ARTICLE

人を育て人を繫ぐ
―研究開発推進機構10年

井上順孝機構長、足跡と未来を語る

  • 在学生
  • 卒業生
  • 企業・一般
  • 教職員
  • 国際
  • 文化
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

研究開発推進機構長(神道文化学部教授) 井上 順孝

2017年11月14日更新

170925_atari_0220

 創立以来135年にわたって蓄積された「國學院の知」。国内外に誇る優れたコンテンツを基に、「国学的研究の発信拠点」として研究を続ける國學院大學の「研究開発推進機構」が発足10年を迎えた。平成14~18年度に推進された文部科学省21世紀COEプログラム「神道と日本文化の国学的研究発信の拠点形成」事業を発展的に継承・展開し、「國學院大學21世紀研究教育計画」に基づいて多岐にわたる活動を続けている。我が国の私学では類を見ない「研究のための専任教員」を相当数配するシステムで運営される同機構は、研究者を育てる組織としても機能し数多くの人材を国内外に送り出すなど社会的貢献を果たしている。機構10年の歩みを井上順孝機構長(神道文化学部教授)に振り返ってもらい、機構が進むべき道を伺った。

 

≪戦後復興の途上にあった昭和30年、「日本文化に関する精深な研究を行い、これを広く世界文化と比較しつつ、その本質と諸相を把握」するために開設された日本文化研究所が、研究開発推進機構のルーツとなった。平成19年に発足した機構は、国際交流および研究成果の公開発信事業を担う日本文化研究所▽考古学・神道の2つの資料館を統合した学術資料センター▽本学の歴史と保有する学術資料を研究対象とした校史・学術資産研究センター▽建学の精神に基づく研究推進のための企画・立案や学内外の共同研究の受け皿となる研究開発推進センター▽我が国の伝統文化研究に欠かせない研究・資料収集を行うとともに、その成果を社会に還元する國學院大學博物館・・・の5つの機関により構成。各機関が連携し、高度な研究の推進と若手研究者の育成、研究成果の発信を行うことで、新たな研究を開発・創造し続けている≫

 

Q 10周年を迎えた研究開発推進機構についてお話を伺います。まず、機構はどういった機関でしょう

 本学の最も特徴ある研究を一カ所に集約して成果を発信する「国学的研究の発信拠点」です。研究成果の報告書は、印刷物だけで毎年20冊ぐらいにもなり、それプラス機関ごとに定期刊行物もあります。スタッフは共同研究員まで入れると100名以上になりますね。

 

≪機構と各機関が刊行する出版物には「紀要」のほか、「年報」「校史」「館報」といった定期刊行物がある。また、日本文化研究所設立60周年記念行事をもとにしてまとめた「〈日本文化〉はどこにあるか」のほか、「共存学」シリーズ、「渋谷学叢書」シリーズなど多方面にわたった一般書籍もある≫

 

 本学には皇典講究所から続く135年の蓄積があり、戦前からの資料も豊富です。本学所蔵の資史料を十分に活かすのみならず、歴史的及び現代の日本文化を研究するうえで重要になるコンテンツを幅広く収集しています。これらをさまざまな視点から活用し、海外の研究者も視野に入れた「デジタル・ミュージアム」の構築などで「國學院ブランド」を高めています。

 

≪平成29年3月、文部科学省研究ブランディング事業として採択された「『古事記学』の推進拠点形成-世界と次世代に語り継ぐ『古事記』の先端的研究・教育・発信-」の実施機関として古事記学センターが発足。日本文化の根源である「古事記」の研究を進め、その成果を国内外に発信する≫

170925_atari_0227

スマホ世代の学生に「本物」を届ける

 

Q 大学は学生を送り出すだけが仕事ではない、心を育てることも必要といわれますが

今の学生たちの中には、「スマホで事足りる」と思っている人も少なくありません。私は、「ちゃんとした研究を探し、体験する。学内にある良いもの、『本物』を見つける目を養いなさい」といっています。難しいことですが、続けることが大事です。私のゼミの学生には国際フォーラムなどが開催されたら積極的に聞くように勧めます。「せっかくこんな世界的に著名な人が國學院大學に来て目の前で講演し、それを無料で聞けるということなど、そうそうないのだから、難しいと思っても聞きなさい」と誘います。聴いた何人かはやはり聞いて良かったと喜びます。そういう機会を、どんどん作っていきたい。

 

≪國學院大學博物館は、今年に入って通算の来館者数が15万人を突破するなど学内外から注目を集めている≫

 

 國學院大學博物館は、施設・内容ともに素晴らしい博物館ですし、ゼミや授業での利用も増えています。一方で、これだけ充実した施設なのだということを知らずに卒業してしまう学生も結構いるのはもったいないですね。

_mg_1370

國學院大學博物館 館内

 

Q 研究者・教員を育てることも大きな狙いということですが

 機構は学部の多くの教員に兼担教員をお願いしています。専任教員が中核になりつつ兼担教員と連絡をするという、日本文化研究所が築き上げてきた態勢の拡大版です。また年齢や業績に応じて若手の研究者も取り込んでプロジェクトを支えてもらいます。資料収集や実際の調査、データベース作成など、研究の基本になることを共同作業でやることは非常に重要です。機構で一人の教員が複数のプロジェクトに関わるのはごく普通のことで、若い研究者も共同作業を具体的に体験する。研究ネットワークを構築していく上での具体的な方法を学ぶという点ではとても環境が整っていると思います。

 8月末から9月の初めにかけて、ポルトガルのリスボンで開かれた日本研究に関する国際会議に出席しました。そこでかつて機構に勤務していた日本人や外国人の研究者が何人も挨拶してくれました。日本文化研究所以来の仕組みが着実に若手を育て、彼らが国内外の様々な研究機関で頑張っていることを感じました。拠点とか結節点という意味の「ハブ」という言葉がありますが、ささやかながら機構はその機能を持っています。長い目で見れば大変な資産ですから今後も大事にしたいものです。

 

研究成果を世界で共有する

170925_atari_0167

Q グローバル化、ネット時代の研究活動はどのように変化しているのでしょうか

 今や、インターネットはあらゆる所に影響を及ぼしています。活字中心の頃は本にまとめないと公刊できなかったわけですが、今ではある程度まとまった段階でも研究発信が可能です。外国の方からすれば、やっと本を手に入れたときには既に(日本での研究が)進んでいるということもありました。ネットに研究成果を公開することで、世界中の研究者がほぼ同時に情報を入手できます。本学のように豊かなコンテンツを持ち、インフラも整っている研究機関には利用しがいのあるシステムが登場したわけです。

 神道研究の発信に関しては、旧日本文化研究所が編纂した「神道事典」を英訳したオンライン事典「Encyclopedia of Shinto(EOS)」のオンライン公開は画期的だったといえます。これは40人を超える外国人研究者に協力してもらって作成したもので、非常に反響が大きかった。今では「世界中で神道を研究する人は必ず見る」というほどになっています。

 

 神道に限らず、物事に興味のある人はキーワードを入れてネット検索しますが、英語で神道に関して検索すると「EOS」がトップに来る。ということは、「神道について調べるならまずEOS」と認められたわけです。ネットで公開されるコンテンツも、長期的には、やはり信頼性とか内容の充実度によってユーザーの関心が持続する。すでに700万アクセスをはるかに超えています。国学院は「もっと日本を。もっと世界へ」とのスローガンを掲げていますが、より多くの人に振り向いてもらうには、信頼できるコンテンツの構築が基本であることは言うまでもありません。研究の世界では最後にものを言うのは、正確さや信頼性であり、評価が固まれば加速度的に注目を浴びていきます。「デジタル・ミュージアム」に関してはまだまだ改善点が多いので、拡充させようと考えています。

 

≪國學院大學日本文化研究所編「神道事典」(弘文堂、1999 年)の本文を英訳したものが「EOS」。2016年には年表部分も英訳された。これらの英訳には150人近くの神道研究者や日本宗教研究者が加わった。また 2015 年には「神道事典」の第4章と8章が韓国語訳され、冊子及びオンラインで公刊されている≫

 

蓄積した「國學院の知」を社会に還元

 

Q 機構の今後についてお話しください

 機構開設から10年を経る中で、施設などは整備されました。課題は「何を充実させるか」です。一つは学内の教育へのさらなる貢献を考えるべきだと思っています。機構が主催する講演会や博物館の展示は地域の方々などには大変喜ばれていますが、肝心の学生の参加があまり多くない。もっと学生が関心を抱くような企画や仕組みを考えるべきと痛感します。

 研究者のネットワークを広げていくことも機構の責務です。2年に1回ぐらいは英語で発表する小さな会合を開きたい。たどたどしくても英語で発表して英語で質疑応答する。そうやって育った人が海外に出て行ってほしいです。

 

日本文化研究所が開催している国際研究フォーラムには世界の第一線で活躍する研究者が集結する

日本文化研究所が開催する国際研究フォーラムには一線級の研究者が集まる

 研究機関のいいところは、「あそこはいい研究をしている」「あの先生は信頼できる」と評価されると、他の機関が進んで協力してくれるという点です。世界有数の研究機関と國學院とが提携できている背景には、研究者として信頼できる人間が國學院にいるということなのです。今まで蓄積してきた「知」をより実感しやすい形で還元していくことが機構に求められていると思います。

このページに対するお問い合せ先: 広報課

MENU