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秘められた神の舞、今や地域の目玉に

「神楽舞」は、なぜ地域の資源なのか(その1)

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経済学部准教授 山本健太

2015年7月1日更新

地域活性化の観点から神楽舞を研究する山本健太氏は「神楽は地域資源」と語ります。神楽舞を観光資源にする試みの一方では、「本来の神楽か ら離れていくのではないか」と懸念の声もあります。日々の生活と文化継承の間で揺れ動く地域の人々。「神楽」を通じて、地域資源とは何か、見つめていきます。
制作・JBpress

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神楽舞の様子(写真はイメージです)

天照大神(アマテラスオオミカミ)が隠れた天岩戸の前で、天鈿女命(アメノウズメ)が舞ったのが、その起源とも言われている「神楽舞(かぐらまい)」。

神楽は、神社の祭礼で神様に捧げる歌舞であり、宮崎県の「高千穂神楽」、島根県の「石見神楽」、長野県の「太太神楽(だいだいかぐら)」など、日 本神話に縁のある地をはじめ、全国各地でさまざまな神楽舞が継承されています。この神楽舞を「地域性」の観点から研究する、新たな試みがあります。

國學院大學経済学部 准教授の山本健太氏は、経済地理学を専門とし、特定の業種が特定の地域に集まる「産業集積」などの研究に携わってきました。山本氏は、神楽は「地域資源」だと語ります。ただし、それは、観光資源だけを指すわけではありません。

急速に過疎化が進む地方では、「神楽」を観光資源にし、多くの人に触れてもらおうという試みがある一方で、観光資源にすることで「本来の神楽から 離れていくのではないか」と懸念する声もあるようです。「神楽」を受け継ぐ人々は、その舞にどのような思いを重ねているのでしょうか。

地理学から「神楽」に迫る

経済地理学を専門とする山本氏は、県立広島大学准教授の和田崇氏と共同で、神楽についての研究をしています。山本氏は、なぜ「神楽」に注目したのでしょうか。

ー博士(理学)で地理学を専門とする山本先生が「神楽」を研究されていると聞いて、意外に思いました。

山本氏:地理学って、ものすごく幅が広い学問なんです。たとえば、経済活動とその土地の関係をみる経済地理学や、疫病の蔓延の仕方を調べるような疾病地理学、宗教地理学、歴史地理学、地図学、地形学・・・など、自然・経済・社会・文化、あらゆる事象を対象とします。

地理学の学位については、東日本で取得すると「理系」、西日本で取得すると「文系」となることがあります。旧制大学の時代に、東日本の東京帝国大学が地理学科を理学部に位置づけ、西日本の京都帝国大学が文学部に位置づけました。これには、そういった名残があるようです。

ー地理と事象の関係を解く地理学の視点で、神楽を調査されているのですね。

山本氏:近年、地方を活性化させようという動きが盛んです。各地方が、独自の地域資源を見出そうと頑張っています。その1つが「神楽」なのです。

「地域の神事を観光資源として売り物にするのは、いかがなものか」といった風潮もありますが、特に過疎地域では、背に腹は変えられないほど、差し迫った現状もあります。そうした状況で、神楽を観光資源化している地域がいくつかあります。それは、果たして「本当に地域のためになるのか?観光資源化することによって、地域はどう変わったのか」。そういったことが気になって、この研究を始めました。

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山本健太氏。國學院大學 経済学部 准教授博士(理学)。東北大学大学院理学研究科博士課程修了。九州国際大学特任助教、同助教、同准教授を経て現職。専門 は、経済地理学、都市地理学。研究テーマは都市型文化産業の集積構造に関する研究。特にアニメ産業、プラモデル産業などのカルチャー産業の産業集積の研究 を行っている地理学の専門家。

ーこれまでに、神楽の研究はなかったのでしょうか?

山本氏:伝統文化の保存、舞の分類、舞手の心理的側面、身体表現などさまざまな視点から研究はされてきました し、ないわけではありません。でも、「地域活性化」という視点では、まだまだ研究の余地があると思っています。私がやっている研究は、人文地理学、とくに 経済地理学の部類になりますが、そこに学術としての新規性もあると感じています。

「神事」と「観光用」を両立する高千穂

宮崎県・高千穂町。この地には、高千穂神社や天岩戸神社など古事記ゆかりの神社が点在し、神話の町としても有名です。また、「高千穂の夜神楽」は国の無形文化財に指定されていて、高千穂町は、神楽舞の観光資源化に成功した代表的な事例の1つだと言われています。

山本氏:高千穂町は昔から「天孫降臨の地」の有力候補地として知名度も高く、神楽を観光資源化する動きに対しても、比較的、柔軟に対応してきました。無形文化財の登録に向けた働きかけがあったように、かねてから、高千穂神楽を町の目玉にしようという動きがありました。

高千穂町で興味深いのは、「神事」としての神楽が残っていて、それとは別に「観光客向け」の神楽もやっている、二足の草鞋を履いていることです。 神社には、本殿や拝殿以外に「神楽殿」という建物がありますが、高千穂神社では、そこで観光客向けの神楽舞がほぼ毎日、行われています。

ーなるほど…。だから私も以前、高千穂で神楽を見ることができたのですね。

山本氏:高千穂町の「神楽」は単なる観光資源なのではなく、観光で訪れた都市部の人たちに「神楽」という地域の伝統文化を知ってもらう良い機会にもなっています。そして、「観光用」ではない神楽が全て非公開ということではありません。「御神楽」といって、一般には公開されず、宮中で神に対してのみ奉げる舞のほかに、「里神楽」といって、地域の構成員が「氏子」として、毎年、地域の神社の神様に、五穀豊穣などを感謝して奉納するものがあります。里神楽は、田楽や歌舞伎にも結び付いていって、地域の人が見て楽しむ「祭」に発展していきました。

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天岩戸神社の神楽殿(提供:國學院大學)※天岩戸神社の神楽殿では、観光用の神楽は行われてはおらず、例祭を行う際に使われている。

地域の人による、地域の人のための「里神楽」

高千穂神社では、夜神楽の見どころを収めた1時間のダイジェスト版を、ほぼ毎晩、奉納していて、観光客も神楽に触れることができます。では、本来の夜神楽とは、どのようなものなのでしょうか。

山本氏:私は「里神楽」に注目しているのですが、里神楽は、地域の1年の労をねぎらう役割もあり、地域のコミュニティの維持においても重要な意味合いを持っています。

ー「里神楽」も神社で舞うのですか?

山本氏:神楽には、色々な舞い方があって、神社で舞う以外にも、「神楽宿」での舞もあります。私が調査した高千穂町の神楽では、毎年、持ち回りで各集落に順番が回ってきて、その集落の誰かの家で神楽を舞う場を提供します。

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神楽宿となった民家(画像提供:山本健太氏)

里神楽では、日本神話を題材にした33番ある夜神楽を全て舞います。奉仕者(ほしゃ)と呼ばれる踊り手は交代しながら、夜から翌日の昼前まで、 ずっと踊り続けるんです。この夜神楽も、集落によって、少しずつ違いがあります。高千穂では、この神楽宿での夜神楽を見学できるところもありますよ。

運よく残った「伝統」をどう生かすか

急速に進む、農村の社会構造の変化「過疎化」。継承者がいなくなれば、その地域の文化は失われてしまいます。その中でも、受け継がれてきた神楽を、未来にどのように繋いでいくべきなのでしょうか。

ーなぜ特定の地域だけに、神楽は継承されているのでしょうか?

山本氏:神楽に限らず、その地域に特有の文化が「なぜ残ることができたのか」、その理由を断定するのは難しい ところです。地域に働く場があったために、継承者となる人々が外に出ていかなかったとも考えられますし、都市圏の拡大により、ベットタウン化した町に新た な住民が入ってきて、うまく引き継がれた可能性もあります。

地域によって要因はさまざまだと思いますが、残念ながら、文化が廃れた地域もたくさんあります。これまで継承できたことで、今まで資源として捉えていなかったものが、実は「地域資源」になるんだという再発見があるわけです。

この資源が何を指すかといえば、1つは観光資源です。観光とは、空間の消費です。観光客がその地域に求めているイメージなどを地域の側が提供し、観光客がそれを消費するのです。

一方で、観光資源化することで、文化の「本質を失うのではないか」と懸念する見方もありますが、一概にそうとも言い切れません。観光資源化することで地域が活性化し、神楽を継承する若者が地元に残ったり、外からやってくるきっかけにもつながります。また、観光資源にすることが資源化の全てではあり ません。神楽がコミュニティを維持するための場・きっかけとして重要な役割を担っているものもあります。

山本氏は、高千穂町の隣町である日之影町にも足を運んでいます。日之影町は、神楽の資源化について、高千穂町とは立場が異なるようです。

地域資源としての神楽舞を「観光資源」、「地域コミュニティの振興」という視点から、どのように生かしていくべきなのか。続編では、山本氏が実際に現地調査を行った日之影町の神楽や、「新舞」を演目に取り込んできた広島の神楽について、より詳しく紹介していきます。

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