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「信念が対立する時代こそ論理的思考が大切」法学部の特徴を学部長に聞く

多様な価値観がぶつかりあうなか、より良い社会をつくるためのカギとは

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國學院大學法学部学部長 門広 乃里子

2017年5月29日更新

近年、技術革新やグローバル化によって、社会は変化しています。社会が変われば、その規範である法も必要に応じて変わるのが自然な成りゆきです。これから法はどのように変わっていき、法学部とその学生は、どのような役割をもつべきなのでしょうか。「『論理的思考』こそが現代社会に求められる」と言う門広乃里子法学部学部長に、成年年齢引き下げ問題から人工授精・体外授精についての議論のあり方までお聞きしました。

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少子高齢化、技術革新、グローバル化……社会が変わりゆくとき法に求められることとは

―いま日本では法律の制定や改正が頻繁に行われており、「大立法時代」といわれていますが、國學院の法学部という立場から、現代の社会をどうみていますか。

門広乃里子学部長(以下、門広):ご存じのように、法とは社会規範です。社会が変われば、法も変わらざるを得ません。では近年、社会はどのように変わったのでしょうか。私は大きく、「少子高齢化」「技術革新」「グローバル化」の3つが挙げられると思います。

まず「少子高齢化」について、団塊の世代の最高出生数は270万人近くでしたが、2015年は101万人弱で、3分の1近くまで減少しています。それに伴い、65歳以上人口の割合は、ここ30年ほどで10%程度から30%近くにまでなっています。

少子化によって18歳人口が減少し、大学全入時代を迎え、以前と比べて学生は多様化しました。そのようななか、「技術革新」「グローバル化」の影響もあって、教育の質保証、教育の機能強化が求められるようになっています。

「技術革新」については、情報技術を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、それだけではありません。私は生殖医療技術に注目しているのですが、その進歩には目覚ましいものがあります。日本では1940年代に人工授精が行われ、1983年には体外授精子が生まれました。以来、体外授精は普及し、2014年には、21人に1人の割合で体外授精子が生まれています。出生数が減っているなか、体外授精で生まれる子どもの割合は増えているのです。

技術革新は人に恩恵を与えますが、そういった技術によって生まれてきた人の法的地位はどうなるのか、代理懐胎や死後生殖のような技術の進展はどこまで認められるのか、これらのこともより広く議論して立法化に繋げていく必要があります。

―社会が変化したときに、法というのは何かしらの基準をつくり、場合によっては線引きをしなくてはならないということですね。

門広:そうです。成年年齢の引き下げ議論も、「グローバル化」により人・物・財の国際的移動が活性化したことが関係しています。日本の成年年齢は20歳ですが、海外では18歳であることが多く、若者が留学などで海外に行く機会が増えることを考えれば、世界的な傾向に合わせてよいのではないでしょうか。

成年年齢が引き下げられれば、18歳から親の同意なく契約を結ぶことができるようになります。しかし、実際には判断能力が不十分なために、不当な契約を結ばされるケースが増える可能性があるので、成年年齢の引き下げと同時に、新成人を保護するための法的な仕組みも考える必要があるでしょう。

―社会が変化すれば、その都度議論して、新たな法改正などを検討しなくてはならないということですね。

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将来は法律の専門職か、政治の世界か。学びながら考える道も用意されている「3専攻制」

―先ほど「教育の質保証」というお話がありましたが、法学部ではどのように人材を育てているのでしょうか?

門広:本学部は「3専攻制」をとっており、「法律専門職」「政治」「法律」の3つの専攻に分かれています。これは、多様化する学生のために、それぞれの志向性に合わせたカリキュラムを用意しようという考えでつくられたものです。

「法律専門職」は、弁護士や裁判官などいわゆる「法曹」になりたいという明確な意志のある人、あるいは公務員や企業の法務部など、法律の専門知識を扱う仕事に就きたいと思っている人向けの専攻です。つまり、志向性が強い人向けなので、1、2年生のうちに主要な基礎法律科目をすべて学んでもらいます。少しハードですが、それを乗り越えると、3、4年のときに卒業後の進路に合わせてマイペースで勉強をすることができます。ですから、この専攻を選んだ人は、公務員になったり、法科大学院に進学したりすることが比較的多いですね。

―なかなか大変な専攻のように思いますが、実際のところどうなのでしょうか。

門広:たしかに、学生からは「大変だ」という声も聞かれます。1年のときに主要な基礎科目の単位を落としてしまう学生もいますが、なかには、2年次で挽回し、3年生のときに成績優秀者として表彰された例もあります。若いうちはそういうふうに失敗することも、また、そこから巻き返すこともできるのですね。

といっても、大変なことばかりではありません。「いい仲間がいる」とか「教員との距離が近い」と言う学生も多くいます。勉強というのは一人にならなければできないものですが、法律の勉強をする際には、質の高い議論の場をもつことも重要です。「法律専門職」専攻では、いわゆる「アクティブラーニング」(主体的・能動的学習)を取り入れるなどして、そうした場を用意できていると思います。

―となると、「法律専門職」専攻は最初からその道に進みたい人が選ぶことが多いのですね。しかし、若い人は必ずしも将来が決まっているわけではないと思うのですが。

門広:そういう人のための受け皿として「法律」専攻があります。この専攻では初年次に、「キャリアプランニング」という授業で4年後の自分の姿をイメージしてもらい、法律の学びとは何かを考えてもらうところから始めています。授業の選択もきわめて自由で、自分の志向にあわせた科目履修が可能です。

途中から「法律専門職」や「政治」に転専攻するケースもありますが、「法律」専攻のなかで自分の志向性にあった授業を選択することで、必要なスキルを身につけていくこともできます。「法律」専攻は、そのような柔軟な授業選択ができる強みがあるのです。

法律学各分野の書籍や雑誌、データベースがそろう「ローライブラリー」

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就職ランキング9位にのぼりつめた理由とは。学生はどうやって進路を決めたのか

―『就職で見抜く!沈む大学 伸びる大学』(朝日新書、2014年)によれば、國學院の法学部は全大学の法学部のなかで就職ランキング9位ですが、これはいまおっしゃったような志向性を見つけていく過程が用意されているから、ということでしょうか。

門広:そうですね。3専攻制では、志向性にあわせたカリキュラムを選び、さまざまな授業のなかで自分の進路を見出していくことができますが、この3専攻制が導入されたのが2008年ですから、その教育の成果なのではないかと。

―法学部というと法律家を目指すイメージが強いですが、もちろん一般企業に就職する人もいるわけですよね。そのような学生にとって、法学を学ぶということにはどういった意味があると思いますか?

門広:法律や政治の知識をもとに社会問題を発見し、適切な情報を集め、議論し、解決に導くという能力は、社会生活を送るうえでも大いに役立ちます。また、法学部で学ぶ法律、たとえば民法、会社法、金融法、労働法などは、企業人にとって実際に役立つ知識です。

最近の傾向として、金融系の会社に就職する人が増加していて、全体の1割くらいいます。私のゼミ生もここのところ、年に2、3名が銀行に就職しています。金融に関する法律を熱心に勉強していた人は、その知識を活かそうと考えて銀行や証券会社などに就職することが多いようです。また、過去4年間のデータをみると、法学部の学生の10%程度は公務員になっています。

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公務員にふさわしいのは、公に奉仕したい気持ちがある人。安定を求めるだけでは成功しない

―一般的には、公務員は安定の象徴のようにみられていますが、公務員を目指す人は、やはり安定した生活を送りたいという考えなのでしょうか?

門広:どちらかといえば志の高い人、つまり「公に奉仕したい」「人の役に立ちたい」という気持ちがある人が多いと思います。もちろん、安定を願う気持ちは誰しももっていると思いますが、それだけでなれるほど公務員という仕事は甘くないようです。公務員試験には面接もあるので、そういった内面は見透かされますよ。

ひとくちに公務員といっても、厚生労働省、国土交通省、金融庁、宮内庁、内閣府、裁判所事務官など、道はさまざまです。市役所や区役所などに就職した人も多いですが、なかには地域のスポーツ振興の仕事に関わることでまちづくりをしたいという人もいましたね。

―「公に奉仕したい」という気持ちは、在学中に獲得するのでしょうか。それとも、はじめから公務員を目指して学生生活をスタートしているのでしょうか。

門広:人によりますね。入学前から目指している人もいれば、在学中に、公務員として活躍している人の話を聞いたりすることで、公務員を目指そうと決意する人もいます。本学部では、公務員試験合格者に合格体験を話してもらう機会を設けているのですが、実際に夢を叶えた人の話を聞くと、学生はモチベーションが高まるそうです。

また、行政学の授業などでは、地方自治体の人に実際に話を聞き、仕事を見てレポートを書くといったフィールドワークを行います。そのような経験をすると、具体的なイメージが湧いてきますよね。法学部というと抽象的な小難しい勉強ばかりしているイメージがあるかもしれませんが、じつは具体的な事例から学びを始めることが多いのです。そういった学びのなかから自分の進路を選ぶヒントを得るということは、よくあります。入学後に進路を決める人も多く、公務員になる人は、専攻の別を問いません。

―最初の専攻で進路が決まってしまう、というわけではないのですね。

門広:もちろんです。専攻によってではなく、その人の「想い」によって進路は決まるということだと思います。学生が授業を横断的に履修していくなかで自身の志向性や「想い」に気づき、その想いを継続して持ち続け、そして将来に結びつけていけるよう、今後もカリキュラム、学修支援体制をよりいっそう充実していきたいと思っています。

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価値観の多様な現代社会でこそ、法学部で身につく論理的思考力は重要

-「國學院で法律を勉強したからこそ、卒業後にこうあってほしい」という願いはありますか。

門広:やはり、本学の理念である「日本人の主体性を保持した寛容性と謙虚さの精神」をもって、大学生活のなかで育んだ知見とそれを表現する力を活かし、よりよい社会の形成に参画する人になってほしいと思います。

2017年度に実施した卒業生アンケートに、「在学中に身につけておけばよかったと思う能力は何ですか」という質問項目があるのですが、「プレゼン能力」「議論力」と回答する人が非常に多かったです。われわれはいままさに、学生の主体的・能動的学習を促すような授業を「法律」専攻でも広く取り入れることで、そのような能力を磨こうとしています。

-自分のなかで思っていることを抽象的に理解できていても、それを人に伝えるときには、具体的な言葉に落とさないといけないですよね。議論する能力は重要だと思います。

門広:そうですね。そして、議論力の前提として「論理的思考力」が必要となります。法学部の学生は、授業にきちんと出ていれば、自然と論理的な思考力が身につくと思います。社会で起きた事件について、条文を当てはめて法的解決を図るというのが、「法的三段論法」です。

そこでは、法律の基礎知識は当然知っておかなければならないのですが、条文については「六法」をみればいい。むしろ問題となるのは、法律を適用するときに必要となる「解釈」のしかたです。解釈には人それぞれの価値観が関わってきますから、価値観が多様化する現代社会においては、解釈に対立が生じます。そこで議論して互いの主張点を明らかにし、論理的に結論を導く必要がある。そのように思います。

―まさに憲法の解釈問題などにもいえることですね。

門広:そうです。現代社会は、グローバル化によって国境を超えた人の往来が頻繁となり、文化・宗教など背景の異なる人々の交流が活発化し、多様な価値観がぶつかりあうようになりました。今日、反グローバルのうねりもみられますが、そのようななかで問題を解決するにあたって、感情的な意見に終始しては、単なる信念の衝突にすぎず、何も生み出しません。

本学部の学生には、多様な価値観を尊重することのできる寛容性をもって、豊かな教養と確かな知識を身につけ、論理的思考に裏づけられた議論力を活かし、社会で活躍して欲しい。そのような願いを込めて日々の教育にあたっています。

門広 乃里子

國學院大學法学部学部長・教授。1954年生まれ。1978年上智大学法学部卒業。1984年上智大学大学院法学研究科博士後期課程単位修得。2005年、國學院大學法学部法律学科に就任。

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