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幅広い視野を持つ税理士を養成

大学院が導く難関試験突破 経済学研究科「キャリア・コース」

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経済学部教授 佐藤 謙一、金子 良太

2018年12月11日更新

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 大学院が持つ社会的な使命の一つに、高い専門的知識・能力を持った高度専門職業人の養成がある。その一翼を担う國學院大學大学院経済学研究科には、職業会計人であり「身近な税のプロ」である税理士を育成する教育プログラム「キャリア・コース」が設けられている。同コースは、一学年3~5人と少数でありながら、平成29年度は、税理士試験の結果を受けて3人(大学院生1人、修了生2人)が、後述する税法2科目免除のための認定申請ないし税理士登録ができる大きな一歩を踏み出している。税理士養成を通じた大学院教育の目指すところや未来像について、佐藤謙一・経済学研究科キャリア・コース代表と金子良太・経済学研究科幹事の経済学部2教授に話を伺った。

 

求められる資質は「問題解決能力」

―税を取り巻く社会環境が変化する中、税理士に求められる資質や仕事の魅力とは

佐藤教授(以下、佐藤) かつては帳簿や申告書の作成といった事務的な作業が税理士の主な業務でした。しかし、最近は「タックス・プランニング(税務戦略)」の業務が求められるようになってきました。背景には、経済取引後の金額を確認して税金がどうなるかを計算することよりも、どのような取引なら適法に、より少ない税負担で済ませられるかを事前に立案してほしいという需要の高まりがあります。タックス・プランニングは今後、税理士業務としてさらに重要度を増すでしょう。

 こうした社会の要請に応えるには、「考える力」「問題解決能力」が最も求められる資質といえます。税理士の業務は所得税法や法人税法などの税法と深く関わっているのはもちろんですが、税法は毎年のように改正されます。改正の内容は複雑に、領域も広範囲にわたるようになっていますから、業務を進める上では多くのことを調べたり覚えたりしなければなりません。また、単に税法のみを理解すれば済むという時代でもなくなっています。というのも、税法は会社法や民法、その他のさまざまな特別法などと深く関係するとともに、経済取引のグローバル化に伴って他国との間の租税条約などが絡むケースも少なくないからです。

 ただ、こうしたことを全て記憶し、理解することは難しいと言わざるを得ません。そこで必要とされるのが、問題や疑問が生じた際に、どのように調べ、考え、解決するかといった力なのです。クライアント(依頼主)から投げかけられた質問に対し、自分なりに解決していくという作業は、調べたことを蓄えることができ、知識の引き出しにすることができます。

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金子教授(以下、金子) 税理士の仕事の魅力は、やりがいを感じやすいことではないでしょうか。税理士は工業製品や農産物をつくって売る仕事ではなく、本人の能力そのものが商品価値になりますから、クライアントの獲得は直接、やりがいにつながると思います。

 

―キャリア・コースの特色を教えてください

佐藤 税理士になるには本来、税法3科目と会計2科目の試験に合格する必要がありますが、大学院で修士号などを授与された研究が税法に属する科目等であれば税法2科目、また会計学に属する科目等であれば会計1科目が、所定の手続きにより免除されます。1科目ずつ合格してもよいため、複数年をかけて取り組むこともできます。本学では、試験合格を目指す学生のための指導態勢を整えており、その特色は主に3つ挙げられます。

 まず、税法2科目の免除を受けられるよう税法に関するカリキュラムが充実していることです。税法に属する科目の研究論文を作成することに対しても、きめ細かな指導を行っています。次に、仕事を持つ学生が働きながら履修しやすいよう講義は土曜を中心に実施しています。さらに、大学院で学びながら専門学校にも通う学生を支援するため、既に1科目でも合格していれば、一定の要件で指定する専門学校の授業を受けるための奨学金制度を設けています。

金子 授業料を年間70万円程度(初年度)に抑え、学生の経済的な負担を抑えているのも本学の優位性です。大学院は大学に比べて学生数が圧倒的に少ないですから、学生1人当たりの経費は一般的に高くなりやすく、年間数百万円というケースもあります。しかし、本学大学院は実質的に大学の付属機関のような形態を取っていますから、施設を大学と共用するなどして授業料を学部並みに設定しています。

 渋谷という地の利も強みです。本学大学院のある渋谷には税理士関連の事務所や専門学校が多く、学修環境として優れているといえます。

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税理士を育てる大学院の社会的な使命

―キャリア・コースとして本学大学院の研究、教育活動が目指すところは

金子 税理士になるには制度上、大学院へ通う以外にも複数の選択肢があります。大学院をあえて選んだのであれば、学生には単に法律を暗記したり計算問題をできるようになったりするだけではなく、将来を見据え、税を広い視野で捉える勉強をしてほしいです。本学大学院には、経済学専攻のほか、神道学・宗教学、文学、史学、法律学といったさまざまな専攻があります。この点が専門学校とは大きく異なるところです。せっかくこの貴重な環境に身を置くわけですから、他の学問にも積極的に触れてほしいと思います。知識の幅を広げておくことは、税理士になったときに必ず役立つはずです。

 私の指導も専門学校とはできるだけ差別化したアプローチで行うようにしています。例えば、暗記を主眼に置いたレジュメを配るのではなく、テーマごとに関連する新聞や雑誌の記事を使い、学生に議論してもらうようにしています。税理士試験はマークシートではなく記述式ですから、こうすることによって独自性のある回答をつくる能力を身に付けてもらえるとともに、試験対策としても有効だと考えています。

佐藤 学生には「どのような税理士になりたいか」を思い描きながら学修してほしいです。クライアントとしてよく知られるのは企業や団体、事業主ですが、最近では個人の富裕層をクライアントに持つ税理士もいます。目指す税理士の姿があれば、学ぶ意欲にもつながりますから、学生にとってヒントになりそうな情報を私の実務経験からなるべく具体的に伝えるようにしています。

 

税は日常生活から切り離せない

佐藤 税を日常生活から切り離すことはできません。例えば、政府が進める「働き方改革」に伴い、副業(復業)を認める企業が増え始めていますが、サラリーマンとしては従来の給与以外に新たな所得が発生することになります。一定の要件を満たした場合、確定申告が必要になるわけです。ほかにも、消費税や相続税など税はとても身近な問題として捉えられています。このような身近な問題を解決できる税理士を育てる大学院の社会的な使命の一端が、そこにあると思っています。

 学内に目を向ければ、本学学部生を対象とした課外講座で「K-PLAS(ケー・プラス)」という難関国家試験の突破を目指すキャリア支援プログラムが今年度から始まりました。税理士と同じ職業会計人の公認会計士を目指すコースが設けられており、大学院のキャリア・コースに良い効果をもたらしてくれるはずです。学部生には税理士資格にも目を向けてもらえるよう税理士業務について理解を深めてもう努力が、教員陣には必要になってくるでしょう。

金子 税理士の後継者不足という社会的な課題の解決に、大学院の持つ可能性は大きいと思います。親が経営している税理士事務所を子どもが資格を取れないという理由で第三者に譲渡、もしくは廃業するケースも少なくありません。人材の輩出が大学院に求められています。

 ただし、修士号の安易な授与は決してあってはなりません。大学院出身の税理士への社会的な信頼をおとしめることになるからです。本学では一定のクオリティーを保った修士論文を書いて修了してもらうよう指導を行っています。その一つの証しとして、税法などに関する優れた論文などを表彰する租税資料館賞を本学大学院生が受賞(第25回奨励賞の部‖平成28年11月)しています。修了資格のハードルを下げないことは、長期的に本学のブランド力を確立することにつながると考えています。

―ありがとうございました

 

 

 

佐藤 謙一

研究分野

主に所得税、租税手続、租税争訟

論文

所得区分の要件と判別-給与所得と一時所得(2023/02/01)

加算税制度とは何か-国税通則法の基本的考え方(2022/10/01)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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