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「こんなときどうしよう!」の対応策をコミュニケーションの達人・安達裕哉さんに聞く

つながるコトバ VOL.12(安達裕哉さん 後編)

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安達 裕哉 さん

2024年4月29日更新

 48万部のベストセラー「頭のいい人が話す前に考えていること」(ダイヤモンド社)の著者、安達裕哉さん。前編ではコミュニケーションの土台を築く反復練習の重要性について教えていただいた。後編では、大学生を中心に、日常生活の中でのディスコミュニケーションにどう対応するかについてのお話をうかがった。

 

コミュニケーションをとる前の恐怖を

克服するには……?

 これから社会人になる学生たちは、学校生活においてコロナ禍の影響を大きく受けてきた世代。授業もリモートで、リアルな対人関係がなかなか築けなかった人もいるのではないだろうか。近年、入社後のコミュニケーションに悩む新入社員の事例が報告されている。そのうちの1つは「会社の電話に出られない・かけられない」というもの。

 「その解決法はただ一つ。“慣れ”です。反復練習を繰り返せば、そのうち必ず慣れます。最初はつらくても、そのうち体が自然に動くほど内容が刷り込まれていきます。

 最初は緊張して頭が真っ白になるかもしれませんし、言い間違えや、聞き取れずに聞き返したり聞きそびれたりと失敗もあるでしょう。しかし、会社側はそのことを重々承知しています。2〜3か月程度繰り返せば、あっという間に怖い気持ちを克服できます」

「最初は誰だってドキドキ、緊張しますが必ず慣れます」と安達さん。

 自分で「2か月だけがんばって電話を取ってみよう」と目標を定めるのもいいかもしれない。そのうち「この人はあの社員に取り次げばOK」とか「聞き取りにくい人も、聞き返せば大丈夫」など、自分なりの対応策が見つかるはずだ。

 同様に、営業部に配属されて「飛び込みで営業してこい」とか「1日100件テレフォンアポイントの電話をしろ」と言われ、それが苦痛で病んでしまう人もいるという。安達さんも新入社員の頃、テレアポも飛び込み営業もさせられた。最初はドキドキした。門前払いされるのではないか。怒られるのではないか。無視されるのではないか。マイナスな思いが湧いてきたが、繰り返すうちにどんな反応も経験し、つらく当たられてもなにも感じなくなると同時に、うまくいったときのおもしろさを感じられるようになった。

 「飛び込み営業をしに行った会社の受付で『社長様か代表の方いらっしゃいますか?』と聞いて『今日はおりません』と言われたら『そうですか』といってまた次に行けばいいだけです。そのうちうまく社長と面会できると『大変だねぇ』と可愛がってもらえることもある。忙しいからと怒られたって『すみませんでした』と引けばいいだけです。最初は落ち込んでも、そのうちに絶対に慣れます。相手の反応パターンが分かってくるからです。

 かつての同僚で、さまざまな業種を経験したあとにコンサル会社に来た人がいました。その人は『100件電話しろ』といわれても、無心でやるので30分で終わっちゃう。そんな人でも100件かけて3件のアポが取れるぐらいです。もし100件かけて1件『会ってもいいですよ』と言われたら、落ち込むのではなく喜ぶべきことですよ」

 

学生時代に心得ておく

コミュニケーションのコツとは

 社会に出てすぐに必要とされるコミュニケーション力とはなんだろうか。

 「そうですね。学生時代のコミュ力というと、場を盛り上げたり、みんなをまとめたりするイメージかもしれません。しかし社会に出たら場を盛り上げなくても、おもしろい話ができなくても全然構わない。もっと大切なことがあります。

 それは、“相手の話を吟味すること”。たとえば、会社で上司に『あの件、確認しておいて』と曖昧な指示をされたとき(社会人ってけっこう、いい加減です)上司が言う『あの件』は何か、『確認は何をどこまでするのか』、吟味して聞き返せるかどうか、それが大事です。

 『きっとあの件はあのことで、確認はここまでやっておけばいいんだな』と一人合点してしまうと、上司と自分の解釈が違って後で問題になることが往々にしてあります。

 使う人によって言葉の定義が違うことは、会社ではしょっちゅうあります。たとえば部長からメールが来たとして、読んでも不明点がたくさんあるとき、それをきちんと『これはこういうことでしょうか』と確認できるかどうか。これができる人は、間違いなくスタートダッシュが早いです」

 言葉の定義が違うことは、仕事以外の場でも頻繁に起こりうる。疑問を感じたら確認することが大切なのは、どの場面でも変わらない。

 

語彙の豊富さが

コミュニケーションを豊かにする

 もう一つ、社会に出る前の準備として、語彙を増やすことも大切だと安達さんは言う。

 「今って、いいものも悪いものも“ヤバイ”“スゴイ”という言葉で済ませがちですよね。それがどうヤバいのか、どうスゴイのか、相手にも届く言葉で表現できたとき、伝わる度合いもグッと増します。まずはこれらの言葉を安易に使わないようにしてみたいですね。

 じゃあどうすれば語彙を増やすことが出来るかというと、やはり読書です。読むだけじゃなくて読書ノートを作ることをおすすめします。読み終わったらノートに本の概要を書き、その後に感想を書き留めます。これを繰り返していけば、本で得た言葉が身について、普段の会話でも豊かな表現ができるはずです。私が出会った優秀なコンサルタントはみんな、凄まじい読書家でした」

「読書はあらゆる意味で人間の幅を広げてくれる」と安達さん。

 読書で得た知識をノートに書き留めることで、今までヤバイ、スゴイとしか言えなかったことがいろいろな言葉で言い換えられるようになる。さらには、頭の中の引き出しが増えて、別の話同士を結びつけることで、人に話をしたときに「おもしろい!」という印象も与えられるようになる。

 「たとえば今話題のアニメについて話をするとします。その世界観がどういうものかと話すときに、本をたくさん読んでいると別の話と結びつけて話すことができます。『このアニメの世界観はこういう感じだと思うけれど、じつはローマ時代にも似たような逸話があって……』というような話ができると、聞く方も「なになに?」と身を乗り出すでしょう。うんちくではなく、こういう話し方ができると『この人の話は聞いておきたい』と思われるでしょう」

 2回にわたり安達さんにお話をうかがい「まずは一歩、踏み出してみよう」という安達さんのメッセージが伝わってきた。

 少しもがいて、反復を繰り返した先には、必ず今までと違う世界があるはずだ。

プロフィール

安達裕哉(あだち・ゆうや)

1975年生まれ。マーケティング会社ティネクト株式会社代表取締役。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、デロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門立ち上げに参画し、大阪支社長、東京支社長を歴任した後独立。個人ブログ「Books&Apps」は累計1億2000万PV。著書「頭のいい人が話す前に考えていること」(ダイヤモンド社)は48万部を売り上げ、2023年年間ベストセラー1位(ビジネス書単行本・トーハン調べ)となる。

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取材・文:有川美紀子 撮影:押尾健太郎 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學

 

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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