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神話には現実世界にはいないような姿形をし、人間には持ち得ない能力を持った神や動物たちが現れ、奇想天外な話を繰り広げていきます。鼻がとんでもなく長く、口と尻が赤く、目が光り輝くサルタヒコが道案内をしたり、手の間から落ちてしまうほど小さいスクナヒコナが温泉を開いたりします。
どうしてこのように不思議な話が生まれたのでしょうか。古くから多様な理由が考えられてきました。代表的な考え方に、神話とは自然現象や倫理的な原理を象徴的に表わしたものだ、というものがあります。アマテラスがスサノオの乱暴を恐れて天の石屋に隠れる神話を太陽が嵐によって隠れた話だと解釈したり、日食を表わすと解釈したりする立場です。もう一つには、神話は歴史的な出来事が神話として伝えられたのだとする立場があります。アマテラスがオオクニヌシに葦原中国を譲るように求め、タケミカヅチが武力を行使することで国を譲ることが決まったという話は、大和朝廷と地方勢力との争いと服従の歴史が神話として伝えられたのだ、と解釈する人は今も多くいます。
どちらが正しいかを決めることはできません。つねにさまざまな解釈の可能性があり、謎が謎を生みます。
神話の謎のなかには、遠く離れた地域に、似た神話が伝わっているのはなぜかというものがあります。人が神話を伝えたのでしょうか。それとも偶然でしょうか。20世紀になり、人の心の研究が展開すると、人間の心が神話を生み出すという考えが出てきます。人間の心の無意識の層には、個人を越えて共有される部分もあると想定されました。そうすると遠く離れた地域の神話や、さらには個人の夢と神話が似ていても不思議ではないことになります。
ヤマタノオロチのような蛇形の怪物は世界中の神話に登場し、英雄の敵となります。なぜ蛇なのでしょう。最近では、蛇を見たことない小さな子供でも蛇を怖がることから、蛇を怖がるのは、われわれの遠い先祖が狩猟、採集生活をしていた頃に身近にあった危険が蛇であり、それが現代人の習性にも残されているからだといわれています。蛇退治の英雄の存在は、人類の歴史、人類の生態から説明できることになります。
神話の謎は人類の謎でもあります。人類についてのさまざまな研究が、神話の謎を解く鍵ももたらしてくれるでしょう。