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【安田恵美・法学部准教授】
「高齢受刑者」という視点で、社会の寛容性を問う

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法学部准教授 安田恵美

2018年4月6日更新

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 日本社会の高齢化が叫ばれるようになって久しい。一方で、普段の生活で見えない刑務所の塀の中でも高齢者が増えていることは、私たちの日々の“盲点”になっている。そして、社会において生きている元受刑者たちとの“接点”もなかなかない中で、社会に順応できず、また刑務所の中へ戻っていく人もあとを絶たない。
 『高齢犯罪者の権利保障と社会復帰』という研究書でこうした問題に取り組んでいるのが、安田恵美・法学部准教授である。高齢の受刑者たちが人間として当然あるべき処遇を受けられるように、そして社会に出た後も“普通”に生活をおくれるように――その取り組みは、私たちが暮らすこの社会の寛容さそのものを問うものでもある。パワフルに活動を続ける安田准教授は、塀の中と外を行き来しながら、日本社会のありようを見つめている。
 
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 私は小説でも漫画でもミステリーが大好きなのですが、たとえばサスペンスドラマのラストシーンでよく、警察が崖で犯人を問い詰めるシーンが出てきますよね。しかし、犯人の「その後」はなかなか描かれることがありません。裁判のシーンや、刑務所での面会室といったシーンはたまに出てきますが、刑務所の中での生活が深く描写されることはあまりない。
 私が学部生の時に思ったのは、そうした「その後」の日々、いわば、あの「崖の先」には何があるのだろう、ということでした。いま私が研究しているのは、この刑務所の中での、特に高齢者の処遇について、そして刑務所から出た後の社会での生活についてです。
 
 いま、日本の刑務所では高齢者が増えてきています。実際に刑務所に行くと、白髪の方がとても多い。しかし、日本の刑務所のシステムというのは、こうした高齢者に対応したものになっていません。若い人たちと同じように行進や刑務作業ができるわけではないし、冬は寒さで、夏は暑さで体調を崩し、高齢者が亡くなってしまう事件もいくつか起きています。ハード・ソフトの両面において、日本の刑務所は高齢受刑者にとって厳しい環境になっています。
 ならば、高齢者の特性とはどういうもので、どういったシステムであれば対応できるのか、ということを考えなければいけません。その上で、高齢犯罪者の社会復帰についても、どういった施策が必要なのかを考えていく――それが私の研究の中心なのです。
 
 そもそも必要なケアを受けるということは、受刑者であっても、ひとりの人間として当然認められるべき権利。しかしその権利が十分に保障されていない。また、刑務所というのは受刑者の移動の自由を奪う場所であるわけですが、歩くことさえ大変な高齢者を刑務所に入れておくことにはどんな意味があるのかも、実はよくわかりません。
  だったら、刑務所から出す、という可能性も議論されるべきです。ただ日本では、“懲らしめ”として刑務所に入れるという側面が強いので、刑務所に入れることが優先される。そして刑期を終えて出所してきた元受刑者に対しても、社会の側が怖がる傾向が強い。隣に元受刑者が引っ越してきたら、バイト先に入ってきたら――私の授業を受ける学生たちに講義の最初に聞いても、やはり「怖い」という声が先立ちます。
 
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 一方で、同じように高齢受刑者が増えてきているフランスにおいては、死ぬときは刑務所の外でその時を迎えるべきであるとか、刑務所で対応しきれない高齢受刑者は外に出すべきである、といった議論がされているのです。2017年にまとめた『高齢犯罪者の権利保障と社会復帰』(法律文化社より 2017年1月刊行)という本では、こうした日仏の比較をしていきました。高齢犯罪者は、受刑者である前にひとりの人間である。人間としての権利や尊厳は、何によってもおかされてはいけないのだ、というのが私の主張です。
 私自身、学生の時は、冒頭でお伝えしたような興味・関心のもと、まずは刑事政策という分野に入っていきました。その際に刑務所で出会ったのが、ある高齢の受刑者だったのです。その人はなんと82歳で、これまで30回以上も刑務所に入っているという。もはや人生の半分を刑務所で過ごしているわけです。
 
 その刑務所が高齢者に対応できていないとすれば、制度自体にものを申せる立場にならなければ――そうした経緯で、研究者の道に進んでいき、10年ほどの月日を費やしてきました。当初は、考え方が偏っている、というような声もよく聞きました。それでも徐々に、社会の状況は変わってきていると感じます。元受刑者の方の話を聞くような市民向けのワークショップも開催してきましたが、そもそも10年前であれば、こうしたワークショップを開くことさえ不可能だったはずです。
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 いま計画しているのは、元受刑者の人たち、そしてそうした人たちに関心のある人たちが集える、喫茶店のような「場所」です。元受刑者の人たちがホッとでき、それに社会の側も寄り添えるような場をつくっていきたいと思っています。
 元受刑者の人たちは、いまの日本の社会の中でどうしても、びくびくしながら生きていることがほとんどです。そこで心置きなく話すことができ、お互いが友だちになっていける――つまりは社会との“接点”をつくることができる場があれば、と考えているんです。
  刑務所にいたという人の経験を、その人が生きてきた過程のひとつとして「ああ、そうなんだ」と自然と捉えられるような、壁のない、対話を紡ぐことができる場をつくりたい。暗闇がそうであるように、人は「分からない」ものを怖がります。でも、一緒に話をしたり、お茶をしたりすると、元受刑者であっても、当たり前ですが普通の人であることが「分かる」んですよ。まずは身近な存在として感じてもらいたいんですね。
 
 まだまだ、やるべきことは多い。しかし、講義の最初に元受刑者を「怖い」と言っていた学生たちも、授業を進めるうち、そういう人たちの存在を段々と自然な存在として感じられるようになっていきます。やはり「発信する」ことが重要なのだな、と感じます。発信して、みんなで話し合っていけば、人の考えや価値観は少しずつ寛容になっていくものなのだということを、私自身も実感してきているのです。これからも、高齢犯罪者という存在を中心に、社会の様々な人・機関をつないでいく研究と活動を続けていけたらいいなと思っています。
 
 

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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