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「アート弁当」に縛られる日本の家事観とは

経済学部 水無田気流教授に聞く(前編)

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経済学部 教授 水無田 気流

2021年5月24日更新

 ダイバーシティ(多様性)推進が加速している。しかし、日本社会でジェンダー観や家族観は本当に変わっているのだろうか。元首相の女性蔑視発言や、男女格差を軽視した報道番組のCMなど、ダイバーシティが浸透しているとは言い難い。社会学者で経済学部の水無田気流教授に、日本と海外の家族観の違いや、政治や教育現場の男女格差について聞いた。

【後編】親の価値観を手放し、自由な家族観持って

――この10年で家庭での男女の役割は変わったか。

 過去20年で女性就業率は上昇したが家事育児介護などケアワークは女性偏重のままで、驚くほど構造は変わっていない。それどころかコロナ禍で家族が家にいる時間が増え、女性の負担は大きくなっている。日本の女性に要求される家事、育児の水準は先進国で最も高く、手間数も多い。だがそのためか、既婚女性の家庭生活満足度は先進国で最低水準だ。私がスウェーデンの国会議員に日本のお弁当の写真を見せたら『アート作品だ』と言われてしまったほど。

 私は平成27年から30年にかけて、複数の研究者とともに日英の家事観に関する調査研究に参加した。その一環で、東京とロンドンの都心、郊外、さらに地方それぞれのエリアでスーパーマーケットの書籍コーナーに置かれている雑誌の種類と数などの違いを調べた。

 東京都心部は高所得・単身者向けのグルメ雑誌などが多かったが、郊外は料理、弁当本が大半を占めた。一方、英国では料理本はほぼゼロで、代わりにインテリア、ガーデニング、そしてDIYの本などが置かれていた。日本では『家事=料理」で、家族で手の込んだ栄養のある料理を食べることが重視されている。これは家事が家庭内で完結しているともいえる。他方英国では『他人を招き社交のための家造り』が重視されおり、ガーデニングやDIYなど夫婦一緒に行う家事がメインになっているのが大きな違いだ。英国は家事のアウトソーシングも一般的だ。日本でも家事代行が増えてはいるが、税額控除されず一部の層への浸透にとどまる。

――国によって家事観がここまで違うとは。

 調査では、日本と英国の家庭のリビング、台所の写真を撮影して比べた。

 自宅のリビングを思い浮かべてほしい。思い当たる人も多いと思うが、子どもが保育園や小学校で作ってきた工作や絵が並んでいないだろうか。

 英国はリビングに子どものモノは置かず、大人の空間を作る。リビングは『大人の社交場』という位置づけだ。家族の中心は夫婦なので、知人を自宅に招き合い、交流が生まれる。

 日本は互いの家に招き合う文化があまりない。だから高齢者になって、ご近所で助け合ってくださいと言われても難しい。どちらの国が良い、悪いではないが、空間に対する考え方や家庭観の違いは大きい。

――ジェンダーギャップ(男女格差)はどうか。

 令和3年に公表された日本のジェンダーギャップランキングは156カ国中120位と、先進国最低水準でG7では最下位だった。最大の引き下げ要因は女性の政治参加の立ち遅れで、女性の国会議員も少なく衆議院の女性議員割合は1割、参議院でようやく2割だ。1、2割という数字は地獄の数字と言われていて『紅一点』という状況だ。女性比率が3割を超えるとクリティカル・マスになり、社会に質的な変化を起こすことができる。

 政治に次いで経済も低い。女性の平均賃金は男性の半分程度、管理職者に占める割合は1割強しかいない。日本の職場が多様性とはほど遠い、男性中心の均質性の高い職場が続いてきたことが一因だ

 政治だけではなく、教育も同じで、女性が高所得、高水準職に就きにくい。平成30年、東京医科大学が女子受験者の点数を一律に減点し、合格者数を抑えていたことが発覚した。

 この問題について多くの医療関係者が、大学病院の勤務医を確保し医療を守るための『必要悪』だと言った。しかし、これは重大な憲法違反だ。憲法14条第1項は「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」と定め、法の下の平等を保障している。教育基本法でも教育の機会均等が保障されている。

 憲法に違反してまで守らなければならないものが何だったかと言えば、大学病院の勤務医のブラックな労働環境だ。そうまでして守らなければならないものだろうか。

 最近では、前東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗氏の女性を軽視する発言が問題になった。森氏を止める人が周囲に誰もおらず、権力者の最終形態までいってしまった印象だ。東京医大の問題も森氏の発言も、多様性とは真逆の均質性の高い職場が続いてきたことが一因になっている。

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水無田 気流

研究分野

文化社会学、家族社会学、ジェンダー論

論文

「書かれた女性の『美』と『身体』」(2014/03/01)

「身体経験の変容と消費文化―ゲーム、メディア、コミュニケーション」(2012/09/01)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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