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政党という営みを多方面から探求する理由

社会で意思を集約する重要な役割「政党」を探る(前編)

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法学部 教授 上神 貴佳

2022年12月5日更新

 「政党」と聞いて、「自分に関係がある」と思う人は、どれくらい、いるだろうか? 上神貴佳・法学部法律学科教授も、インタビュー中に「決して人気のある組織ではないと思うのですが……(笑)」とこぼした。それでも、と上神教授はいう。社会で意思を集約していくとき、「政党」はとても重要な役割を担っていると。

 この信念はずっと揺らがないことは、このインタビュー前編からもよくわかる。いまや一般的になった「ボートマッチ」――選挙期間中、どの政党や候補者に投票しようか悩むときに参考になるインターネット・サービスも、かつて上神教授がオランダから紹介したというのだ。

 

 自分の研究において、中心的な位置を占めている対象は、代議制民主主義における政党です。

 最近、皆さんがよくインターネット上で目にするようになったものに、ボートマッチというものがあります。衆議院・参議院の選挙期間中、アンケート形式により、投票者の考え方に最も近い政策を打ち出している政党・立候補者を教えてくれるというサービスです。

 実は、僭越ながら……日本にボートマッチという概念を持ち込んだ最初期のひとりは、おそらく私なのではないかと思っています。いえ、自負というほどではなく、追ってお話しするように私の現在の研究は手広くなりすぎているきらいがありまして(笑)、自分でも世の中に何か貢献できているのだろうか……と省みるほどですが、何とか貢献できていることのひとつが日本におけるボートマッチなのだと、今回のインタビューにあたって思い出した次第です。

 1998年からオランダではボートマッチが実施されていました。「政党の政策中心の選挙」はどうしたら実現可能だろうかと考えていた私は、現地での調査をもとに2006年「投票支援ツールと『政策中心の選挙』の実現――オランダの実践と日本における展望」という論文を書き、その取り組みを国内に紹介しました。その後、「日本版ボートマッチ・ワーキンググループ」を組織し、そこで開発したプログラムを国政選挙で利用に供しました。その時期から徐々に、日本でも投票支援ツールとしての「ボートマッチ」が広がっていったんですね。現在では候補者とマッチングするものも多いようですが、当時、私たちは政党とのマッチングにこだわりました。

 政党という営みについて、よく学生に話すことがあります。この教室ひと部屋だけで、政治的な意思をかたちづくってみる、ということを考えてみよう、と。たとえばみんなそれぞれ、自分が一番大事なものを紙に書いて出すとすれば、おそらく各々異なったことをいってくることでしょう。しかし、ひとつの共同体の場合、そこでひとつの決定をくださないといけないわけです。

 ではどうやって、政治的な意思をまとめ上げ、集約し、組織化していくのか。そのプロセスを進めていく役目を担うのが、政党なのです。

 もちろん、政党はパーフェクトな組織体だ、といいたいのではありません。ここ最近では、イタリアやスウェーデンの総選挙で極右政党が勝利し、移民排斥が進むのではないかという懸念もあるわけです。

 それでも、政党が担いうるものは大きいと私は考えています。一方では、インターネットを用いて政治的な意思を集計したほうが手っ取り早い、という議論もあることでしょう。しかし、時間や手間がかかっても、丁寧にひとつずつ、みんなの意思をまとめあげていく――そうした組織としての政党は重要であるという思いは、もはや私の信念に近いものなのかもしれません。

 なぜこのような関心を抱くにいたったのか、振り返ってみると、子どものころからの関心なのだと気づきます。私は1973年生まれで、物心がついていったのが80年代。まだ自民党政治、しかも派閥政治の花盛りといった時代です。

 中学生になった私は、親が読み終わった日本経済新聞をもらって、わからない言葉を調べてメモなどしながら読んでいくような、変わった子どもでした(笑)。読んでいくうちに経済のことは、本当になんとなくですが、わかるような気がした。みんなが自分の利益を追求し、バブル経済に向かって熱狂していく真っ只中のことです。その様子を、子どもながらに興味深く見ていました。

 ところが、政治のことはよくわからなかったのです。当時の政治報道の問題もあったのかもしれませんが、どの派閥の誰が誰と会談したとか、そういったことばかり書いてある。わけがわかりませんでした(笑)。「全然わからないものを、わかるようになりたい」――そんな好奇心が、研究者としての私の根っこにあるのだろうと思います。

 時を経て、大学院に進むことになったとき、ご縁があって佐々木毅先生(東京大学名誉教授)のもとでお世話になることになりました。政治学の顕学であり、1990年代の政治改革の中心を担ったことでも有名な方ですね。

 その改革のなかで導入されたのが、衆議院における「小選挙区比例代表並立制」でした。従来は同じ選挙区から3~5人が選ばれる中選挙区制で、自民党内で派閥・立候補者の競り合いになってしまっており、「政治とカネ」をめぐる汚職事件も立て続けに起こっていました。「小選挙区比例代表並立制」の導入は、各党の公約=政策を中心にした選挙に変えよう、という狙いがあったのです。

 ところが――これは多くの人が思っていることかもしれませんが――衆議院選挙制度の改革は、思ったほどのインパクトを残すことができませんでした。「政党の政策中心の選挙の実現」、「政権交代可能な二大政党制」や、「政党執行部のリーダーシップの確立」といった、制度改革に寄せられていた期待に、必ずしも応えられているとはいえない状況です。

 なぜだろう……という疑問が、私の現在の研究のひとつにつながっています。そこから生まれてきた研究テーマが、聞きなれない言葉かもしれないのですが、「選挙制度の不均一」という「仮説」です。

 同じ政党であっても、衆議院選挙以外に、参議院や地方議会の選挙がある。これらの選挙制度は、おなじように設計されているわけではありません。制度自体が異なりますし、たとえば地方議会では、地方ならではの地域とのつながりがあって、衆参と歩みを一にした政党の組織化がうまくいくとは限らないのはないか――という「仮説」に取り組んでいます。

 政党を起点に、ばらばらの選挙制度を「総体」として見ていくと、どんな議論の可能性があるのか。これについては、インタビュー後編でご紹介したいと思います。

 

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選挙制度が不均一な中、政党の意思の組織化はあり得るのか

 

 

 

 

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