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平成28年度入学式学長告辞

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2016年5月23日更新

平成28年度入学式「学長告辞」

森のちから

学長 赤井益久

 文学部・神道文化学部、人間開発学部、神道学専攻科、別科神道専修にご入学の皆さん、入学まことにおめでとうございます。また、御父母の皆様にも心よりお祝いを申しあげ、大学を代表して歓迎いたします。

 

 皆さんは、新たな旅たちに当たり、高い志と大きな希望を胸に、國學院大學の門をたたかれたことと存じます。皆さんは、どのような学生生活を送りたいと考えているでしょうか。また、将来、いかなる進路に進みたいと思っているでしょうか。「まだ、決まっていない」あるいは「よく分からない」と心の中でつぶやいている人が多いのではないでしょうか。これからの四年間は、おそらく皆さんの人生の中で、気力・体力がもっとも充実した黄金のように輝く時間だと思います。そうした大事な時間を有意義に送るには、最初の心がけ、少しの準備が有るか無いかで、その結果が随分異なるように思います。

 まず自らを理解する、自らの学ぶ場所を理解する、自ら修める専門の学問を理解することです。人は、自分のことは自分が一番知っていると思いがちですが、必ずしもそうではありません。両親に言われて気づくこと、友達に指摘されて始めて自分には違った面があるという自覚した経験が誰にでもあるのではないでしょうか。

 自らを理解するには、自分が自分を見つめなおす必要があります。また同時に、人の意見を聞き、その声に耳を傾ける必要があります。それを常々心にかけておくことが大事であると思います。

 

 次に、皆さんはこれからの四年間を送る國學院大學について知る必要があります。それは、これから皆さんが学ぶ場所がどのようなところか、いかなる歴史を有し、どのような特色があるのか。これから新たな旅たちをする皆さんの拠って立つ基盤をしっかりと認識することが、出発の第一歩としてはきわめて大事です。なぜならば、今後の四年間の学生生活を左右することになるからです。自己を正しく認識し、説明できない人間は、他者を正しく認識し、理解することができないからです。自己を知り、他者に学ぶ必要があります。

 

 明治維新後の近代化を急いだ日本は、西欧列強に負けまいと法律や政治制度をはじめとして、その文物の取り込みに懸命になり、西欧の文明に追いつこうとしました。いわゆる「欧化」一色になったといってよいでしょう。

 こうした欧化の傾向が強い風潮にあって、わが国固有の文化や伝統を大切にし、重視しようとする動きも一方ではありましたが、「欧化」の勢いを止めることはできませんでした。このような状況下で、朝野の有識者に、日本の古典を研究教育して、国家の在りようを明確にし、徳性を養うことで国民精神の覚醒を促すべきであるとの機運が高まりました。それを具体化した一つが、國學院大學の母体である皇典講究所の設立であります。「皇典」とは、皇国の典籍、日本の古典という意味です。

 皇典講究所設立の際に、初代総裁である有栖川宮幟仁親王は、「告諭」において、「凡ソ学問ノ道ハ 本ヲ立ツルヨリ大ナルハ莫シ 故ニ国体ヲ講明シテ 以テ立国ノ基礎ヲ鞏(かた)クシ 徳性ヲ涵養シテ以テ人生ノ本分ヲ尽スハ 百世易(か)フベカラザル典則ナリ」と生徒・職員に宣言しておられます。

 日本人の拠って立つ基盤、存在意義を、まず確立すべきであるとしています。國學院大學はこの「告諭」を建学の精神として位置づけ、「日本の国柄を明らかにして、その拠って立つ基盤を強固にし、徳性を養って、それぞれが持って生まれた本分を尽くすことが、人生を生きる上での変わることのない規範である」と理解しています。

 

 この「告諭」に言う「国体の講明」とは、日本の国の特色ないしは日本らしさ、日本を日本たらしめている本質的なもの、人に人柄があり、土地に土地柄があるように、国にとっての国柄とも理解できます。したがって、日本文化の内実を探求し、それを充実させることによって日本の基盤を固めるというように理解できます。

 つぎに「徳性を涵養して以て人生の本分を尽くす」とは、道徳を磨き、養うこと、徳とは、正しさや善きことを志向し、邪悪を退ける精神、つまりは道徳精神とも言えるものです。学問を通して徐々にこれを養い、磨き上げてゆき、自らの人生をいかに生き、何をなすべきかを決断し、その目標に向かって努力を重ねてゆくことと理解できます。

 これを現代的に解釈すれば、専門の学問を創造的に学びながら、日本の特性や文化を学び研究し、それを内外に説明し、発信できるように努力をすること。また、自らの個性や特性を活かし、道徳意識を向上させ、人生の目標を定め、それに向かって邁進すること、というように考えられます。

 

 また、國學院大學は、人材育成の基本方針について、「神道精神」を標榜しています。ふるく神道は宗教という枠に収まらない生活規範や習俗、伝統文化などと不可分の関係にあり、その許容性や排他的でない寛容性から、現在では「神道精神」を「日本人としての主体性を保持した寛容性と謙虚さ」と理解しています。

 古典の中には、「明(あか)き浄(きよ)き直き誠の心」「明き清き正しき心」と言われております。つまり、明るく清純で、素直にして誠実な心の意味であると理解できます。口で言うのは簡単ですが、これを実践することは容易ではありません。なぜならば、道徳は短時間で養成されるものではないからです。しかし、そのような人間になりたいという志を持ち、そのように行動することができれば、けっして難しいことではありません。

 

 また、神社や神道といってすぐに思い浮かべるのは、多分鎮守の森やお祭りではないでしょうか。神道は「祭りの宗教」といわれるほど祭りが重要です。祭りは神様への奉仕であり、地域共同体の平安と福祉のために自らが率先して協働することが求められます。これらを分かりやすく言い換えれば、國學院大學の人材育成の目標は、「明るく清く誠実」で、「寛容性と謙虚さ」を有し、日本人の主体性や誇りを持って「共同体への奉仕」ができる人間であるといえます。

 

 國學院大學の母体である皇典講究所は、日本の古典を研究教授する機関として出発したと申しました。この精神は現在でも國學院大學の教育の目的および学風として存続しております。古典といえば、万葉集や源氏物語を思い浮かべる人が多いと思いますが、それだけに限りません。

 古典とは、古くから伝わる歴史・文学・思想・宗教などの諸分野において、永い歴史的批判に耐えてきた典籍や学術の蓄積であります。それを尊重することとは、どのようなことか。古典はいったん評価が決まればその価値が決まるというわけではありません。じつは、古い時代の研究は不断の研究により、日々新たな像をわれわれの前に現すものであり、古典の研究こそ新しい学術の力が必要なのであります。そして、それが新たな学術的価値を創造してゆくという循環的な構造をもっています。

 われわれは過去に遡って生活することはできません。しかし、古典を通し過去に学び、過去から現在に至る過程を学ぶことができます。そして、そのような営為から、来るべき未来の姿を予測し、あるべき形を思い描くことが可能になります。

 

 大学における勉学とは、大きな視点で言えば、そのような学問の力を体験できるということです。その旅にこれから出発されるという自覚をもっていただきたいのであります。学ぶという意思、学び続けるという志を立てていただきたいのであります。

 

 われわれが神道を身近な存在として感じますのが、神社や鎮守の森と申しました。渋谷キャンパスの近くには明治神宮があり、そこには鎮守の森「代々木の杜」があります。約七十万平方メートルある緑は、都心にあって人々に安らぎと精神的な潤いを与えています。

 明治天皇と昭憲皇太后をお祭りしようとする人々の願いは、強く、松林が点在する荒れ地であった御料地を六年かけて整備しました。

 予算ゼロで出発し、十一万人の労働奉仕、全国から九万六千本の「献木」があり、大正九年(一九二〇)十一月一日に鎮座祭が執り行われました。ちょうど、平成三十二年、(西暦二〇二〇年)の東京オリンピックの開催年が、御鎮座百年になります。

 この「代々木の杜」の基本設計には本多静六博士、上原啓二博士といった学者らが携わっています。注目すべきは、百年後を想定して「森」が作られていることです。大阪の堺にある仁徳天皇陵を手本に、「自生する森」「自活する森」を考えました。松しかなかった荒れ地に、カシ、シイ、ヒノキ、スギなどの植生を混在させ、十年後、二十年後、五十年後、百年後の、森が姿を変える段階を順次想定しています。昭和四十七年(一九七二)の毎木調査では、その計画通りに森が形成されていることが判明しています。自然に見える「代々木の杜」は、叡智を絞り、作られたのであります。

 

 命を全うした木々や草花も、そのまま枯れて、次の森の糧となる生命の循環を見せています。このいわば、「百年プロジェクト」の基本計画に横たわっている思想は、将来を見据えた合理的な計画、植生により異なる樹木の個性を活かした選定の確かさ、「森から一本の木も草も持ち出さない」という徹底管理によって支えられています。

 

 この「代々木の杜」の在り方から、我々が学ぶべきことは、将来を考えて「今」を生きること、計画的に物事を進めること、完成した形をイメージすることの大切さであります。

 他に頼らず自立すること、主体的に生きること、自らの将来を自らがイメージして「今」を生きること、これらを学ぶべきであり、これはまさに教育に似ています。皆さんは、皆さんの心の中に「緑豊かな、枯れることのない自生する森」を育てるよう心がけて下さい。

 

 本日、皆さんは國學院大學の学生となりました。皆さんの学生生活の「根」は、國學院大學にあります。その誇りと自信を胸に、定められた学修期間が有意義な学生生活になりますよう、一層の研鑽を祈念して、学長告辞と致します。

以上  

(平成28年4月2日 グランドプリンスホテル新高輪「飛天」にて挙行) 

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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