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過去を見つめ直し未来を描く
問い直しの先に、AI時代の生き方がある

シブヤ対談 vol.23 トップによる未来への「問い直し」『國學院大學×東急株式会社』

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2019年12月2日更新

國學院大學の針本正行学長と、東急の髙橋和夫社長が対談。ともに渋谷区を拠点とする両組織のトップは、AI時代の教育や渋谷再開発の中で、物事を始まりから“問い直す”重要性や、それにつながる組織づくりを語る。両者の考えに迫った。

 

プロフィール
針本 正行(はりもと まさゆき) 髙橋 和夫(たかはし かずお)
國學院大學学長

東急株式会社代表取締役社長

1951年生まれ

國學院大學大学院文学研究科博士課程を経て、2000年より同文学部教授。2019年に学長に就任。

1957年生まれ。

一橋大学法学部卒業。1980年に入社。経営企画室長などを経て、2018年から現職。

 

未来に必要なのは過去への素朴な問い

針本 4月から学長に就任しましたが、私が大切にするのは過去を「問い直す」ことです。物事には始まりがあり、大学なら建学の背景となる社会情勢や精神がある。さらには、これまでどんな道を歩んできたか、またなぜその道を歩むことにしたのか、必ず理由があります。未来の姿を描く際は、それぞれが拠って立ってきたところをもう一度見つめ直し、問い直すことで展望が開けると考えています。

髙橋 我々の原点は田園都市株式会社です。およそ100年前、都心の人口集中問題を解消すべく、郊外の田園調布に新たな街を作りました。以降、住む方のご不便、「社会的な課題」を解決するために事業を拡大したのです。都心へ出る際の不便を解消するために鉄道を作り、日常生活の利便性を上げるために商業施設などを作りました。

 9月に長期経営構想を発表しましたが、未来の姿を構想すると、ルーツである田園都市株式会社の目指したものと共通点が多い。時を経ても、会社のDNAは変わっていないことを再認識しました。

針本 私は源氏物語を研究していますが、誕生から1000年経っても世界的な作品として残っています。さらに面白いのは、1000年経っても解決できない問題がいまだに内在しています。果たしてそれはなぜなのか。鎌倉、室町、江戸の先人たちの研究を問い直し、問題への素朴な問いかけをしていきたいと考えます。

針本学長は「AI時代における人間らしい生き方を考えていきたい」と話す。

 

「グレーター渋谷」からエンタメの発信を

髙橋 進行中の渋谷再開発では「エンタテイメントシティSHIBUYA」を標榜しています。現代の街づくりは、ハード面で終わりません。そこにコンテンツや楽しむ要素、ソフト面を載せていく。もともと渋谷は、30周年を迎える「Bunkamura」などのようなエンタメ性を持った街ですが、音楽、演劇をはじめ、ファッション、食、スポーツや娯楽施設まで、楽しいエンタメを、行政、地域などさまざまな方とともに追加していきたいと考えています。

 そのことから、私たちは今年、社内にエンタメの専門部署を作りました。さまざまなエンタメをつなぎ合わせ、一元的にする。「渋谷に行けば楽しいことが起きる」と感じていただく仕掛けをして、世界中からいろんな方に来ていただきたいのです。過去から脈々と続く「渋谷の街づくり」でも、時代に合わせた手法を取っています。

針本 海外の大学を見ると、教育機関としての位置付けだけでなく、街中での文化発信地や、心を安らげる場としても機能しています。アメリカの大学は、24時間オープンになっていたり、図書館は誰でも利用できたりするケースも多い。その意味で、本学も渋谷の一員として、文化や精神を涵養する場にもしていきたいと思います。

髙橋 渋谷駅を中心に半径2kmほどのエリアを、私たちは「グレーター渋谷」と呼んでいます。半径2kmが、ヒューマンスケールで歩いて回遊できる目安なんですね。その範囲の街づくりに力を入れていきますが、実はこの中にたくさんの大学があります。それらと連携すれば、またいろいろな反応が起きるのではないでしょうか。ひとつのエンタメになる可能性を持っていると思います。

「デジタルとリアルのコミュニケーションを重ね合わせるべき」と髙橋社長。

 

デジタルとリアルの両立。考えたいAIとの関係性

針本 先ほど髙橋社長から「同じ渋谷のまちづくりでも、時代に合わせた手法を取っている」との話がありました。まったく同感で、どんな物事でも、過去を問い直した上で時代に対応するべきです。これからは、AIをはじめとした技術で「ソサエティ5.0」と呼ばれるデジタル社会に突入します。教育も、AIやスマホが取り入れられるでしょう。

 大げさでなく、教員に変わってAIが授業を行うシーンが出てくるかもしれません。家庭教師のようなロボットが、学生に個別対応する。そんな時代も来ると思います。その中で、人としてなぜ生きるか、どう生きるかという学生たちの素朴な問いかけに、教育機関としてどのように応えるかが求められます。

髙橋 弊社もRPA(定型業務の自動化)を進めていますが、一方で人のコミュニケーションを大切にしています。机のフリーアドレス化はその一例。もう10年ほど前から社員が混ざり合う環境を作り、コミュニケーションする文化を醸成してきました。自動化も大切ですが、コミュニケーションも必要。両方を組み合わせながらやらないといけません。いろいろな社員と混ざり合って会話をすることで、組織風土が常に新鮮で研ぎ澄まされ、イノベーションが生まれると考えています。

針本 多様性と寛容さが求められる時代ですが、まさにそれを重視した企業戦略だと思います。同じ意味では、たとえばAIもひとつの“他種”として、人間の新たな気づきを助ける存在になればいいと思うのです。人が考えられない発想をAIが出した時に、人がそれを活用し新たな成長につなげる。これが「ソサイエティ5.0」における人間らしい生き方ではないでしょうか。

若手や学生の問いかけが、成長になることを自覚する

髙橋 組織では人間同士も寛容さが必要です。上司が若手の意見を積極的に取り入れなければ創造的な破壊は起きません。

針本 大学でも教員はどうしても自分の経験値を信じすぎ、学生に押し付けてしまうことがあります。しかし、学生から教えられることもあるのです。教員自身も、授業をする前と違う自分になる。そんな教育をしなければなりません。若い人からも学ぶ文化を醸成したいですね。

髙橋 その意味では、弊社は社内起業家育成制度を設けています。部署や年齢・役職にかかわらず、新規事業を提案しリーダーとして携わることができます。あるいは、ベンチャー企業と協業するスキームを作って、数多くの企業と事業共創を行っています。

 我々のグループは多角的な事業をやっているので、自前でも多くの新規事業はできるかもしれません。しかし、それではあくまで東急のアイデア、資産からしか生まれない。別種の企業や人とともに取り組むと、まったく違う視点、新しいアイデアが生まれるわけです。

針本 いろいろな色や絹、衣を合わせることで、新しい織物ができる。まさにそれを具現化していると思います。

髙橋 社内起業家育成制度もベンチャー企業との事業共創も、一つひとつのアイデアは、コア事業に比べれば小さな規模かもしれません。しかし、こういった仕掛けにより社員一人ひとりを活性化させるのが狙い。会社の財産は社員であり、BtoCの企業にとって、上質なサービスの提供には欠かせませんから。

針本 若い人から学ぶ文化を本学に根付かせるためには、学生との交流や学生の発想、素朴な疑問が、私自身の自己発見や研究の深化につながっていると発信していく。論文の中で、あるいは多くの方に話す場で。たとえば、固定化しつつあった自分の研究史観が、学生のこんな意見で解き放たれたとか、こんな質問がきっかけで発見につながったとか。そういったものを文字化し、発言する。地道ではありますが、日々の行動で示していこうと考えています。

展望施設を取り入れた渋谷スクランブルスクエアは「楽しい街」の象徴。

 

 

 

針本 正行

研究分野

平安時代文学の研究

論文

「『八まんの本地』の解題と翻刻」(2019/03/07)

「國學院大學図書館所蔵『俵藤太物語』の解題と翻刻」(2018/03/07)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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