最初に私自身のご紹介と会社のご紹介をさせていただきます。当社はネット上で広告を配信するビジネスを手掛けています。キーワードで言えば「ネイティブ広告」と呼ばれるものです。当社はネイティブ広告という仕組みのプラットフォーム化を日本で初めて実現した会社です。
私自身、いろいろな失敗を積み重ねて今に至っています。正直、失敗の数で言ったら数えきれないぐらいあるんじゃないかと。今日のお話を頂いた時、あらためて自分自身で「失敗」について考えてみました。しょっちゅう考えているわけではありませんが、結果的に、やっぱりこれだなと思っているのが、「失敗は認めて初めて失敗なんじゃないか」と。
おこがましいのですが、失敗は自分で認めなければ、別に誰が何と言おうと失敗のうちにカウントしなくてもいいのかなと思っています。会社に大きな損失を与えても、大きな失態をしてしまっても、いやいや、全然失敗じゃないって自分が思えば失敗じゃないと。
ただ、逃げてばかりいたら会社も、チームも、個人もうまくいかないので、あらためて失敗について考えてみると、「失敗というものを認める」こと、「認めて初めて失敗になる」ということ、これを意識することが重要ではないかと思いました。
会社を経営してきた中で今日は、その失敗体験から得た教訓についてお話をさせていただきます。
起業時の苦い経験
会社は今年で10年目になりますが、最初の3年間は実家の一角にオフィスを構えていました。同時に、その時私は学生の身分でもありました。エンジニアリングをずっとやっていたので研究室に入り、IT系というかネットワークの研究をずっとしていました。そんな中、修士課程に行って、その後に博士課程へと進みましたが、博士課程に結構長くいたので、社会との接点をちょっと持たなければいけないなと思いました。
その時は、ちょうど2006年。インターネットでWeb2.0というキーワードが流行っていて、インターネット上のサービスをつくれば何か当たるんじゃないかと思いました。何か当たれば、きっとでっかいビジネスになってお金が入ってくるんじゃないかと…すごく安易な考えで起業したのが2006年です。
今思うと、起業の目的が、社会との接点を持ちたいとか、インターネットで何かをつくれば、発表すれば自然と会員が増えて何か儲かるんじゃないかとか、すごく漠然とした考えの中で起業してしまったというのが、今思えば非常に苦い経験であり、失敗だったと思っています。
一人では会社は成り立たない
当時、loglyカレンダーというカレンダーサービスをやっていました。2006年の時点では、カレンダーサービスは実はあまりなく、当時は個人が使えるカレンダーというとYahoo!カレンダーぐらいしかありませんでした。
もう少し使い勝手のいい、簡単に使えるカレンダーができないかなというので、Web2.0という名の下にカレンダーを作って世に出しました。そうしたら、当時はみんなが騒いでくれて、loglyカレンダーがいろんなメディアに取り上げられ、私も複数のメディアからインタビューまで受けました。要はちやほやされてしまったんですね。会員数も当時から数年かけて10万人ぐらいになったのですが、3年間たっても、このカレンダーからは一切お金が入ってきませんでした。
当時はちやほやされてしまい、失敗とは全く思っていなかったので、「3年たって会員がこれだけいるんだからいいじゃん」としか思っていなかった。ただ、会社として、ビジネスとしてやっているのであれば、お金が入る仕組みをつくらなければ、世の中に対して一切還元できない。還元できない会社は、やはり会社ではないと思いました。
同時にその時に思ったのが、loglyカレンダーをやっていたのが、ほぼ1人だったことです。つまり3年間、1人で無収入のまま、カレンダーサービスを作り続けていて、会員数は増えてサーバー代はかかるのに収入がほぼゼロになってしまっていると。
私自身はモノを作ること好きで得意としていましたが、これを売り込むとか、マーケティングするとかは一切不得意で、逆にもしかしたら、その時に自分が営業というスキルがあったらこれを売ることを考えていたかもしれません。けれども私自身はそのスキルはありませんでした。
これもあらためて今思うと、何か自分でやりたいことがあった時に、必ずしもそれが1人でできるものじゃないんだなと。自分に足りないものがあることを常に心掛け、必要な人であったり必要なモノであったりというものは早期に迎え入れるべきだと思うようになりました。
今思えば、3年間1人での起業時代があったから、こうしてお話ができますが、もし自分がもう一回起業するとしたら、まず目的をつくります。何のための会社をつくりたいのか。その上で、それを実現するためには何が必要なのか、どういう人材が必要なのかというのをきっと考えるんじゃないかと今は思います。
共同特許の罠
その次の失敗談です。これも先ほどの創業当時に近い時の話です。私自身、もともと研究が好きで、技術が好きで、プロダクトをつくることが好きだったので、ずっとある技術を作っていました。その技術を少し広めていくためにはお金と人材が必要だなと思いました。当時は1人でやっていた時から複数になった段階なので、お金が必要だと思ったのです。その時に、「そのシステムでこういうものを作ってほしいので、システム依頼費も出します」と、私にとっては特許を出す以上にお金が入ってくるという魅力的な話でした。
当時はお金が無いので、これにすぐ乗ってしまいました。結果どうなったかというと、最終的に相手の会社に全部特許を譲ってしまいました。後々いろいろ聞くと、この技術がベースとなって、その会社は結構成長しているとお聞きしています。もちろんそうしたことを見抜けなかった自分自身の大きな失敗なんですが、自分たちがやりたいことがあるものに対して、目先の事だけで選択してはいけないというのを、この時初めて学びました。これも後になってから「失敗だな」と思ったわけです。
一歩踏み出せない自分がいた
その次の失敗談、これもだいぶ長きにわたって行ってしまった経営スタイルだったのですが、私、すごくケチなんですね。社長という響きから、大盤振る舞いしていそうなイメージがあるとよく言われますが、私自身は石橋を叩いて渡るタイプです。自分たちがあるプロダクトをつくろう、サービスを作ろうと言っているにもかかわらず、一歩踏み出せない自分がいました。
例えばそのとき、数千万円のお金が通帳にあるだけで安心できます。安心できるものを手放したくないという思考が働いてしまって、自分たちでこれを作って変えていこうというふうに口では言っているのに、行動できない自分がいました。そういう経営スタイルをやっていると、会社のメンバーから「吉永さん、何でこれをやろうと言っているのに、そんなに歩みが遅いんですか」ということを言われてしまいました。
その時、私はケチケチ経営をしていると分かっていたので、会社のお金も大事なんだからと、ずっと思っていました。でも今思うと、必要な時に必要なタイミングでお金を使わなくちゃ意味がないし、そこにいる人たちにとって、何のためにその人たちがわれわれの会社で働いているのかということを考えると、やっぱり必要な行動をすべきだなというのがその時思った次第です。今の経営スタイルでは、必要なタイミングで必要なお金は集めて、必要なところに投資はしようとは思っています。
失敗を自分で認める
今、四つほど私の失敗談をお話させていただきました。今回のこの登壇をきっかけに考え直してみた時に、やっぱりそうだなと思っていることが、失敗を自分で認めることが一番重要なんだなと。私自身もやはり認めたくないんですね。認めたくないし、無視したい。けれども今の会社にとってみたら、私が認めなかったら誰も認めないし、自分が損するだけだなと思って、気付くようにする、認めるようにするということを意識しています。世の中でもよく言うように、失敗は積み重ねれば積み重ねるほど経験になっていることは間違いないかなと思っていて、私自身も数々の失敗から新しい道を見つけることができたのかなと思っています。
今日のテーマ、「どうすれば失敗の影響が小さくなるのか」と考えた時、「まず失敗と認めることでしかない」と思っています。
例えば、何らかのKPIで追っている数字があまりにも芳しくないと、こうなった時に芳しくないでしょうと言うだけではなくて、「こうこうこうだから、こうなんじゃないですか」とか周りが言ってくれます。そこを自分なりに、失敗じゃなかったとしても修正できる、軌道修正できるという考えをその都度、その都度持つように心掛けるようにはしています。
リーダーの役目とは?
会社を経営してきた中で今日は、その失敗体験から得た教訓についてお話をさせていただきます。 とは言え、それでも、やってみてこれは失敗だなということはあまたあります。失敗というものに対して、すごくマイナスなイメージを持たれてしまうというのは日本文化的にあるのかなと。一方で私が心掛けているところとしては、マイナスとして思ってしまうと、みんながマイナスと思うから次にやらなくなる。じゃ、そこをどう変えるかというのは、リーダーが失敗というのをきちんと認めてあげて、その上で、決して怒るわけではなく軌道修正をかけてあげたり、失敗というものを次につながるステップアップにしてあげる。これがリーダーの役目なのかなと…。
リーダーは、「評価をしなさい」「評価をしてあげましょうね」ということをよく言われます。評価をするためには、失敗というものを決して怒るのではなくて、その失敗から次のステップアップを助長させてあげるということがリーダーの役目なのかなと思います。
ですので、上から目線で非常に申し訳ありませんが、もしリーダーの方、マネジャーの方がいらっしゃったら、部下の失敗はぜひ認めてあげてください。自分で言っているぐらいなので、私もこれから、今以上に、今いるメンバーたちの失敗を認め、それを次のステップアップにつながるような会社にしていきたいと思っています。
どうもありがとうございました。