フラメンコと聞いて何を想像するだろうか? 派手な衣装、情熱的なステップ、バラをくわえたダンサー…。スペイン南部のアンダルシア地方が発祥のフラメンコはギター、歌、パルマという手拍子に合わせてダンサーが足を踏み鳴らしながら踊る民族舞踊だ。日本のフラメンコ愛好家は5万人に上り、全国学生フラメンコ連盟には13大学250人以上の学生ダンサーが所属して各地で活躍している。本学フラメンコサークル Rojos Pimientosで活動をしながら連盟の会長を務める山口千晶さん(外文3)にフラメンコの魅力や会長としてのやりがいなどについて聞いた。
ひとつの舞台を作り上げる
――山口さんは大学生になってからフラメンコを始めたそうですが、きっかけは?
山口さん(以下、山口) 昔観た映画で登場人物がフラメンコを踊るワンシーンです。入学直後のサークルの勧誘期間にフラメンコ衣装を身につけた学生を見たとき、そのシーンを思い出しました。高校生ではギターアンサンブル部に入っていたのですが、大学生の奏でるギターの生演奏の迫力にとても感動しましたし、ギタリスト、歌い手、箱型の打楽器「カホン」を演奏する人、パルマを打つ人、ダンサー、そしてお客さんがひとつのステージを作り上げていくスタイルに魅力を感じ、フラメンコを始めました。本学のフラメンコサークル Rojos Pimientosに入ってからは他大学のダンサーやギタリストとゼロから1つのステージを作る機会があり、舞台を作り上げる達成感を味わえたことでより楽しくなりました。
奥深さに惹かれて
――フラメンコを一言で言うと?
山口 底のない沼ですね(笑)。友人に聞いても皆そう言います。「底なし沼」なんてフラメンコにはふさわしくない言い方かもしれませんが、それほど奥が深いのです。踊れば踊るほど、演舞を見れば見るほど好きになっていきます。最近は、初心者のころはわからなかった素晴らしさが見えるようになってきました。例えば、明るい曲でも暗い表情で踊るダンサーがいるのですが、最初はなぜ笑顔を作らないのか理解できませんでした。今では繰り返し踊っていく中で明るい曲の中にある「静」の部分にも目を向けて、自分なりに表情をつけていくことの大切さがわかるようになりました。経験を積んでフラメンコを受け入れる態勢ができたように感じますし、さらに理解が深まってもっと好きになると確信しています。
――生活の中でフラメンコに影響されたと思うことは?
山口 プロのショーを見たいと思い、5月下旬からフラメンコビストロでアルバイトを始めました。プロを見てどのように魅せるのかを研究しているのですが、ショーに行くのにはとてもお金がかかるので、フラメンコを見ながら働くことができるアルバイト先を探しました。まだまだ新米なので仕事に集中しなくてはいけませんが、慣れてきたらフラメンコを見ながら仕事ができたらいいなと思います。また、フラメンコの衣装はとても高く、これまでに購入した代金を合計したら30万円を超えていました(苦笑)。それらの費用も自分で負担しているので、フラメンコビストロ以外にも2つアルバイトをしています。
苦労に変えられないやりがい
――連盟の会長を務めていますが、どんな活動をしているでしょう?
山口 8月に行われる全国大学フラメンコフェスティバルin 館山2018(以下、フラメンコ週間)にむけて準備をしています。フラメンコ週間は、千葉県館山市で6日間にわたってフラメンコを披露する発表合宿で、全国から集まったダンサーがひとつの舞台に立つ1年の中で最大のイベントです。今は協力してくださる館山市の職員の方と連絡をとったり、プロのギタリストの方と出演の調整をするなどしています。また、曲の長さや曲調、歌い手やパルマを打つ人との兼ね合いも考えながら曲順を決めています。同じ曲でも大学によって踊りの構成が違うので、全体でダンスの構成を合わせていくことにも苦労しています。
ほかの幹部の学生にスケジュールの連絡をしたり、仕事を振り分けたりもしています。実際に会うことができればすぐに決まることでもSNSで文字だけのやりとりをしていると時間がかかってしまうことが多いですね。よく考えたら事務作業ばかりです(笑)。
――苦労が多いようですね。
山口 フラメンコ週間を運営したくて、会長に立候補したので苦労もあるけれどこの仕事ができて幸せです。1年生のときに参加したフラメンコ週間が人生最高の瞬間なんじゃないかってくらい楽しくて(笑)。他大学の学生と6日間も一緒にフラメンコ漬けの時間を過ごして、毎日新しい舞台で踊って、地元の方とも関わらせていただいて…こんな合宿を後輩にも経験してもらいたいと思ったのがきっかけで会長になったので、忙しくても会長の仕事をしていることが誇らしいです。会長をしていると年齢や立場が異なる人と関わることができますし、公演を見てくださった方に喜んでいただけることを思うとモチベーションの向上につながります。フラメンコ週間では、館山市内の老人ホームを訪問します。おばあちゃんやおじいちゃんが手を叩きながら見てくれたり、「ありがとう」といってくれることがとてもうれしいです。準備は大変ですが、その分大きなやりがいを感じられます。そして、フラメンコが大好きなので、準備段階でつらいことがあっても皆と踊っているうちにつらさなんて忘れてしまいます。
――フラメンコから得たものは?
山口 何をするにしても自信を持てるようになりました。派手な衣装を着てしっかり化粧をすると、今まで表に出ることのなかった自分に変身したような気持ちになります。「1人のフラメンコダンサーとして生きているのだ」と背筋が伸びる思いです。また、会長の仕事を通じて、さまざまな人とコミュニケーションをとることが得意になったと実感しています。これから始まる就職活動や社会人として仕事をする上でも、この自信やコミュニケーションスキルが強みになるはずです。