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しゃべりと本が大好き! 
ビブリオバトルはそんな個性を花開かせてくれた

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人間開発学部2年 廣部 太一 さん

2023年3月20日更新

「全国大学ビブリオバトル2022」でみごとチャンプ本となった「ボトルネック」を手に。

 ビブリオバトル。それは日本生まれの、ゲーム感覚を取り入れた知的書評合戦。発表参加者(バトラー)たちがおすすめ本を持ち合い、1人5分の持ち時間で書評した後、バトラーと観客が一番読みたくなった本『チャンプ本』を決定するものだ(知的書評合戦ビブリオバトル公式サイトより)。

 この大会に高校3年生で全国4位、大学2年生で全国1位の栄誉に輝いたのが、人間開発学部2年の廣部太一さんだ。廣部さんにビブリオバトルの魅力や、参加のきっかけについてお話をうかがってみた。

 

しゃべり好き、本好きの本領が発揮できると参加

 廣部さんが、ビブリオバトルをはじめたきっかけはなんだろうか。

 「偶然なんです! 高校の図書館司書の先生がビブリオバトル好きで、会を主催されていたんです。友だちに図書委員がいて、本来彼が出なきゃいけなかったんですが『じつは本なんて好きじゃない。お前、本好きだったよね? 代わりに出て!』と頼まれて、出てみたら勝ってしまった。そして学校代表になって千葉県予選も勝ち抜き、結果、全国高等学校ビブリオバトル決勝大会で、全国4位になったんです」

 よくアイドルが言う「友だちがオーディションに出るので付き添いに行ったら、なぜか自分が受かってしまった」エピソード並みのデビュー。これで廣部さんは自信を得た。

 「ビブリオバトルの『本好きがしゃべる』っていうコンセプトを見て、俺にはこれがあったんだ! 俺のための催しだ! と思いました。僕は昔からしゃべるのが大好きで、というかしゃべりすぎな人間で、ちょうど、“ひろゆき”(西村博之)みたいな感じだったんです」

 小学校のときには、自分の持っている文房具の魅力を友人にプレゼンしてまわっていたそうだ。そして、元来が読書好き。忙しくても月に2〜3冊は読む。好きなジャンルはミステリーやSFだ。初めての参戦で4位を獲得となれば、さぞ、うれしかったことだろう。

 「うーん、もちろんうれしかったですけど、一方で、『これじゃいかんな』とも思ったんです。というのは、思いがけず初出場で勝ち進んだのでちょっと調子に乗っていたんです。『皆さん、これがですね……』なんてこなれた感じでしゃべって、俺はうまいだろう! という雰囲気が出てしまった上に、『おもしろい本なんだからみなさん、読んでください!』と、自分の考えを押し付けてしまった。それに、じつはもっと好きな本があったんですが、この本のほうが大会で勝てそうだという戦略的な気持ちも出てしまっていたので……」

 しばらくは「大会の動画見た! あの本、おもしろそうだから買いますよ!」など感想を寄せられると、うれしいながらも内心では「ああ、もっとおもしろい本があるんだけど」と思っていた。だからこそ、「次は“この本がほんとうに好きなんだ!”という気持ちを伝えるためにビブリオバトルに出ようと思ったんです」

取材中、「ボトルネック」の発表を再現してくれた。すばらしい発表なのに本人は「本番ではもっと熱量が高かったんです」と謙遜。

 大学1年のときの大会はコロナのためにオンライン開催となったため、対面でしか伝わらない熱量にこだわった廣部さんは参加を見送った。3年ぶりに対面での大会となった2022年に満を持してのエントリー。

 

選んだのは人生で一番読み返した本

 まずはどの本にするか。予選大会の1週間ぐらい前まで、悩み続けた。選んだのは米澤穂信の「ボトルネック」。理由は、めったに読み返すことがない廣部さんにはめずらしく、何回も読み返しその度に違う印象を受ける本であることと、読んだことで自分が変わったと思える本だったからだ。

 「ざっくり言うと、こんな内容です。何をやってもうまくいかないし、周囲の状況も悪い方へ悪い方へと動いてしまうため、すべてに対してネガティブな男性が、ひょんなことでパラレルワールドに迷い込む。その世界には自分がいるはずの家に超ポジティブな女の子がいて、その明るさで主人公が体験してきた悪い出来事が全部クリアされていることを知るというものです。そこで主人公は『自分が生きてきた世界の悪い出来事は、すべて自分が原因なのではないか?』と考えるんです。中学生の時に読んだときには暗いなと思い、すぐに内容を忘れてしまいました。読み返したのは浪人生のときで、ちょっと勉強から逃避して本棚にあったこの本を何気なく手に取ったんですね。そうしたら中学のときに受けた印象とまったく違ったんです」

米澤穂信著「ボトルネック」(新潮社 平成21(2009)年)

 作品は、主人公が「ふっと笑った」という一行で終わる。結末を読者に委ねるような終わり方だ。中学生のときは、この笑いがすべてを諦めて死を選んだという展開に読めていたが、読み返してみると「まだいける、運命は変えられる」という意味に感じられた。

 「僕はどちらかというと受験に失敗しても『しょうがない、仕方なかった』と諦めてしまうタイプでした。しかしこの最後の一文を読んで『自分の力で変えられることは変える努力をしよう。まずは目の前の受験だ。まだ間に合うんだから勉強しよう』と、それから日々の過ごし方が変わりました。だからこの本は、僕を変えた本なんです」

「これまでの人生でこれほど一生懸命に打ち込んだのは初めてだったかも」と練習の日々を語る廣部さん。

 自宅の自室で、友人の前で、廣部さんは繰り返し繰り返し発表の練習をした。時間は5分。メッセージを熱く伝えるための語りを一心不乱に練習しつづけた。

 しかし、本大会の2日前ぐらい、大学にいるときにふと「まだ練習が足りてないのではないか」という不安に襲われた。

 「すぐ立ち上がって、学内(たまプラーザキャンパス)をウロウロしていたんですが、意外に大声を出せる場所がなく、どうしようと思っていたときに向こうから知らない先生が歩いていらっしゃるのを見かけました。すがるように『すみません、スピーチの練習がしたいのですが、どこか空いている部屋はないでしょうか!?』って訴えたんです」

 それは、人間開発学部初等教育学科の堀江紀子先生だった。事情を説明すると、空いていた部屋に廣部さんを案内してくれた。先生はその場で発表を聞き「ここはもっとこうしたほうがいい」などアドバイスまでしてくれた。思わぬ恩人の登場である。

 万全の準備で臨んだ当日。最高に熱量を込めた発表で「ボトルネック」のおもしろさを語った。高校の時のように自分の意見を押し付けず、自分はこの本のどこがおもしろく、それによって自分がどう変わったか。そして本にははっきりと記されていない結末を、自分はどう捉えたか。

 「結末についてはさまざまな意見があります。読んだ人に、あなたはどっちの結末だと思いましたか? と聞いて話し合いたいです。それはあなたが今、自分の人生についてどう思っているかという話でもあるから。僕は自分が生きている意味をあなたと話したいから、ぜひ、この本を読んでください」

 廣部さんの熱量は審査員や会場の聴衆を圧倒し、見事優勝。高校の時のリベンジを果たしたのである。会場には両親や妹、病気だった祖母も本来は入院の日だったのに延期してまで駆けつけてきた。

 「嘘だろーって言われそうなんですけど、祖母はとっても喜んでくれて、なんとその後、病気が良くなっちゃったんです」

 周囲の反響もいろいろだった。高校の同窓会ではほとんど話したことがない人まで「新聞見たよ!」と声をかけてくれたし、お世話になっていた高校の先生に報告したら、

 「お前のそのしゃべりの能力をサギとか悪い方じゃなくて、いい方に発揮されてほんとうに良かった」

 と、すごい(!?)喜ばれ方をされたそうだ。

 

もっと大学と仲良しになりたい

 ビブリオバトルを通して、なにか自分の成長や変化はあっただろうか。

 「ビブリオバトルは、あらすじを説明するだけではなくて、自分のバックボーンや、影響を受けた考え方なども含めて、『自分はこの本を読んでどう変わったのか』を語ることなんだと思いました。それを5分間で人に伝わるように話すので、前より自己主張が得意になったと思います。大学に入ってからもう一つ、自分が変わったなと思っていることがあって。それは自己主張だけではなく、人の話を聞く力が身についたことです。自分とは違う考え方を知って、話し合いたいと思うようになったのは変化だと思いますね」

 最後に、廣部さんにとって國學院大學はどんな大学なのかうかがってみた。

 「國學院大學はいろいろな設備や人に恵まれているけど、今まではそれに気がついていませんでした。でも、ビブリオバトルを通して、こちらが話せば耳を傾けてくれる大学なんだと思いました。恩人である堀江先生もそうですし、今まで学校の事務室に行く機会もあまりなかったのですが、ビブリオバトルのことを話したら『すごい! 前もって言ってくれたら応援したのに!』と言っていただきました。あと2年、大学ともっと仲良しになって卒業したいですね」

卒業後の仕事について問うと「主張だけではなく聞く人の気持ちを考えて話せるようになったので、営業の仕事かな……?」ビブリオバトルを極めては? と聞いたら「プロビブリオバトラー? それができたら最高ですね(笑)」

取材・文:有川美紀子 撮影:押尾健太郎 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學

 

 

 

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