努力が実り、泉佐野市をウガンダのホストタウンとして登録することができた。ただ、ウガンダ五輪委員会とウガンダ陸上競技連盟から「陸上中長距離種目に出場する選手は、標高の高い場所で事前合宿を行いたい」との要望が寄せられた。そこで大学時代に所属していた陸上競技部で夏合宿を行った長野県立科町を推薦し、町内にある國學院大學の厚生施設を宿泊地として提供してもらい、2つ目のホストタウンとして登録にこぎ付けた。

長野県立科町で事前合宿をするウガンダ代表選手(立科町提供)

――来日したウガンダ選手団から選手では初となるコロナ陽性者が見つかった。

 泉佐野市の選手団受け入れは、市が独自で準備を進めていたため、私はそっと見守っていた。そうした中、来日した選手団で初めて新型コロナウイルス感染者が出たというニュースが全国に広がり、ウガンダ選手団に厳しい目が注がれた。これには知ってほしい背景がある。

 ウガンダでは新型コロナ・デルタ株の蔓延が深刻化し、6月18日に都市封鎖が始まっていた。そのような状況下の中で、泉佐野市はウガンダとの対話を行わず選手団の来日を進めてしまった。それが彼らに不運な形で降りかかったと私は分析している。

 選手団の一部がウイルスを持ち込んだとイメージ悪化は避けられなかったものの、私がSNSで募った選手たちへの応援メッセージは全国から多く寄せられ、民間の草の根で繫がる人の心の温かさが国と国を結び付けていることを実感した。

 一方で國學院大學も関わった立科町の受け入れは、関係者がいかに事前の危機管理体制を構築し、安全な事前合宿環境を整えられるかを考え、私もウガンダ側の状況を伝え続けた。徹底して「安全を確保する」という共通認識で対策を講じた結果、選手団は到着した翌日から練習ができた。

――ウガンダ選手団では選手が「日本で働きたい」というメッセージを残して一時行方不明になる騒動も。

 オリンピアンは国の代表として送り出されているので、間違った行動はしてほしくない。当事者には真摯に反省してアスリートとして再び歩んでほしい。

 ウガンダの人々は日本に、「非常に発展した国」という大きな憧れの意識を抱いている。日本で働きたいと思うのは極めて普通の感覚で、日本に残って仕事を探そうとしたことが大変な問題とはとらえていない面があるのは事実だ。

 もう一つ気になることは、ウガンダが貧しいからと報じられたことだ。これはニュアンスが正しくない。首都カンパラの人口密度は高いうえに、物価も高く、貧困にあえぐ人がいることも事実だ。しかし、私がかかわるコットン栽培の農家は決して貧困ではない。食べ物も自給自足できる。ウガンダには水と肥沃な土壌があり、これからの世界の食糧庫として、農業の発展の可能性も秘めている。

 一律に貧しいというのは間違った認識で、ウガンダと関わって実態をこの目で見てきている私としては一番ショックだった。

おく・たつまさ 平成23年国学院大学文学部日本文学科卒業。在学中は陸上競技部に所属し、同部が初めてシード権を獲得した第87回箱根駅伝では9区を走った。卒業後は、家業の株式会社スマイリーアースの3代目としてタオル製造の道へ入り、2代目の父とタオルづくりに取り組む。「地球を汚さないタオル製造技術の開発」は平成29年「日本水大賞」経済産業大臣賞など受賞多数。最近は、林業や農業にもいそしむ。

――今回の経験を踏まえて伝えたいことは。

 友好親善を促進するうえで大切なことは、「相手をよく知り、相手に寄り添う」ことに尽きる。自分たちがどう手を差しのべれば、相手にとっても喜ばれることなのかを知らなければならない。そのためには信頼関係を築き、分かり合う、分かち合う取り組みが求められる。特に島国である日本は、この姿勢をきちんと持ち合わせていなければならない。こうした考え方がスタンダードになって広がれば、地球上での日本としての役割も明確になってくるのではないか。

 分かり合う、分かち合うという姿勢はホストタウンのような取り組みも当てはまる。国は地域の特色を生かし、相手国と分かち合うことで独自の交流や成果を作ってほしいと願っていたはずだ。ところがそうした意義が欠落し、ただのお祭りにしている事例も見受けられた。真の友好関係を築いていくには相手に寄り添う姿勢によって結果も違ってくると思う。


ウガンダ共和国 アフリカ大陸の東に位置し、南スーダン、ケニア、タンザニアなどに囲まれた内陸国。日本の本州とほぼ同じ広さで、赤道直下に位置する。陸上競技中長距離種目の強豪国で、東京五輪では、男子5千メートルなどで4つのメダルを獲得した。

日本とウガンダの交流 奥氏らの交流が発展し、会社のある泉佐野市と同国北部のグル市は平成29年に、国内の自治体で初となる友好都市提携を締結した。東京五輪に向けて、泉佐野市では同国選手団を受け入れるホストタウンプログラムの登録をいち早く実施した。また長野県立科町は同国五輪選手団のうち陸上競技中長距離種目に出場する選手の事前合宿を受け入れた。立科町と学校法人國學院大學の連携協定などに基づき、本学厚生施設「蓼科寮」を宿泊地として提供した。

 

 

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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