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大好きなヨーヨーを楽しみながら
世界を驚かす新技を編み出す

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法学部4年 中村 薫 さん

2024年1月8日更新

 

 最多数の世界チャンピオンを輩出している『ヨーヨー強国』日本で、二度も日本一に輝いた中村薫さん(法4)。これまであまり語ることのなかった競技ヨーヨーの世界やアスリートとしての日々、今後の展望などについて話をうかがった。

 

不可能を可能にしていく楽しさ

 中村薫さんは、令和5(2023)年のヨーヨー全国大会チャンピオン。ヨーヨーとの出会いは10歳の初夏、当時流行していたおもちゃメーカーのヨーヨーを初めて手にし、一気に夢中になった。半年後には、音楽に合わせて技を繰り広げる競技ヨーヨーの世界を知り、さらに熱中していく。一体ヨーヨーのどこに惹かれたのだろう。

 「ひとつは‘技’です。できなかった技ができるようになる楽しさ。もうひとつは‘表現’。人に見せて驚かれたり、喜んでもらったりするのがうれしいんです」

 ヨーヨーの技の数は数万にのぼる。そんな果てのない世界で、中村さんは独学で戦ってきた。現在では常識を覆す先鋭的なプレイスタイルで知られ、トリックメイカーと評されている。そのアイデアの源はどこにあるのだろうか。

 「まずは、いろんなものを観る。ヨーヨーはもちろんのこと、ダンスや芸術などさまざまなものからインプットし、組み合わせられる要素や発展させられるものがあれば、自分の演技に取り入れる。どこか変えたり新しくしたりできることはないかと、常に考えています」

 たしかに、ヨーヨーにはいろいろな側面がある。順位を競うという意味ではアスリートではあるのだが、音楽に合わせる表現は芸術的要素もあり、フィギュアスケートに近いという。ライバルたちとは、戦いが終われば仲間。演技を見せ合ってアドバイスし合ったり、技を交換したり。お互いに学ぶところがあり、仲良く高め合っていく関係なのだそうだ。

穏やかに礼儀正しく、自分の言葉で語ってくれた中村さん。大会では常識を覆す新技で世界と戦うトリックメイカーだ。

 

長年続ける原動力は楽しむ心 

 大会前の追い込みの時期には、毎日5時間も練習するという。

 「5時間といっても、演技の反復練習と並行して遊びの時間も入れています。脱力してヨーヨーで遊ぶ中でアイデアが生まれることもあるから、両方大事なんです。大会前でも演技を固めません。間近になって新しい技ができるようになる可能性がありますからね」

 中村さんは常に進行形の人なのである。

 高校時代から大会に挑戦するようになり、大学2年生の時にオンライン世界大会で優勝、その翌年には念願の全国大会優勝に輝いた。国内と海外の評価の違いなど、どのように考え、対応しているのだろうか。

 「海外では派手な演技が受けるといわれていて、それに合わせるやり方もあるし、自分らしさを貫く方向もある。それがまた面白いところではありますが、僕はまだ模索中ですね。どちらも意識しながら大会ごとの戦略を考えています。国内外問わずダンスミュージックを使う選手が多いのですが、今年の世界大会では、自分の技に合わせて、あえてゆったりとした曲調の邦楽でチャレンジしました」

 日本のみならず世界のトッププレイヤーに駆け上がった5年間。苦しい時はなかったのだろうか。

 「全国大会初優勝の前年も、優勝を目指していたのに2位で、そのあとが苦しかった。自分の表現を見つめ直し、ダンスミュージックは合わないと判断したのもこの時期です。改善点はどんな大会でもあるので、それを見つけて試行錯誤する。結果が良くても悪くても、毎回その繰り返し。それを続けて自分なりの答えを見つけていくんです」

 日々の努力と、謙虚に自分自身と向き合う姿勢。それがあるからこれだけの成績を残し続けてこられたのだろう。

 「普段はそれほど意識高くやっているわけではなく…(笑)。ヨーヨーは元々おもちゃで気楽にもできるものなので、メリハリをつけて突き詰めずにやれるんです。健康で怪我なくというのはもちろんですが、精神的に追い込みすぎないというのが大事かな。10年以上続けてこられたのは、楽しいからだと思う。追い込みすぎて楽しくなくなってしまったら元も子もないですから」

 まさに『好きこそ物の上手なれ』。歯を食いしばるのではなく、楽しみながら高みを目指しているのだ。とはいえ、大会前日は緊張から食事も喉を通らず、眠れなくなるそうだ。どのように気持ちを切り替えて本番のステージに立つのだろうか。

 「音楽が流れ、ヨーヨーを回しだしたら、緊張は消え、いつも通りの体の感覚になる。練習の時点で僕なりの正解をつくっているので、本番ではそれを淡々とやっていくだけですね」

 これぞまさにチャンピオンの領域だ。

ヨーヨーを自在に操る日本チャンピオン。全身に楽しさがあふれ、インタビューの時とはまた違う表情を見せてくれた。

 

コツや魅力をわかりやすく発信

 大学生の4年間、競技ヨーヨーのショップでアルバイトをしてきた。接客では、初心者にもヨーヨーに興味をもってもらい、続けてくれる人が一人でも増えるようにと意識しているという。接客をする中でノウハウを蓄積し、躓いている人や競技を目指す子どもたちにアドバイスをするなど、「教える技術を磨く」のが目下の目標だ。

 「始めたばかりの頃の僕には本当に動画だけが頼りでした。教える技術を磨き、いま一人で頑張っている人に、わかりやすい動画を届けたい。少しでも役立ててもらえるようなコンテンツをつくり発信していきたいですね」

 「ヨーヨー漬けの毎日です」と笑う中村さんにとって、ヨーヨーは生きる上での軸になっているもの。例えば、海外の仲間ともっと交流するために英語の勉強にも力を入れたというように、さまざまな行動の動機づけになっている。人生を豊かにしてくれた道具であるヨーヨーの魅力を、多くの人に伝えるのも自分の役目だと感じているそうだ。

 「社会人になっても、技術と表現の最先端を追求できている間は競技を続けます。いずれ引退する日がくるだろうけど、競技だけが価値ではないので、おじいちゃんになってもヨーヨーを続けていると思います」

 これまで限界の一歩先を目指し、常識を塗り替えてきた中村さん。競技での活躍はもちろん、ヨーヨー界の未来に新風を巻き起こしてくれるにちがいない。

競技と並行して、ヨーヨーの楽しさやコツをわかりやすく伝えるコンテンツづくりにも力を入れている。

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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