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日本最古の書物『古事記』。世界のはじまりから神様の出現、皇位の継承まで、日本の成り立ちがドラマチックに描かれています。それぞれの印象的なエピソードには今日でも解明されていない「不思議」がたくさん潜んでいます。その1つ1つを探ることで、日本の信仰や文化のはじまりについて考えていきます。

穀物と関わりが深い“トヨウケ”
食べること、それは人間が生きていく上でもっとも重要なことといっていいでしょう。その「食」に関わる神がトヨウケという女神です。
『古事記』によると、国土や自然に関わる神々を生みだしたイザナミは、最後に火の神を産みます。その出産で大やけどを負って苦しんでいるときに、排泄物からワクムスヒという神が生まれました。ムスヒとは、「生み出す力」を意味します。そのワクムスヒの子がトヨウケです。トヨは豊かであること、ウケは食物を意味します。
アマテラスの孫のホノニニギとともに地上に下り、伊勢神宮の外宮に祀られたとあります。『古事記』がトヨウケについて語っているのは、これだけです。
伊勢神宮の神々に食事を提供するために
後世の資料によると、第21代の雄略天皇の夢で、伊勢神宮に祀られているアマテラスが、一人で食事を十分に取ることができないので、食事の神であるトヨウケが必要だと伝えます。そこで、それまで丹波国(今の京都府)にいたトヨウケを伊勢の外宮にお祀りするようになったといいます。
伊勢神宮では、いまも日別朝夕大御饌祭という儀式が行われています。この儀式は、朝と夕の食事をアマテラスをはじめとする神々にお供えするもので、その神饌はトヨウケの祀られる外宮で用意されています。
火と水、そして穀物
さて、トヨウケの親であるワクムスヒは、火の神の誕生がきっかけで生まれました。ワクムスヒと同じときにミツハノメという水の神も生まれています。火と水の神、そして生み出す力の神が登場した後に生まれていることから、トヨウケは食物のなかでもとくに米をはじめとする穀物と関わりが深い神だと考えられます。
伊勢神宮で神々に供えられる食事もご飯が中心です。火と水が生まれた後に穀物が誕生するという神話の語りは、とても理に適っていることがわかります。
日本以外にもいる穀物の神様
穀物に関わる神というと、ギリシャ神話のデメテルやその娘のペルセポネがいます。麦を広める女神です。北米の神話にはCorn MeidenやCorn Motherと呼ばれるトウモロコシ栽培を教える女神たちが登場します。
作物を生み育てる大地が女神とされることが多いように、穀物神にも女神が多いようです。謎の多いトヨウケを理解するには、こうした世界の穀物の女神たちの神話が参考になるでしょう。
~國學院大學は平成28年度文部科学省私立大学研究ブランディング事業に「『古事記学』の推進拠点形成」として選定されています。~

2019年8月5日付け、The Japan News掲載広告から