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恋に魅せられ、人に惹かれて。浮世絵は、こんなに楽しい。

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文学部教授 藤澤紫

2018年11月30日更新

 時に息をのむような表情を見せ、時に人と人の間の情感を忍ばせる、浮世絵の世界。その瑞々しさに魅了されてきたのが、藤澤紫・文学部教授だ。今年、国際浮世絵学会賞を受賞するなど、浮世絵研究の第一人者として知られるが、精緻な研究のみならず、その魅力を学生に、そしてテレビや新聞・書籍、展覧会などを通して、世に伝えるために日々、東奔西走している。一体、彼女を突き動かすものは何なのだろう。それを理解した時、私たちもまた、浮世絵のトリコになっているかもしれない。

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 私は、自らが感じ、興味を持ったものごとを、なるべく新鮮な言葉で学生たちに届け、また学外で行う様々な活動を、美術史業界の「今」として紹介できたら良いな、と思っています。國學院大學における活動の中で、「教育・研究・普及」という3つの目的が、自然に関わりあい、循環しているように感じています。

 この世界に入るきっかけになったのは、”恋”を描いた浮世絵。それを見た高校生のときの私は、瞬く間に、浮世絵に心を奪われてしまいました。

 作品は、鈴木春信の風流四季哥仙 二月 水辺梅というもの。夜、少年が梅の木の枝を折ろうとし、横にいる少女がそれを見守っています。「どうやら恋人同士らしいけれども、何をやっているのだろう」と、一見した当時の私は思いました。

 梅を折る、というのは、恋の告白、プロポーズのようなもの。その観点から絵をよく見ると、少女は振袖のたもとをそっと石燈籠にかぶせて、灯りを隠している。少年の行いが見つからないようにしているのですね。

 絵に秘められた物語を読み込もうとしていた私は、そこでハッと、「ふたりは恋の共犯者なんだ……!」と気づき、その少女漫画のような世界観に、たちどころに魅かれていったのでした。

 この時の感覚を改めて振り返ると、浮世絵に「新しさ」を感じていたのだと思います。浮世絵の中に今の私たちと変わらぬ感情があることに驚き、「知らない世界が目の前に広がっていく」新鮮さというものに、心震えたのではないだろうか、と。

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 話は今年のことに飛びますが、今年、第12回国際浮世絵学会賞をいただくという栄誉に浴しました。浮世絵の研究に加え、大学での教育、社会への発信も含めた普及、といった点も含めて評価をいただいたようで、大変嬉しいのと同時に、まだ自分には早いのではないか、とても重たいものを頂戴したな、と身を引き締めています。

 その受賞記念講演のタイトルは、「愛される「美人画」―暮らしとメディア文化―」というもの。春信が描く恋に魅了されてから後、浮世絵が「人」をどのように描いてきたのかということをずっと研究してきました。そうしたテーマが集約される「美人画」という講演テーマは、今お伝えしてきたような研究者としての私のルーツに、密接につながるものだったのです。

 「人」を描くことによって、「人」の心を掴む。講演タイトルには「暮らしとメディア文化」という副題を入れましたが、当時の人々も浮世絵を見たときに、ものすごく心を動かされ――いわば興奮したのだと思います。そうでなければ、買い求めて持って帰ろうなどとしないはずですから。

 家に帰って、ゆっくりと手にとりながら眺めたいと思わせる――まさに「暮らしとメディア文化」の中で、浮世絵は育まれました。そしてそうした観点は、現代の私たちが浮世絵に触れる時にも大事なことだと感じています。浮世絵を、なるべく身近な感覚で受け止めて、楽しんでもらいたいと思っているんですね。

 実際に、学生と一緒に展覧会へ名品を見に行ったり、連れ立って神保町の古書店へ向かい、買ってきた版画を眺めたりすると、みんなワクワクとした顔で見ています。

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 例えばこの版画も江戸時代のもので、ゴッホの「タンギー爺さんの肖像」の背景にも描かれている、三代目歌川豊国の「三代目岩井粂三郎の三浦屋の髙尾」や、歌川広重の「冨士三十六景 さがみ川」などの作品です。こうした現物を目の当たりにして、そして実際に触れてみる。紙の手触りや、微妙な色合いを体感して、愛おしさを感じてもらえれば、と思っています。

 またゴッホ「タンギー爺さんの肖像」と豊国「三浦屋の髙尾」にかんして言えば、豊国は役者絵として描いているのに、ゴッホは美人画として受容していることが、それぞれの作品を見るとわかります。こうした文化交流の面白さが一枚の版画から広がっていくと、それもまた忘れられない浮世絵体験となるでしょう。

 日々の学生との交流が、新たな着眼点のきっかけになりまして、今年から3年間、研究代表者として、科学研究費「浮世絵にみる文明開化-子ども文化の変遷と教育ツールとしての玩具絵-」の助成を受けて新たな研究テーマにもチャレンジしています。

 

 実はもう間もなく、皆さんにも浮世絵の楽しさを味わっていただける機会がたくさん訪れます。12月1日から放送がスタートする「NHK BS4K」という新チャンネルで、「浮世絵EDO-LIFE」が始まり、私は監修を務めています。アメリカのボストン美術館には「スポルティング・コレクション」という門外不出の浮世絵コレクションがあるのですが、その貴重な作品群を4Kの超高精細な映像でお届けするという贅沢な番組です。オープニングタイトルには、國學院大學図書館が所蔵する鍬形蕙斎の「江戸名所之絵」も登場します。 

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 また12月1日・2日には、國學院大学渋谷キャンパスで、「第23回 国際浮世絵学会 秋季大会」が開催され、こちらは一般の方にもご参加いただけます。浮世絵、あるいは「名所絵・地図・地誌」という大会テーマにご興味のある方は、ぜひ足を運んでいただければ嬉しいです。私が監修し、今年の年明けに広島県立美術館で好評を博した「くもんの子ども浮世絵コレクション 遊べる浮世絵展」も練馬区立美術館に巡回します(会期:2019年4月28日~6月9日)。浮世絵は、ご自身の目で味わって、読み解いて、味わっていただくのが一番です。また私自身、浮世絵が描く「人」に魅せられたように、研究や教育・普及にかんしても、「人」との出会いや関係が楽しいのだな、と最近特に思います。ぜひ皆さんとも、浮世絵を通じて出会えれば嬉しいです。

藤澤 紫

研究分野

日本美術史、日本近世文化史、比較芸術学

論文

「北斎を歩く すみだでたどる天才絵師の生涯。」(2016/12/01)

「江戸出版界が生んだアイドル―伝説になった「お仙」―」(2016/04/01)

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