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著書が48万部突破の大ヒット!
安達裕哉さんが語るコトバと会話の大切さ

つながるコトバ VOL.12(安達裕哉さん 前編)

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安達 裕哉 さん

2024年4月29日更新

 コミュニケーションの極意を伝える本「頭のいい人が話す前に考えていること」が売れている。ところがその著者、安達裕哉さんは、社会人になりたての頃、コミュニケーションがうまくいかず苦労したのだという。どのように克服し、コミュニケーションの達人になったのだろうか。

 誰もが悩むコミュニケーションの問題。安達さんのお話から、コミュニケーション上手になるためのヒントを探ってみたい。

 

コミュニケーションベタだったのに、コンサルタントに!?

 人は誰でも、自分の思いを正確に、かつ効果的に相手に伝えたいと思っている。ビジネスの場面では言うまでもないし、プライベートでも同じだろう。どうすればそうした話し方ができるのだろうか。人の心を動かす話し方、コミュニケーションの取り方を解説する「頭のいい人が話す前に考えていること」(ダイヤモンド社)は、発売後たちまち版を重ね、大ベストセラーとなっている。

現在48万部突破の大ヒット。レビューを見ても高評価が多く、多くの人がこの本を参考にしていることがうかがえる。

 著者であるコミュニケーションの達人にお話を聞いてみると……。

 「いえいえ、そんなことないんです。就職した頃の私はコミュニケーション下手な人間でした。コンサルタント会社に入ったのも、条件的に……という感じだったのです。

 私は大学院で生物学を学んでいたのですが、研究者の道に進むのはいろいろな意味で難しいと思っていました。さらに400万円程度の奨学金を返済しなければならなかった。加えて、修士論文などが忙しかったせいで就職戦線に出遅れて、気がついたら大手企業はもうエントリーできない状態。そんなときに、友人からコンサルタント業界の存在を教えてもらったのです」

ラフなスタイルで気さくにお話ししてくれた安達さん。

 当時、コンサルタント会社は今のような花形企業ではなかった。給料が他企業より少し良いということで、エントリーしたところ、選考を見事クリアして入社が決まった。ところが、入社してみて「この仕事にはコミュニケーション力が欠かせない」と気がついたという。コンサルタントのおもな業務は企業の課題解決のために経営的な戦略を立案し、方向性を示唆することなので、クライアントとのコミュニケーションや信頼関係なしには成立しない。もちろん、会社でも新卒者向けに研修はあったが、自力でもなんとかしなければと思った安達さんは、勉強を重ね実践し、訓練していった。

 「しかしそう簡単にいくもんじゃありません。当時、私が在籍していた会社では、新人が取引先を訪問する上で“3社ルール”というものがありました。1社目の訪問は先輩含め2〜3人で商談に行く。2社目は何回かにわたる商談のうち半分だけ先輩が同行してくれて、それ以降は1人で行く。3社目からは自分1人で行くという段階を経て独り立ちします。ところが、2社目の訪問のとき、待ち合わせ場所にいつまでも先輩が来ない。そうしたら電話があって『あ、ごめん、今日オレ行けないわ(笑)』って。

 先輩が同行してくれるはずが急遽一人で訪問することになり、その緊張感から、たぶん目も泳いでいたと思います。その挙げ句、取引先に『大丈夫?』と、心配される始末だったんです」

 これではいけないと思った安達さんは、さらに努力した。ではどのように?

 「正直、それは訓練と実践の繰り返しです。コミュニケーションは技術なんです」

 コミュニケーションは技術! その意味を、安達さんがどのようにしてコンサルタントとして実力をつけていったかの過程から教えてもらおう。

 「先輩が同行している間は、いわば半人前ですよね。その後、私は一人で先方と話すという過程に進んだわけですが、じつは、ここからが本番だったわけです。

 先輩と一緒だと、クライアントはまず、私の目を見ません。もう一瞥もくれない。でも一対一になると、話を聞いてくれます。

 そうすると、事前の準備も気合が入ります。何をどう話そうか? こう言われたらどう返そうか? 先輩を相手にロールプレイングを何度も行います。頭の中でも、話すことを整理して、どうしたら自分の提案が相手に効果的に伝わるかを考え抜きます。逆に言うと、そうしないと相手の前に立てません。これを繰り返し、実践して(もちろん、すぐに全部いい結果が出るわけではないですが)、やっと相手に話が伝わった! と実感が持てました。そこで初めてこの仕事のおもしろさが分かったんです」

 まさに訓練と実践を繰り返していったわけだ。

 「コミュニケーションって、簡単に“こうすれば良くなる”というものではなくて、うまくいくまで、ひたすら訓練して実践するしかないんですよ。だから“技術”なんです。逆に言えば『自分はコミュニケーションができない!』と思ったとしても、数か月訓練・実践を行えば、なんとかなるんです」

 

約170項目にわたるマニュアル作成と

その内容を実践し、さらに身についたもの

 その後、安達さんは社内の新規事業である中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに関わるようになる。ここでさらに強烈な「訓練・実践」を経験する。

 「ここでは、社長も含めてコンサルタント全員で、コンサルティングにおける暗黙知を形式知に変えるために、約170にもわたるマニュアルを作成したんです。クライアントと話すときに『結論から言いなさい』とか『メリット・デメリットで判断しなさい』とか『結論を1枚にまとめる技術を使いなさい』とか、相当に細かく作っています。じつは、これは著書の『頭のいい人が話す前に考えていること』のネタにもなっている内容で、よくある状況に対してこうすべきという対応を示したものなんです」

約170にも及ぶマニュアルの現物。心得や対応策が非常に細かく記されている。

 安達さんはじめコンサルタントたちはその全項目を丸暗記し、あらゆる場面でマニュアルの内容を思い出し、対応をしていくという訓練をしていった。ちゃんと覚えているかテストまであり評価に直結したので、全員必死で暗記したという。

 「たまに内部監査で上司がコンサルティングの現場に同行することがあるんですが、マニュアルと違うことを言ったりやったりすると、その後、ダメ出しの嵐に(笑)。このマニュアルは、私の基礎となり、自分が会社を作った今でも参考にしています」

 どんな達人でも訓練と実践なしにはコミュニケーションは上達しない。そう覚えておけば、今、コミュニケーションに悩んでいる人も自己卑下せずに「1回取り組んでみよう」という気持ちになるのではないだろうか。

 次回は、新入社員が経験しがちな、よくあるディスコミュニケーションの場面と、その対応策についてより具体的にお話をうかがってみたい。

プロフィール

安達裕哉(あだち・ゆうや)

1975年生まれ。マーケティング会社ティネクト株式会社代表取締役。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、デロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門立ち上げに参画し、大阪支社長、東京支社長を歴任した後独立。個人ブログ「Books&Apps」は累計1億2000万PV。著書「頭のいい人が話す前に考えていること」(ダイヤモンド社)は48万部を売り上げ、2023年年間ベストセラー1位(ビジネス書単行本・トーハン調べ)となる。

 

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安達裕哉 X(Twiiter)

 

取材・文:有川美紀子 撮影:押尾健太郎 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學

 

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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