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親の価値観を手放し、自由な家族観持って

経済学部 水無田気流教授に聞く(後編)

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経済学部 教授 水無田 気流

2021年5月24日更新

 社会学者で経済学部の水無田気流教授は「今の学生はLGBTなどへの差別に機敏で、エシカル消費にも関心が高い」と、成熟した思考力を持っていると評価する。一方で「就職や結婚など親世代の家族観に縛られている学生も少なくない」と指摘する。水無田教授に社会学を学ぶ意義について聞いた。

【前編】「アート弁当」に縛られる日本の家事観とは

 

――昔に比べて、今の学生は家族観やジェンダー観が変わってきているのでは。

 変わらない部分も多い。「親がこうだったから、自分もこうあるべき」と考える学生は少なくない。学生の両親の30年前のジェンダー観、「呪縛」があるような気がする。

 女子学生に結婚相手に求めることについて聞くと、経済力と答える学生は少なくない。同じ質問をスウェーデンの女子学生にすると経済力と答えた人はゼロだった。ちなみに日本、スウェーデンともにトップは「人柄」で同じだが、スウェーデンでは人柄の次に家事や育児のスキルを挙げる学生が多かった。

 日本の場合、女性が専門職で働こうとすると、結婚、出産が非常に難しくなる。20代半ばから40代半ばの子どもがいない男女の賃金格差は、女性は男性の74%だが、子どもがいる場合は39%にまで落ちてしまう。時短勤務や、子育てをしていく中で昇進が難しくなる「マミートラック」に陥るという背景がある。だから「高収入の安定した職に就いている男性と結婚しなければ」という発想になる。

 一方で、男子学生は「パートナーに働いてもらいたい」と考える人が増えている。賃金水準下がっているので、自分の収入だけで家計を支えることが難しいと思っているのだろう。

 昔と比べ、学生が変わってきていると感じることもある。ジェンダー論で偏見問題について取り上げると、LGBTへの差別について、アウトだと判断できる学生が増えている。偏見問題は若年層ほど機敏だ。

 私は文化社会学の授業も行っているが、今の若い人は、ジェンダーだけではなく、エシカルな消費に興味を持つ人も増えてきている。フェアトレードやエコツーリズムなどは学生の反応がいい。成熟した社会に向かう中で、若い人の嗜好性が成熟に向かっているのではないか。

 ただ、上司であるおじさんの理解力がないとぶつかってしまうだろう。そこを変えていかねばならない。

――10年後の社会を変えるにはどんな政策が必要か。

 安倍晋三前政権は女性の社会進出を重点施策に位置付け、確かに平成24年から令和元年にかけて日本では女性就業者は約338万人増加した。だが、女性被雇用者の多数派が非正規雇用という構図に変化はなかった。

 このため、コロナ禍で女性の非正規雇用者が失職や雇い止めなど雇用の調整弁に使われてしまっている。女性の自殺者数も急増した。前首相が繰り返した「強い経済」のもろさが露呈してしまったといえる。

 これからは「人間を幸福にする経済」を主眼においた政策が必要だ。出産育児を経て就業継続できた女性がよく言う台詞に「私は運が良かった」というものがあるが、これが日本社会の問題をよく示している。個人的な運の善しあしで育児資源や職場の理解に恵まれているかどうかではなく、本来誰もが安心して子どもを産み育てることができる社会にしなければならない。

 

――学生たちへメッセージを。

 学問は、日常から離れたことについて考えることも大切だが、身近すぎて客観的に見ることが難しい社会構造について学ぶことは、大いに意義がある。

 とりわけ家族やジェンダーについては『親がこうだったから、自分もこうあるべき』と考える学生は少なくない。だがそれは一世代前の家族観・生活観に起因している。学生には過去ではなくこれから自分たちが幸福になるためにどうすれば良いのかを考えてもらいたい。

 初等教育から大学まで、教員の仕事は基本的に学生が将来社会に出たときに、自分の力で幸せになる方法を自ら考え選び取ることができるよう手助けすることだ。その意味で家族観やジェンダーについて学ぶことは極めて重要であり、私の講義がその一助になれば良いと思っている。

「國學院大學学報」創刊700号記念特集「私たちの未来はどこに繫がっている?」関連記事

 

 

 

水無田 気流

研究分野

文化社会学、家族社会学、ジェンダー論

論文

「ダイバーシティ(多様性)」概念の歴史的変遷についての一考察(2021/03/25)

日本のジェンダー規範とメディアの役割についての一考察――象徴的排除生成の要因分析を軸に(2019/09/30)

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