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本のおかげで、出会えた人、
かなえられた夢、奇跡があります

(みんなのアナログ VOL.4 粕川ゆき(いか文庫店主))

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2020年2月13日更新

 渋谷で活躍する皆さんに、ご自身が大切にしている「アナログなもの」について伺う「みんなのアナログ」。今回は、エア本屋「いか文庫」の店主、粕川ゆきさんにお話を伺いました。
 
 
−−粕川さんが愛用している「アナログ」はなんですか?
 
粕川さん(以下粕川) 本です。物心ついた頃から好きでした。途中、読んでいなかった時期もあるので、実質20年くらい、楽しんでいるかもしれません。10年前に書店員になってからは、毎日、本を手にしています。読まなくても、本に囲まれているだけで幸せです。
 
−−思い出深い本はありますか?
 
粕川 向田邦子さんの『父の詫び状』です。高校生のときに読んだのですが、この本のおかげで、私は本好きになったと思います。
 
 
−−どんなところが、高校時代の粕川さんに響いたのでしょうか?
 
粕川 この本は、向田邦子さんのエッセー集で、どのお話もとてもおもしろいのですが、とくに表題作の「父の詫び状」という話が好きです。
 ある冬の日、亭主関白の父親が連れてきた仕事仲間が、明け方、酔いつぶれて、玄関に粗相し、吐瀉物が敷居にいっぱい凍り付いていた。それを母親がひび割れた手で掃除をしている。こんなことをさせている父親に腹をたて、娘(向田邦子)が手伝う。その後、東京へ戻ると、父親から「此の度は格別の御働き」と書かれ、朱筆で傍線が引かれていた手紙が届いた……というお話。
 お父さんが、本当は「すまない」という気持ちを持っていたことに気づき、読んでいるこちらはぐっとくるのに、それを向田さんがとくに感情を込めずたんたんと語っているところが「かっこいい!」と思いました。女性でもこんなかっこいい文章を書けるんだなって。
 
向田邦子『父の詫び状』(文春文庫)。全24編からなるエッセー集。「この本に登場するお父さんは、母方の祖父とかぶるんです。厳しくてやさしいところが似ています」と、粕川さん。
 
−−ほかにはありますか?

粕川 昨年、アラスカに行くことになり、星野道夫さんの本を初めて読みました。自分が働いていた書店で、これまでたくさん売ってきて、いろいろな人に「いい本だよ」とすすめられていたのに、これまでなぜか読んでこなかったんですよね。読みはじめて、びっくりしました。ほんとうにおもしろい。
 そして、実際にアラスカに行ったら、本に書いてあるとおりなんですよ。
「あ、あそこに書いていたのは、ここか」と思えるところもありました。
 東京にいると、いろいろなことを人間に合わせているような感覚に陥るけど、そもそも人間は、自然や動物に勝とうと思っても勝てないんだと、アラスカに行って気づかされました。「私、東京でなにくすぶっているんだ」っていう気持ちにもなりました。
 こんなにすてきな星野道夫さんの作品を、なぜこれまで読まなかったのか!?と思いましたね。

星野道夫『長い旅の途上』(文春文庫)。「自然の中の人間のちっぽけさに気づかせてもらえました」と、粕川さん。
 
−−本好きの粕川さんが、本によって得られたものはなんですか?
 
粕川 本は、その形を見るだけで気持ちが昂ぶります。さらに、開いて、見て、読むことで、それまでの自分が触れたことのない世界につれて行ってくれることが、ほんとうに素晴らしいと感じます。それを趣味にも仕事にもできていることが、私の自慢であり、自信にもつながっています。
 本のおかげで、一生の仕事にしたい、と思える仕事に出会えました。また、本を介して出会えた人、かなえられた夢、奇跡もたくさんあります。
 本によって、かけがえのないものをたくさん与えられ続けています。
 
 
 
プロフィール:
粕川ゆき(かすかわ・ゆき)
エア本屋「いか文庫」店主。スポーツメーカーに7年勤務した後、ヴィレッジヴァンガードに転職し「本を売ること」のおもしろさに目覚める。2012年から2019年1月まで、SHIBUYA PUBLISHING&BOOKSELLERS(SPBS)に勤務。現在は、「いか文庫」で、さまざまなメディアでの連載や、イベントを手がける。
「いか文庫」http://www.ikabunko.com/
 
撮影:服部希代野 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學
 

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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