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なぜいま、若者は神道に惹きつけられるのか。神道文化学部 学部長にきく

祭事は社会人に必要なチームワーク力をつける

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國學院大學 神道文化学部学部長 武田秀章

2017年6月12日更新

國學院大學の神道文化学部は名前のとおり、神職につく若者を養成し、その資格の認定・授与を担っています。学生は神社神道の後継者ばかりかと思いきや、いまでは、所属学生の7割が一般家庭の出身だそうです。現代の若者はなぜ、神道を学びたいのか。そして神道を勉強した彼らは、一体どこに就職するのでしょうか。現代社会に根づく「グローバル化」「情報化」といった言葉からは一番遠そうな「神道文化」は、これからどうなっていくのでしょうか? 國學院で青春時代を過ごし、國學院に20年間勤めている武田秀章学部長にお聞きします。

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ネットショップで「参拝」を依頼? 情報化のなかで問われる神道文化の価値

―いま世界では急速に情報化、グローバル化が進み、コミュニケーション方法もずいぶん変化したと思います。そのなかで、日本古来の伝統宗教である「神道」のあり方はどのように変わっていくのでしょうか。

武田秀章学部長(以下、武田):神道文化学部は「神社ネットワーク論」「神道と情報化社会」といった科目を開講し、情報化時代に積極的に対応しています。通常の授業では神道の歴史や思想などを学ぶわけですが、たとえば「神社ネットワーク論」では、現代社会が神職にどのような役割を求めているのか、また、新しいツールを用いていかに神道文化を伝えていくかなどについて考えていきます。

また「神道と情報化社会」では、グローバル時代における「クールジャパン」の核としての神道の魅力を考えたり、ときには神さまのキャラクターをデザインしたりもします。私自身も学部のウェブサイトで授業や学生の最新情報を伝えています。学部長として、インターネットを活用した神道文化の発信を日々心がけています。

―神道は「寛容性」を大事にするとお聞きしました。その点、対面コミュニケーションがとれないインターネット文化は神道にとって不寛容の対象になる部分かと思っていましたが、そうではないのですね。

武田:使える部分は積極的に取り入れていくべきですが、けじめも大切だと思います。たとえば「ネット課金を参拝の代わりにする」というやり方では、神社に足を運ぶ必要がなくなってしまいます。それだけではなく、神道文化の命である「土地」との結びつきも薄れてしまいますので、あまり好ましいことではないでしょう。

また、お守りはご社頭で授与するものですから、ネット経由で扱うわけにもいきません。神社の神聖さとネットの便利さを巡っては、慎重に両立の手立てを考えていかなければならないと思います。神さまへのリスペクトを、決して忘れてはいけません。

―そこは難しそうですね。最近は縁結びやパワースポットに惹かれて御朱印を集める人も多いそうですが、神社のことをわかっていないまま巡っている人もいそうです。

武田:神社のよさに気づいてくれること自体は歓迎すべきことだと思っています。メディアでは「御朱印ガール」と呼ばれてもいますよね。伊勢神宮や出雲大社のご遷宮に合わせてお詣りする人も増えています。

ただ、アニメの聖地巡礼という目的で神社を訪れる人は、写真を撮るだけでお詣りはしない、ということもよく聞きます。けれども、そういう人たちは、神社の存在価値や神道の心を知らないだけで、ちゃんと教えれば正しい作法で参拝してくださると思っています。神道文化学部の学生こそ、その人たちに手を差し伸べることができるのではないでしょうか。たとえば、この渋谷キャンパスの正門近くに神殿がありましたよね?

―ありました。

武田:神道文化学部の学生は、神殿の前を通るとき、必ずお辞儀をします。

―たしかに、一礼している学生さんがいました。教えられればできないことではないということですね。

校内にある神殿

校内にある神殿

被災したとき、人々はまず祭事を始めた。日本人の心に根づく、地域コミュニティーと復興

―情報化にあわせて、人々のコミュニケーション方法も大きく変化しています。そのような状況のなかで、神道文化にはどのような役割があるとお考えですか。

武田:東日本大震災以降、人々の間に「共通のよりどころ」を求める気持ちが強まっていると感じます。たとえば福島県浪江町の住民の方々は、避難先で「田植え踊り」を懸命に伝えています。地域の神事や伝統芸能を将来の復興の手掛かりにしようとする動きが、東北各地で展開しているのです。

じつはこのような営みは、東日本大震災の遥か以前から行われてきました。関東大震災のときも、下町の人たちがまず行ったことは、傷んだお神輿を作り直すことでした。まずはみんなで神輿を担ぐことで、地元の「復興力」を奮い起こそうとしたのです。日本人を元気づけてきた「お祭りパワー」は、決して侮れません。

―それは象徴的です。震災などで人の基盤が失われたとき、一番大切にされるのが人とのつながり、コミュニケーションです。そういったときに、多くの日本人は伝統ある祭事からやり直そうとするのですね。

武田:大震災では、一度にたくさんの方々が亡くなられました。われわれは、「大切な人がこの世から完全に消え去ってしまった」とは、なかなか思えないのではないでしょうか。心のどこかで、「(亡くなった)あの人が、なおどこかにいて、自分に寄り添ってくれている」と……。

生きているわれわれは「死者との絆」を求めずにはいられません。先日もテレビで、震災で亡くなった方に手紙を朗読する番組を放映していました。もちろん死者の姿、神さまの姿を目で見ることはできません。けれども、そこにこそ日本人独自の「シックス・センス(第六感)」のような、独特な死生観・宗教観があるのかもしれません。

―神社は地域コミュニティーにおける復興の機能をもっている。それはなぜでしょうか?

武田:そもそも神社の祭りというものが、地域社会が安寧であるようにと行われるものだからです。地域全体のために祈るのが神主さんの使命です。神主さんは、じつにマルチな方が多い。教育委員会の役職を兼任していたり、地域文化財の管理者を務めていたり、ボーイスカウト活動を指導していたり。つまり神職は、地域の「人づくり」を担う存在でもあるのです。神主さんほど、その地域の歴史や芸能、言い伝えについて詳しい人はいません。地元の文化伝承は彼らが担ってきた、と言ってもいいでしょう。

明治以降、日本人は北海道に生活圏を広げました。人々が移住先で真っ先に行ったのは、神社を建てることでした。まず神さまを祀り、神社を中心に結束していったわけです。神社を核として地域コミュニティーを作り、共同体の絆を作り上げていったのです。それはもはや、日本人の「習い性」ではないでしょうか。

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言葉の通じない異文化交流で必要なのは、日本人としての「立ち居振る舞い」

―神主さんの宗教観や立ち居振る舞いは、ローカルな地域の人には重要なものだと思います。現在のグローバル化についてはどうでしょうか?

武田:神道文化学部の学生は、神社で「助勤奉仕」を経験します。神社でお守りの授与をお手伝いするのですが、とりわけ近年は外国人の参拝客が増えています。学生たちは、彼らとつたないながらも意志疎通をしなければなりません。「このお守りは大切なもので、あなたを守ってくれるんですよ」というメッセージを、身振り手振りを交えて懸命に伝えるわけです。それは一種の「異文化コミュケーション」です。そういった体験が、正しい神道文化を発信していく一つの糸口になっていくのだと思います。

学生は神職の後継者だけではない。一般家庭の学生が神道を学ぶ理由

―神道文化学部の学生さんは7割が一般家庭の人だとか。みなさんどのような動機をもって入ってくるのでしょうか?

武田:「神道の学びは一般就職に役立たない」。そう思っている人も少なくないようです。けれども「ぜひ神道を学びたい」という若い人は増えています。古来のお祭りの作法、伝統の雅楽や舞を身につけられる大学は、首都圏では本学以外にありません。そのため熱意に溢れ、目的意識を抱いた学生が多数入学しています。

―「なんとなく大学へ」と考える学生がいるなかで、やりたいこと、学びたいことが明確な人が集まる学部というのは印象的ですね。

武田:神社以外の就職先に関してよくご質問をいただきますが、近年は企業の方から「日本人らしいマナーや作法、『日本のこころ』をしっかりと身につけた学生さんを、ぜひ紹介してほしい」というお声がけをいただくこともあります。

神道文化学部の学生は、神道を学んで「和の作法」を身につけ、装束の着つけができ、雅楽や舞も心得ています。就職面接では、そういった特色が、他大学出身者にはないアドバンテージ、アピールポイントになる場面が多々あるのです。

たとえば建設業界などは着工前に必ず地鎮祭を行いますよね。その際に、神道の知識や資格がある人がいると助かるわけです。また、葬祭業の会社に入る学生も増えています。人の死に立ち会う職業ですから、ビジネスだけでは立ち行かない。そこには畏敬の心・慎みの心と共に、深い死生観・人生観が求められます。それを培うことができるのは、宗教系の学部の強みでしょう。

―当初から神社ではなく一般企業を目指す学生さんもいるわけですね。

武田:もちろん神職を目指して入学する人もいますが、基本的には神道への興味と関心が入学のきっかけとなっている場合が多いと思います。神職はたしかに世襲制なのですが、近年では社家ではない一般家庭の子弟が、神社に奉職するケースも増えています。ある一般家庭出身の女子学生は、ブライダルや神前結婚式に興味を抱いていて、「縁結び」で有名な神社に奉職が叶いました。このように、神職の門戸が一般に対して閉ざされている、というわけではありません。

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1,000人が集まる行事を学生たちがチームワークで担う

―雅楽や舞を授業に取り入れているというお話がありました。伝統文化を学んでいく過程で身についた立ち居振る舞いは、神職だけでなくどのような人にも価値がある、普遍的な学びですよね。

武田:神道文化学部では授業以外にも、成人を祝う『成人加冠式』や、名月の夜に楽や舞を奉納する『観月祭』など、さまざまな年中行事が行われています。これは、すべて学生が主体となって動きます。大規模な共同作業を見事なチームワークで運営した経験は、社会に出たときにきっと役立つと思います。

「成人加冠式」の様子

「成人加冠式」の様子

―仕事のプロジェクトにも応用できそうですね。チームワークを学んだ学生は、会社からも必要とされると思います。

武田:1,000人にも及ぶ参観者が集う『観月祭』は、半年以上かけて準備が行われる本学の一大行事です。学生は、雅楽や舞などのグループに分かれて、その道の一流の先生から、じっくりとご指導いただきます。会場の舗設、参観者の誘導や安全管理などもすべて学生が仕切ります。まさに全員参加のチームワークが、整然と展開していくのです。

―神道文化を学びたいと「まじめな学生」が多いイメージがあったのですが、お話を聞いていると、まじめというくくりは少し違うのかなという気がしますね。

武田:神道文化学部には「ノリのいい」学生が多いと思います。何かあれば自発的に集い、文字通り「お祭り感覚」でわいわい動き始めます。神道文化学部の学生は、神さまにご奉仕するという意識を共有しています。だからみんなが心を一つにして、伸び伸びと動けるのだと思います。

―神道文化学部の雰囲気や、学生の特徴はどんなものがありますか。

武田:「祭りの学部」だけあって、お祭り好きで明るい人が多いですね。「自分の好きなことを学べるので、毎日が楽しい」と言ってくれる学生もいます。とりわけ女子学生は、和の文化、和のライフスタイルに憧れを抱いて入学してくる人が多いのではないでしょうか。その憧れが、神道の学びの糸口となっていくのです。

学生たちは年中行事の運営を通じて、「日本人らしい立居振舞とチームワーク」「お祭り特有のノリの良さ」を身につけていきます。全国津々浦々で、地元のみなさんのお手本になれるような「日本人らしい日本人」、地域の祭りを盛り上げていけるような「元気印の日本人」を送り出すことが、わが学部の使命だと思っています。

「国学」創始者のように、人との出会いこそが歴史をつくる

―最後に将来を担う学生へメッセージをお願いします。

武田:「人との出会い」を大切にしてほしいと思います。私は出来損ないの学生だったので(笑)、怖い先生にいつも怒られていました。けれど、その先生と出会っていなければ私が研究や教育の醍醐味に目覚めることもなかったでしょう。先生の厳しいご指導こそが、いまの私を育んでくれたのです。

—一つの出会いがその後の人生を変えることもあると。

武田:國學院は「国学」を研究教育する学校として発足しました。「国学」は、私たちにとって最も大切な「日本」について研究する学問です。国学の大成者・本居宣長は、賀茂真淵という国学者との一晩の出会いがきっかけとなって、『古事記』の研究に打ち込んでいくことになりました。

その出会いがなければ、『古事記』の復活や、その後の日本における歴史の展開は全く違ったものになっていたかもしれません。だから私は、「出会いこそが人を作り、歴史をつくる」と考えています。みなさんの人生の行く先にも、きっと素晴らしい「出会い」が待っているに違いありません。

武田 秀章

國學院大學神道文化学部学部長・教授。1957年生まれ。國學院大學博士課程修了。神社新報社、神社本庁を経て1996年に國學院大學文学部神道科就任。

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