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歴史 X IT トークセッション
キーパーソン:國學院大學教授 田原裕子
モデレーター:シブヤ経済新聞編集長 西 樹

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國學院大學教授 田原裕子ほか

2016年4月25日更新

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ー田原先生、失敗の経験は?

田原:それが、どうも研究では割と要領がいいというか、ノーリスク・ノーリターンな研究をしていて、これというようなすごい失敗はあまりなくて…。吉永さんの話をうかがって、「単に気が付いてないだけ?」「本当は失敗しているんじゃないか?」と今、落ち込み気味です。でも反省は後に回して、楽しくお話ししたいと思います。

ー吉永さん、矢部先生の歴史家のアプローチで失敗についての話をお聞きになった感想は?

吉永:先ほどのスライドの中にあった「越度」という漢字で、度量を越える、越える度って書くのは結構意外だなと思いました。度量を越えているものが失敗というわけではないとは思っています。ただ、度量を越える、自分の力量を越えるシチュエーションは、あまた発生していると思っています。その時に、逃げ出すわけにはいかないので、やるんですね。やったことが失敗になることもあるし、成功することもある。その時は、すごく怖いのですが、それを乗り越えると、自分の越えるハードルがある意味下がるというか、そこが下限です。なので、度量を越えるものを経験した方が、度量が上がるというのは、あると思います。

ー矢部先生、吉永さんの経営からのアプローチはいかがでしたか?

矢部:今日の話は集団を率いるリーダーというところで、戦国武将にも非常にリンクする話だと思います。先ほど越度という例で出した、秀吉が秀次を小田原出兵の時に怒ったりするケースですが、なぜ怒るかというと、武将はその下についている何百人という人たちの命をいわば預かっているわけですね。そういう人たちの命を危険にさらすような選択が越度と捉えるというケースがあるので、会社経営においても、リスク回避という考え方は時代を超えて通じるものがあるのかなと思って話を聞いていました。

ー失敗という言葉が江戸時代には無かったことにも驚きました。

矢部:字が、失って敗れるなんて。中国の古い漢文とかにはあるかもしれませんが、日本ではなかなか浸透しない表現だったと…。

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ー会社経営だと諦めたら会社がつぶれる場合があります。だから諦め時がすごく難しく、やはり踏ん張るしかないけど、踏ん張った結果、また傷口を大きくすることもあり得るわけですよね。

吉永:そうですね。今日、自分で言っておきながら、じゃあ守っているかというと守ってない部分もあるのかと…。例えば、当社で取り組んでいる複数のプロダクトのうち、何となくやめようかと分かっていながら、やめられていないものがあります。それは、まだアラートに気付いていないかもしれないし、気付きつつも、それをやめることを決断できていない部分もあったりします。そういう意味では、失敗を認めると自分で言っておきながら非常に難しい。

ー矢部先生、先ほど2ちゃんのコメントが一つの励みになったとうかがいましたが、それ以外では、どういったものをアラートとして捉えていらっしゃいますか。

矢部:歴史の研究は最終的に自分の個人との闘いなので、公にするときには最終的に文字で論文にします。いきなり文字になるのは怖いので、例えば研究会とかで考えている状況をプレゼンします。そこには何人かの研究者がいて、この資料の読みは違うんじゃないかとかリアルなアラートを発してくれる。音声の世界なので、そこでのやりとりは基本的には消えるものとして、大事なのはメモして次の研究に、ちゃんと反省して修正できるかというところだと思います。

ー逆に、経営者は少し孤独なところがあって、今考えていることをあまり他の経営者にオープンにしにくい面がありますね。

吉永:最初は私もそうでした。ただ最近は、メンターという位置付けになるのかもしれませんが、株主の企業の方々に相談することが増えました。会社が少しずつ大きくなる中、予算なども規模が大きくなります。そうすると、ちょっと間違うと大きなマイナスになったりするので、そういった時に自分以外の意見を聞くことが大事になってくる。社内だけだと、「みんないいよね」となりがちです。客観的な意見を聞くために、あえて社外に聞きに行くということをやります。

ーそういう仕組みをあらかじめつくっておくことも、これからの経営者に求められる力なのかもしれませんね。

吉永:ある会社では失敗を社内でドキュメント化していて誰もが見られるようにしているというのを聞いたことがあります。それによって、失敗という事実が重要なんじゃなくて、失敗からどうしたのか。こういうとき、あの会社の社長だったらどういう決断をするんだろうと思う時がよくあります。なので、そうしたドキュメントはすごく重要だと思います。

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ーこれからは総じて、失敗に前向きに向き合っていた方が、いいことにつながりそうですね。

吉永:ただ、自分自身も含めて、失敗に対してどうしてもネガティブな印象があります。それを次に生かせる会社をどうつくるかというところを意識しないとチャレンジができなくなってしまう。新たなプロダクトをつくろうという気になれない、守りに入ってしまう…。守りに入ったらベンチャーではなくなります。そこのプロセスを、次に生かせる土台を会社でどうやってつくってあげるのかというのは重要視したいところです。

ーその辺り、矢部先生はいかがですか?

矢部:僕は普段、禁句として「忙しい」「時間がない」というネガティブなことは言わないで、むしろ「やることがいっぱいある」と言って自分を鼓舞しています。大きな失敗をしてしまったことも、裏を返せば大きな仕事を任されているということ。若い時は小さな失敗ばかりですが、そのうち段々大きな失敗をしてきたら、「自分も、そこまで来た」と考えればポジティブにいけるんじゃないかと。

ー田原先生は英語の使い分けが気になるとおっしゃっていましたね。

田原:今日の場に備えて、まず「失敗」の定義を調べてみました。いろいろ辞書を引くと、日本語も結構いろいろあります。「失敗」もあるけど、「失態」「落ち度」「しくじり」…微妙に違います。英語でもfailureはlack of successで、mistakeの方が、誤ったやり方でやってしまったというようなことで、その辺りが「頑張ったけど駄目だっただけ」というのと「やり方が間違っていた」というので使い分けがあるなと。でも「失敗」と「失態」を比べると、「失態」は、すごくぶざまな感じ。でも「失敗」だともうちょっと、「予定通りにいかなかった」という書き方をする辞書もあり、ちょっとポジティブなのかなと。やっていたけど運が悪くてできなかったという感じです。

ーアメリカのMBAなどでは、失敗して後悔するよりも、やらなかったことの後悔の方がはるかに大きいと教えるそうです。矢部先生は取りあえずチャレンジしてみる方ですか。

矢部:そうですね。アイデアの勝負なので、せっかく思いついたアイデアを自分だけのものにしておくのはちょっともったいない。

ー歴史の中でのアイデア…ちょっと新鮮ですね。

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矢部:歴史の見方です。歴史に対する新たな見方というアイデア。自分の思いついたことがより真実に近いだろうと思ったならば、それをいろいろな証拠を積み重ねて、例えば、「これが、本当に秀吉が考えていたこと」ということを明らかにするのが、アイデアを具現化するというか、文章で表現することです。

ーそういう意味では吉永さんも、失敗を恐れずにチャレンジする人を採っていくということですか?

吉永:言葉ではそう言いますが、本当にそれができるかどうか…。今日お越しいただいている方の中には役職があってマネージャーの方も多いと思います。マネージャーの方が失敗を認めて、部下の人たちにそれをきちんと託すというわけではなく、大事なのは次につながるよう導いてあげられるかどうか。「失敗してもいいよ。責任は俺が取るから」と言いますが、その責任とは何でしょうか。社長がよく言いますが、責任って謝ることだと思うと結構簡単なんですね。その責任というのも結構難しくて…。

ー今日はいろいろと失敗の話をうかがっていますが、今日のキーワードの一つが「越度」です。

矢部:下ではなく、上を目指すイメージですね。

ーそうです、逆の感じです。でも「越度」をコンプリートするためには自分の器を知らなきゃいけない。その辺り、矢部先生は自分の器をどのようにして捉えていますか。

矢部:いろいろな尺度で測っていますが、例えば急に頼まれた原稿の量が1カ月で100枚原稿を書いてと言われて、無理だと言ったのですが、「そこを何とか」「じゃ、やります」と言って一生懸命やってみたら意外にできた。多分それが自分にとっての限界。それまでは無理だと思っていたけど、限界がちょっと上がった。リミッターがちょっと外れて自分はここまで行ける。ただそれは相当「越度」だよねと。

吉永:今日の私、引き受けて良かったですね(笑)。ちょっと上がったと思います。自分のビジネスの分野じゃないところで、こうやって話をさせていただく機会を頂いたのは、自分の今までの違う部分の度量を越えられたのかなと思います。

ー田原先生は、まだまだキャパシティーがありそうですか。

田原:まだまだ成長株だと思っていますので(笑)。たくさん度を越えて仕事を引き受けて、いろいろ失敗もしているのですが、次の仕事が来ているうちは意外とオーケーかなと。失敗はしていても、まあ許してもらえているのかなと…。

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吉永:確かに、声を掛けられているうちが花かもしれませんね。

田原:そうですね。

ー今日は「歴史×IT」ということで、非常に距離間のあるアプローチから「失敗」を見てきました。そこで最後に、失敗と向き合うヒントを頂きたいと思います。矢部先生からお願いします。

矢部:僕は行動の結果が成功なのか失敗なのかという話をしました。戦国に戻ると、「行動」という字の「行く」という字は「手だて」と読みます。動くという字、行動の「動」は、実は「働く」ということです。両方とも何を意味するかというと、行動の「行」、「手だてを講ずる」と言いますが、これは軍事行動を意味していて、「上杉が武田に手だてに及んだ」とかいうのは戦争を仕掛けるということ。一方で、「比類なき働き」「見事なる働き」という「働」という字は、これも実は戦争、戦闘行為を意味します。だから僕は卒業式とかで、中世のゼミの学生には「お前らはこれから働くんだ。働くというのは戦うことだ」と伝えています。今日、皆さんに戦国エリートの思考回路と言ったのは、皆さん一人一人が、命は懸けなくていいのですが、一応戦国を戦っている。現代というのは戦国を戦っている。僕も、失敗も成功もあって、それも表裏一体だと思うので、とにかく行動を起こし、あとチャレンジし、そこにアイデアと勇気を持ってやるというのが大切なのかなと思います。

吉永:矢部先生の話が素晴らしかったので聞き入ってしまいました。私が言いたいことは、失敗に対してアラートに気付くということです。今日お越し頂いている皆さんはマネージャー職の方が多いとお見受けしていますが、部下からのアラートを、アラートだと気付くことが重要で、それを認めるということなのかと。なので、私自身も含めて、そこを意識していきたいなと思っています。

田原:今日、こういうことがテーマになるということは、失敗というものを恐れたりする文化が日本にあるのかなと思います。特に若い人たちにはあるのかなと思っています。逆に言うと、失敗するのは才能というところがあるので、これからも若い人も私も失敗をしながら、度を越えて成長していきたいなと思っています。

ー本当に今日は気付きが多かったのですが、「度」を「越」えてやってみることも次のステップアップにつながると思いました。失敗を恐れて前に動かないと後悔が残りそうな感じがするので、大きな失敗をすることを前向きには考えませんが、失敗というものがどういうものかということをよく知り、われわれも普段の行動に反映して、今日を機会に失敗と前向きに向き合っていきたいなと思いました。皆さん、知見のあるお話、ありがとうございました。

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