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「問い直す」学びを大切に

針本正行新学長が語る新時代への思い

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学長 針本 正行

2019年4月1日更新

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 今月、本学教学の責任者としての一歩を踏み出した針本正行学長(文学部教授)。4年間の任期中には創立140周年を迎えるなど、本学の運営に多くの重要な責務を担う。國學院大學の特色ある教育研究の在り方として、物事の「淵源を探る」学問を大切にしたいと語る新リーダー。人工知能(AI)が発達する社会にあって、「問い直す力」の大切さを説く新たなかじ取り役に、新学長としての抱負を聞いた。

――大学教育を取り巻く社会環境が変化する中、学生に求めたい力は

 AIが急速に進歩する時代にあって、人がどのように生きる証しを立てるかが問われています。人の営みの中で大切なことの一つは「思考する」ことです。AIが進化するほど、人はすべてを機械に任せ、考えることを放棄する危険性をはらんでいます。大切なことは、人がAIを手段として活用することができるかどうかです。AIをどのように活用し、人の営みに資するようにしていくかは、やはり人が考えることです。AI時代であるからこそ、人は与えられたデータを疑って自分で確認し思考することが求められているのです。

 大学は学びの場であり、知を探究する空間です。正解のない問題を提起された際に、与えられた条件の中で自ら資料を分析して考え、時に実験やフィールドワークをし、答えを導き出す能力がより必要とされます。「社会人基礎力」や「学力の3要素」などともいわれるこうした能力を持った人材を、社会は求めています。今やデータベースを調べれば簡単に探しものを見つけられますが、調べる過程で無意識のうちに探しているものとは違う情報や資料に触れることも大切だと感じています。私は、この「寄り道の学問」がAIにより阻害されることを危惧しています。これからの大学教育は、学生が既存の知識や与えられたデータをうのみにせず、主体的に思索する精神性を学べる場でありたいと考えています。

 例えば、言葉の意味に正解が一つしかなければ、いつの時代も辞書や辞典がたくさん出版されることはなかったはずです。小・中・高等学校の学習の中で教員の話や教科書に載っていることが唯一の「答え」だと思ってきた学生が多いのではないでしょうか。大学での主体的な学びの中で、学生にはこれまで「正解」とされてきたことを素朴に疑い「問い直す力」を養ってもらいたいと切に願います。

――3年目を迎える「21世紀研究教育計画(第4次)」についての考えは

 今年度、5年計画の3年目にあたり、修訂版を策定することになります。計画の実現に向けて推進していく所存です。中でも、第4次計画では将来像に「人文・社会科学系の『標(しるべ)』となる」と掲げています。この将来像の示すものは、「世界の標」となる大学であることにつながると捉えています。世界の学生に、「國學院大學で学ぶと、他者とのかかわり合いの中で自国の文化、他国の文化や歴史、精神性を学ぶ方法が実感できる」「日本人の精神性を学ぶことこそが、世界の問題の解決にもつながる」と思ってもらえるような大学づくりに努めたいと考えています。

 第4次計画の教育目標には「主体性を持ち、自立した『大人』の育成」を掲げています。「大人」とは「考える力」「悩む力」「多様性を受け入れ生き抜く力」と置き換えることができるでしょう。私はそこに、「問い直す力」を加えたいと思います。つまり、「自分が蓄積してきた知を素朴に疑い、新しい知の発見に挑み、他者とのかかわり合いの中で新しい自分を模索し、発見する力」です。「問い直す力」は、在学中だけではなく年齢を重ねても必要なものです。

 渋谷キャンパスでは建設中だった新校舎「総合学修館(6号館)」が3月に完成しました。総合学修館は、正課、課外を問わない「学ぶ空間」を目指しています。また、たまプラーザキャンパスにも新校舎として6号館(仮称)を建設中です。こちらは体育施設を主体とし、来年3月の完成を予定しています。

 平成14年度に文学部から神道学科が独立して神道文化学部になり、平成21年度には人間開発学部が誕生しました。この20年間に2つの学部が設置されたわけです。新しい学部ができることは、既存の学部に刺激を与えることになると考えています。新学部構想は、歴代の学長がそれぞれの思いを込めてきましたから、学長にとっては宿命的な課題です。私も建学の精神を踏まえながら、新しい時代を見据えた学部を構想し実現したいと念じています。

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――國學院大學として、こだわりたい教育は

 國學院大學の母体である皇典講究所の初代総裁の有栖川宮幟仁親王は、明治15年11月の開校式で教職員、生徒に対し、「凡學問ノ道ハ本ヲ立ツルヨリ大ナルハ莫シ」と告諭を述べられました。私は、この言葉から本学の学問には「淵源を探る」という姿勢があると考えています。物事の始まりをたどることは、国の歴史や文化、人の心の軌跡を知る手立てです。

 明治23年7月に公表された「國學院設立趣意書」には「必先其国史・国文・国法ヲ授ケ、次ニ百科ノ学ニ従事セシムル」との一節があり、「自国の在り方を確認したうえで、世界の学問全般について学修すべきである」という意味です。これは、日本の在り方を理解するためにも、まずは日本文化、歴史をしっかりと学んだ上で、他国の在り方を学び、そしてもう一度、自国の在り方に立ち戻ることが大事であるということです。このことは、自分の知の歴史を確認することにもつながります。人は他者とのかかわり合いの中で生きていて、自分の存在意義は他者を慮ってこそ生まれるのです。

 本学の共通教育プログラムの中には國學院科目群があります。雅楽や書道などを、体験を交えた学びで日本のこころや知恵を学びます。その中に「神道と文化」という科目があり、全学部生の必修となっています。神道精神を具体的に学ぶカリキュラムが必修科目であることは、全国に2校しかない神道系大学の本学が日本や世界の中で存在する証しの一つであり、本学の在り方を標榜しているのだと考えています。学生には、各々の経験知の中で学び取ってほしいと思います。

 来年の東京五輪・パラリンピックを控え、海外から日本文化に注目が集まっています。日本の伝統文化や神道精神を発信すると同時に、それらを体験してもらうことを通して、私たちも世界の国々の文化を享受したいと考えています。東京五輪・パラリンピックは、日本と世界の国・地域の双方向の文化交流があらためて深まるきっかけにもなるでしょう。文化を発信するだけではなく、世界の文化を受信する機会にもしたいものです。

――4年間の学修は人生の大きな糧になります

 学生と共有する時間を長く持てば持つほど、研究者であり、教育者である自分の在り方を問い直すことが多くなると実感しています。できるだけ一人ひとりの学生の学びに一緒になって関わることのできる時間を持ちたいと思います。

 本学の特徴として、正課のほかに、課外活動の運動部会や文化部会に入っている学生が多いことが挙げられます。課外活動は、まさに学生の主体的な営みです。私自身を振り返ると、現在の専門である『源氏物語』を学ぼうと國學院大學に入学し、「源氏物語研究会」に所属しました。学内の図書館へ行くと、いつも研究会の先輩がいて、どの本を読めばいいかなど多くのことを教えていただきました。課外の活動は、正課の授業とは異なる学びを経験できます。本学は、授業以外にも「問い直す力」を伸ばす学びの場を多く設けています。いつでもどこでも学ぶことができる環境をさらに整えていきたいと考えています。

 学生には4年間の学修の積み重ねを通じて卒業後、「自分の知の蓄積のきっかけをつくってくれた生みの親であるのが國學院大學だ」と思ってもらえるよう、「母校」と誇れる大学を構築していきたいと考えています。

 

針本 正行

研究分野

平安時代文学の研究

論文

物語絵巻・絵草紙を読む(2018/03/01)

源氏物語の古筆切を読む (特集 「シンポジウム 源氏物語と古筆切」)(2015/03/30)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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