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「保育のプロ」のキャリアアップを目指して

人材育成で、子供の成長支える

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人間開発学部准教授 山瀬 範子

2018年7月3日更新

 少子化が進む日本では、子育てをしながら働きやすい社会づくりを目指す行政や企業により、多様な子育て支援が進められている。そうした動きの中、保育士や幼稚園教員ら「保育者」の不足は長年の課題となっており、背景には制度上のさまざまな問題が存在している。人間開発学部子ども支援学科で「保育のプロ」を育て、現場で働く保育者たちのキャリアアップを支える制度について研究している山瀬範子准教授(教育学、教育社会学)に話を聞いた。

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社会の信頼につながるキャリアを

――山瀬准教授の研究について教えて下さい。

山瀬准教授(以下、山瀬) もともとは、父親の育児や父親の育児観の変遷などについて研究していました。近年は、子ども支援学科の神長美津子教授(幼児教育学、保育学)と一緒に、保育所や幼稚園での園内研修に関わっています。

 保育士や幼稚園教員ら乳幼児の保育に関わる保育者が不足しているといわれていますが、背景には離職率の高さや賃金の低さがあります。でも、保育者という仕事を通じて、子どもが育っていく姿はもちろん、お父さんお母さんたちがいろいろなことに悩みながら一生懸命に子育てをして、わが子の成長に喜びを感じる場面を一緒に味わえるというのは本当に素晴らしいことです。やりがいのある仕事だと思っています。

 その一方で、社会的には「(保育士や幼稚園教員は)子どもと遊ぶのが仕事」と誤解されてしまうこともあるのが、つらいところですね。子どもを育てるという職業を専門職として社会的に認めてもらうために、そして保育の質を高めるためにも、研修を通して保育者がキャリアを確立していけるような制度の構築を目指しています。

――「保育のプロ」としてのキャリアを明確にすることが、子供のためにもなるのですね。

山瀬 子どもとの遊びの中でも、どんな意図でやっているのか、どういった成長につながるのかということを社会に分かってもらえる仕組みや制度を整え、そこにどういうキャリアや専門性が必要かということを明らかにするために、研究をしています。

 保育の現場でも「言われたことをやっていれば、そのうち覚える」「先輩の見よう見まねでやっていれば、できるようになる」という教育が行われていた時代がありました。しかし今は、学校で得た知識や能力を基盤に自分で考えたり、周りと協働したりして新しいものを創出することを教わってきた世代が入職してきているので、従来のやり方は通用しません。それぞれの場面に、どういう成長の要素、保育の専門性があるのかについて説明できるように教育を受けてきたのが今の世代なので、指導する側はノウハウを言語化し、能力をもった人材をしっかりと育成することが今後の保育現場にとって非常に重要なのです。

 そのためにも、保育者としてのキャリアがどのように積み重なり、本人はいつ、どのタイミングで何を学ぶ必要があり、周りの先輩方はどうサポートするのかということが、仕組みとして明確にされていることが必要だと考えています。そうした仕組みがあってこそ、社会的な威信が得られ、見合ったお給料がもらえるのだと思います。

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保育と社会を変える研修に

――最近では、行政によるさまざまな処遇改善も行われています。

山瀬 保育士や幼稚園教員の昇給のタイミングは役職が上がるときですが、それが10年、それ以上と、一般的な会社員に比べると昇給に長い時間がかかってしまいます。役職の区分が少ないことが、「給料が上がりにくい職業」という実状の原因になっていたのです。そのため、一定のキャリアを積んだ人に対して手当を加算します、という処遇改善制度が厚生労働省により平成25年に作られました。当初は何をもってキャリアと考えるのか、明確な判断基準がありませんでした。そこで、キャリアアップのための研修制度が都道府県などを主体として29年にスタートしました。

 研修は、経験に応じて求められる知識や能力を学び、身につけることが主な内容ですが、保育の質を向上させるために各保育施設が独自に行っている研修もあります。そうした園内研修システムの開発に携わることが、私の研究分野です。園という組織の中でどのように保育者が育つのかということを考え、それぞれの保育施設が抱える課題や目標に応じた研修システムを作る手助けをしていきたいと考えています。

 保育者になってからも研修などを通して学んでもらうことで、保育園そのものの質を向上させようという動きがあります。学生らノンプロの実習生を受け入れることもその一環で、外部の視点で「これには、どういう意図があるのか」「こういう工夫をすると、子どもはどう育つのか」と感じてもらうことによって、自分たちの保育を改めて見直すきっかけになります。また、実習生を見て、現在、大学や短大などでの教育でどのようなことを教えているのかも知ることができ、新たな学びや気づきにもなると、保育現場では考えられています。

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――ご自身の研究で将来、目指していることは何ですか。

山瀬 まずは、保育者がどういうプロセスで育っていくのかを明らかにして、今後の研修の確立に貢献したいです。中でも、地域での子育て支援に着目しています。子どもが地域の中で育つことが、今はとても難しくなっていますよね。子どもと地域の結びつきが希薄になっているために、「保育所の声がうるさい」「子どもの泣き声が耳に障る」という発言や、子どもを狙った悲しい事件が起きていると考えます。その背景には、生活や働き方の変化により、「ご近所付き合い」が減っていることや、都心では地域の中で子どもが遊ぶ場所や時間が減っていることなどが挙げられます。

 次世代の育成には、地域の見守りや協力がとても重要です。みんなで子どもを見守り、社会、地域との関わりの中で子どもが成長できる環境づくりにつながる研修を取り入れることが目標です。そして、國學院大學では、大人と子どもが共存するということを自然と意識して行動できる人材を育てたいと考えています。こうした意識が広まっていけば、社会は少しずつ変わっていくと信じています。

 キャリアアップ研修や処遇改善など保育者への投資が、保育を受けた子どもたちの生活や成長の役に立ったことを証明するのが、私の役目でもあると思います。幼児期というのは、将来にわたる発達の基盤である重要な時期です。その時期を支える保育者がプロとして評価され、社会的保証を与えられることが、研究の先にある目標です。※学報平成30年6月号「人間開発学部創設10年」関連企画

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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