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哀愁+笑い+韻=ジョイマン!?
人の心を動かすラップの作り方(後編)

(つながるコトバ VOL.4)

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高木晋哉さん(ジョイマン)

2022年9月19日更新

 デビュー4年で大ブレイク、その後、ゆるやかに下降した人気は「芸能界の底」まで落ち、捨て身の言葉技でバウンドし、再び人気上昇中。そんなお笑いコンビ「ジョイマン」の高木晋哉さんの真骨頂といえばラップネタ。後編では言葉の掛け合わせの妙でゆるい笑いを誘うラップはどのように生まれるのか、お話をうかがってみました。

 

しみ入るツイートと、ちょっと毒のあるラップネタ

 10000日仕事がなくて、へとへとになっても
 10001日めは何か仕事が入るかもしれない。

 Twitterで、こんな自虐とも達観とも言える切ないツイートを繰り出し、共感を集めるジョイマン高木さん。しかし、一方で高木さんの“コトバ”の力は別のベクトルにも向かっている。舞台やテレビでおなじみのラップネタだ。

 高木さんのツイートを見ていくと、いいねやリツイート数が多いのは、詩的表現の文章よりもラップネタである。そして、そのラップの魅力はちょっぴりの“毒っぽさ”なのである。

 たとえば、2021年11月15日のリツート3.6万、いいね数18.7万のツイートは、菅田将暉さんと小松菜奈さんが結婚した直後の、

 

 この先 菅田将暉 週7 小松菜奈

 

である。

 この、誰もがぼんやり(いいなぁ、菅田将暉はこれから、週7小松菜奈と……)と思う内容をストレートに言わずに韻を踏むラップに託すという技は、高木さんの得意領域だ。もちろん、「ありがとう、オリゴ糖」のようなほんわかしたものもあるが、たとえば、YouTubeで85万回以上再生されている動画「ジョイマン15周年記念単独ライブ『ここにいるよ。』ラップコント【七夕】」で繰り広げられるコントを見ていると、「彼女がほしいんだよな〜」とつぶやく池谷さんに対して、

 

 彼女〜 あき竹城

 愛人 半魚人

 初体験〜 平井堅

 世界中 ご臨終

 

 と、高木さんがラップで畳み掛けてくるのは、上の句(と言っていいかわからないが、便宜上、最初の発声部分をここではそう言わせていただく)と下の句のギャップ、そしてそこにちょっと含まれる毒が笑いを誘うのである。

 もちろん、ラップネタでも切なさが交じるものもある。上の句が「人生山あり谷あり」、うんうん、そうだよね……と思った次に出てくるのは「海にはハマグリ」。また、「明けない夜はない」、おっ、なにかいいこと言ってくれる? と期待した次が「止まない雨 それ梅雨じゃない?」

 切なさに浸ろうとしたところの足をすくう見事さ。

 

 「人生山あり谷ありのやつは、結構初期に作ったネタですね。ラップを書くときは、文章を書くときとは違う脳の部分を使うような感じです。おっしゃる通り、くっついたことがない言葉と言葉、なるべく遠い、関連性がない言葉をくっつけようとします。韻を踏めばいいってわけではなく、意外性のある組み合わせにしたいので、言葉のストックはいっぱい持ってないとできないです」

「僕たちの芸をラップって言っていいか分かりませんが(笑)、自分の言葉のストックで瞬間的に文章にしていく行為は、ラッパーの人たちがフリースタイルのラップをやるときと一緒かなと思います」

 有名人ネタは、その人のイメージとまったく違うけれど、言われてみれば「分かるかも!!」というような組み合わせが笑いを誘う。たとえば、

 

 オダギリジョー 異常 

 ジャミロクワイ 卑猥

 

などである。

 

 「人を傷つける言葉は使わないようにしていますが、『柴咲コウ 尾行』『アンミカ ゾンビ化』『さだまさし 島流し』とか、有名人の名前と、ギャップのある言葉を組み合わせることは結構あります。でも、最近はコンプライアンス的にあんまりディスるような内容は難しいですね。とはいっても、本人から怒られたことはありません。むしろ、喜ばれることのほうが多いかも」

 いずれにしても、ただ韻を踏むだけではなく、人の心を動かすラップにするには言葉のストックが相当必要なのではないだろうか。

 「はい、言葉のストックもですが、ラップを作り続けるにはラップ脳を作らないとできないんです。

新型コロナが広がりだした頃、YouTubeで『今日のラップ』として1日1ラップをアップしていましたが、目の前のものを見てすぐにラップにしていくとか、そういう訓練を日々行ってないとなかなか毎日は作れないんですよ。

 たとえば、今日は暑そうだなと思ったら『暑そう オゾン層、オゾン層 チェーンソー』っていう風に、“そう”でラップする脳みそを作る、みたいな感じです。日々、目に入ったもので練習します。これをいろんなパターンで作っていって、ストックを増やしていくんです」

 だから高木さんは誰かから「この言葉でラップ作って」と振られても即座に対応することができる。ちなみに「國學院」で作れますかとうかがったら、

 

 「國學院、國學院、全員ヒャダイン」

 

と絶妙な内容を即座に返してくれた。「もちろん、真っ赤な嘘ですけどね」というコメント付きで。

「國學院、國學院、全員ヒャダイン」とラップしてくれた。

コトバづくりのベースにある読書、歌

 本や歌もまた、高木さんの言葉ストックを増やしてきた下地だ。

 「いまはなんでも読みますね。濫読です。マンガから小説からあらゆる本。小説だと村上春樹さん、大学時代には村上龍さんも。芸人さんが書いた本もいろいろ読みます。

 小さい頃から読書が好きだったんです。小学生の頃、夢中になっていたのは『ズッコケ三人組』(那須正幹)ですね。爆笑しながら読んだのを覚えてます。中学生の頃はマンガ……。とくに『行け!稲中卓球部』(古谷実)は好きだったなぁ」

 ところで、高木さんは早稲田大学教育学部国語国文学科に入学している。しかし、ほとんど授業には出ずに図書館に入り浸っていたそうだ。そしてお笑い界に入ることを決心し、中退するという経歴を持っている。

 「そのころかな、太宰治の『人間失格』を読んでいて、厭世的、破滅的なものに憧れていたところはありますね。でもそれがラップの下地になっているかと言うと……分からないですね。

 音楽も、結構参考にしています。井上陽水さんや岡村靖幸さん、尾崎豊さんなんかの、なんていう曲のどの部分というのはすぐ出てこないんですが、言葉選びに刺激を受けています。

 とくに尾崎豊さんは、独特な言葉を使ったり、ちょっとよく意味が分からなかったり、いったいなんのことを言ってるんだろう? というような不思議な歌詞が多くて、そういうものが参考になりますね。ああ、それから一般の方からの言葉でもすごくいいものがあって、じつは『さだまさし 島流し』というのは僕のオリジナルではなくて、伊集院光さんのラジオ番組でリスナーから寄せられたハガキに書かれていたものなんです。島流しって言葉の秀逸さに感心して、あまりにいいので、伊集院さんにも断って持ちネタに加えさせてもらいました」

 ニコニコ笑いながら話す高木さんだが、常にアンテナを張り巡らせ、おそらくは目に見えるもの、耳から入ってくるものの中で、ピンとくるものを言葉のストックにしているのだろう。どんな組み合わせが並んでいるのか、見てみたい人はぜひ『ここにいるよ』を手にとってほしい。本の後半部分にはラップネタが50音順で約1000個掲載されている。

『ここにいるよ』はカバーをめくると高木さんのドアップ写真が現れる。「最初、これをカバーにしようって言われて、やめてくださいって懇願して表紙に落ち着きました」

高木さんは、2022年4月7日に『ここにいるよ ジョイマン・高木のツイート日記2010−2020』(ヨシモトブックス)を上梓した。この本では、Twitterを始めた2010年2月28日から、2020年12月31日までのツイートを読むことができる。

 

 「僕は、本に掲載されているツイート部分を読んでほしかったんですけど、本の感想はラップのことばっかりなんですよ」と高木さんは苦笑いするのだが……。

 

ジョイマンは、これからどこへ行く?

 こうして高木さんは、というよりジョイマンは、Twitterを主戦場としたコトバの力によって、一度見た地獄“芸能界の底”から浮上してきた。

 2022年5月には、サイン会0人事件の現場となった町田の商業施設で8年ぶりに、リベンジサイン会を開催。「ナナナナー」にちなんで、77人を目標にしたところ、最大100人入る会場に400人が詰めかけ、300人を断る事態になった。

 「『サイン会0人事件』の日に、あの写真を撮ってくれた人に会いたかったんですけど、会えなかった。それが残念でしたね。でも、400人ものお客さんが来てくれたのはほんとうにうれしかった。といっても、お断りした300人には申し訳なくて。サイン会って、なかなかちょうどいい加減にならないですね(笑)」

2022年5月の「リベンジサイン会」の様子。お二人の満面の笑み!

 さらに、2022年春にはユニークで先鋭的なデザインで知られるアパレルブランド「STOF」から、高木さんのリリック(たとえば、「うれしい キョンシー」とか、「おしまい 獅子舞」とか)を刺繍したTシャツが60種予約販売された。かつて「一発芸」と言われたラップによってまた表舞台に戻ってきたわけだが、これから先のジョイマンが目指すのはどんな方向なのだろう。

「JOYMAN feat. STOF」Tシャツ(予約終了のため、購入不可)。「ありがとう 金字塔」「グッモーニン 他人」と書かれている。

 

「0人サイン会」をオマージュ(?)した、STOFの広告用ビジュアル。

 

 「いま、一番目指しているのは跳躍力を高めることです! ジョイササイズっていって、ジョイマンのネタとエクササイズを融合させたものを展開してるんですが、『ヒュイゴー(Here we go)』で出てくるときからネタを言いながら身体をひねってジャンプってすごく疲れるんですよ。ジョイマンはスポーツなんです。より高く、高くと思っていたら、最初にこのネタをやり始めたときより30センチぐらいは高く飛べるようになりました。

 ただ、滞空時間が長いのでネタのテンポがずれてネタと笑いが減ってます。次のラップ、なかなか言わないな〜って思われてるかも」

 芸人さんらしく笑わせてくれる一方で、こんな展望も聞かせてくれた。

 「文章にはもっときちんと取り組んでいきたいですね。小説を書いたら? と言われることもあるんです。1回やってみましたが、Twitterの文章とまた違う脳を使わないとなかなか書けないと思いました。でも、また挑戦してみたいですね」

 いつか、切なさと哀愁と、笑いが混ざった高木さんならではの小説を読める日が来るかもしれない。

 

 

高木晋哉(たかぎ・しんや)

1980年横浜市生まれ。2003年に池谷和志とお笑いコンビ「ジョイマン」結成。2008年ショートネタブームに乗って「爆笑レッドカーペット」など数多くの番組に出演、大人気を博す。しかし2010年頃に仕事が激減し、Twitterを開始。2014年8月に開催したサイン会でお客が0人という事態をツイートしたことがきっかけで注目され、ゆるやかな再ブレイクを果たす。2021年にはペプシのCMにファーストサマーウイカさんと共演したほか、数々のCMにも出演。2022年には文章も手掛け、数々のメディアでのコラム連載のほか、2022年には10年分のツイートを編集した『ここにいるよ ジョイマン・高木のツイート日記2010−2020』(ヨシモトブックス)を上梓。

Twitterアカウント @joymanjoyman

 

取材・文:有川美紀子 撮影:庄司直人 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學

 

 

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