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ちいさな英語教室の先生が小学校の先生たちの英語指導の先生になるまで

小学校外国語教育における教師教育の理論と実践 ー前編ー

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人間開発学部 准教授 長田 恵理

2022年12月15日更新

 子どもたちを教える教員もまた、教育を受け、養成されることで教員になっていく。いや、教員になった後も、その道はつづく。複数の教科を教えなければならない小学校教員が英語も教えるとなれば、なおさら――。

 教師教育を研究テーマのひとつに据える長田恵理・人間開発学部初等教育学科准教授は、こうした小学校外国語教育の最前線を見つめ、実践へつながる理論を模索している。そんな現在地点にいたる長田准教授の歩みもまた、教育界における“初等教育における外国語”のあり方と、その変遷を物語る。前後編にわたるインタビューから見えてくるのは、現場での必要に応えようとする、ひとりの研究者の姿だ。

 

 学習指導要領の改訂により、2011年度から全国の小学校で5・6年生を対象として「外国語活動」がはじまりました。2020年度からは、小学校中学年(3・4年生)で「活動」として位置づけられ、小学校高学年(5・6年生)では「教科」としての外国語(英語)が本格的に導入されました。

 こうした状況に対応すべく、初等教員養成課程において、あるいは現場で教えるようになって以降も含めた教師教育という視座で、どのように外国語(英語)を教える指導力をつけていくことができるのか、研究を進めています。

 ただ実は私自身、大学という場で小学校外国語教育について研究し、教員を目指す皆さんを相手に教壇に立つということは、かつて想像だにしていませんでした。そもそもまったく、教育畑の人間ではなかったのです。

 ひょんなことで、地域のちいさな英語教室をはじめたことが最初のきっかけでした。それまで1年半ほど住んでいたアメリカから、1993年に家族と日本に帰国。英語を話すことができるからと、当時住んでいたある地方で、地元の子どもたちを対象にした英語教室をひらいたんですね。

 私の性格ゆえなのですが、一度取り組むとなったら一生懸命になるたちでして(笑)。子どもたちに、どうしたらもっとうまく教えられるのか、自分でも調べましたし、しょっちゅう東京まで足を運んでは研修を受けるようになっていきました。

 やがて、その地域の小学校の授業に、英語のチーム・ティーチングの一員として参加するようになりました。

 2004年に構造改革特別区域のうち「小学校において英語教育に取り組む特区」として私が住んでいた地域も英語教育特区に認定されました。その少し前から、地域の小学校での英語教育が、徐々に推進されていたんですね。地域の公民館では生涯学習の一環として英会話のクラスが設けられ、私も教える立場として参加していたので、自然な流れで小学校の外国語教育の場にも、足を踏み入れるようになりました。

 全国的な潮流として見ても、2002年に施行された学習指導要領により小学校では「総合的な学習の時間」が創設され、国際理解の一環として児童が外国語、外国の生活や文化などに慣れ親しむような、小学校段階にふさわしい体験的な学習活動を行えるようになりはじめたころにあたります。

 ただ、現場の先生方は、正直申し上げて大変苦労されているように見受けられました。学級担任として多くの教科を教えなければならないなか、(当時はまだ教科ではありませんでしたが)いきなり英語を教える、あるいは教室のなかで英語を喋るとなれば、日頃熱心に自信をもってご指導されている先生であってもこわばってしまう、という場面を目の当たりにしました。小学校で英語を教えるとは思っていなかった先生方ですから、無理もありません。

 この状況をどうにかしなければ……と思いました。自分自身が様々な研修を受けながら英語の指導経験を重ねてきたこともあって、英語の指導の仕方を伝える、ということに可能性を感じはじめたんです。ただ先ほども申し上げたように、そもそも教育とは何ぞや、ということに関しては門外漢。しっかり学ぼうと大学院の門を叩いたのが2006年、すでに40代のことでした。

 いまではこうして大学の教壇に立つようになっていますが、それは図らずも、冒頭で申し上げたように小学校における外国語(英語)が「活動」として、やがて「教科」として、大きく取り扱われるようになっていく過程と一緒に歩んできた結果でもあります。現場での必要に、なんとか応えられないだろうかと考え、教えるうち、気づけば現在の立場になっている、というのが実感です。

 ただ、ひとくちに教員の教育・養成といっても、簡単な話ではありません。何よりも小学校の先生方は、大変お忙しい。これはまだ全国的に必修化される前、学習指導要領移行期の話ですが、自治体の教育委員会で任意の研修の機会が設けられていても、実際の参加者は数人……ということもありました。

 それも無理もない話なのです。小学校6年生を例にとれば、国語や算数の授業時数は各175、外国語(英語)は35(2011年当時)。総授業時数は980ですから、英語に割かれる時数は28分の1となります。28分の1である英語の授業のために、ましてや、英語指導の講師が毎回入ってくれる状況で、半日あるいはまる一日を研修に費やすというのはなかなか現実的ではないと考える先生が多くても不思議ではないでしょう。

 初等教員養成課程においては、2020年の外国語(英語)の教科化にともない、英語に関して新しくコアカリキュラムというものが策定され、小学校教員免許のための必須科目が増えました。英語の指導に必要な背景知識の獲得、英語運用能力の向上と指導力が目指されているのですが、それでもやはり英語接触の時間が足りないという面は否めません。とはいえ、教員免許に必要な授業をとっていくと卒業に必要な単位はほぼそろうので、そこでさらに英語を発展的に学習してほしいといっても、なかなか現実的ではないでしょう。

 しかし、今現在、子どもたちには英語を学ぶ授業の時間がある。あるのならば、そこで必要な教育は担保されなければならない――と私は感じます。上記のような状況は踏まえながら、初等教員養成課程という教師教育の場において、英語を教える力をどう身につけていってもらえるのか。私なりの試行錯誤を、インタビューの後編でお伝えできればと思います。

 

 

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外国語は「自分の世界にはないものを知ろうとする営み」

 

 

 

長田 恵理

研究分野

小学校外国語教育, 応用言語学

論文

イタリアの小学校外国語教育ー教師教育の視座からの一考察ー(2021/02/28)

小学校英語指導者のポートフォリオの開発:教職課程試用版の自己評価記述文の選定と今後の課題(2019/03/31)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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