ARTICLE

文化継承を諦めない気持ちを繋ぐ(後編)

  • 全ての方向け
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

山梨県丹波山村 総務課所属 集落支援員(文化財担当) 寺崎美紅さん(平28年卒・124期日文)

2022年9月26日更新

 國學院大學時代に伝承文学を学んだ山梨県丹波山村の集落支援員寺崎美紅さん。オオカミ信仰で知られる七ツ石神社の再建だけでなく、オオカミの伝承をモチーフにしたブランド「Wolfship Design(ウルフシップ・デザイン)の立ち上げや、絵本『蒼い夜の狼たち』を出版するなど、オオカミ信仰と七ツ石神社の再建のドラマを語り継いでいる。

 

―― 七ツ石神社の再建で学んだ教訓は

 文化財保護の取り組みは一人ではできないので、多くの人を巻き込む大切さを学んだ。当時は村役場の人たちですら、七ツ石神社のことを殆ど知らなかった。まずは毎日、七ツ石神社の関係する資料を自分で作って、役場のプリンターで印刷することを続けた。「これ何?」と言われるたびに、神社の現状を説明した。地道にやっているうちに、「寺崎が七ツ石神社のことをやっているらしい」という話が広まってきた。さらに、「聞いたことはあるけど、どういうところかわからない」という村人の関心を引き付けるため、また、村外の民俗学ファンを巻き込むことを狙って、オオカミの絵をあしらった手ぬぐいなどのグッズを作った。

 

―― オオカミの伝承をモチーフにしたブランド「Wolfship Design(ウルフシップ・デザイン)を立ち上げた

 神社の再建に合わせオオカミを観光のシンボルにする取り組みが進んだが、それぞれに作成したグッズが流通し始め、軸が無いまま展開していく不安を感じた。折角多くの人が関わってくれた再建の想いを形にするため、オオカミを文化の象徴として、物語と一緒に語り継いでいくためには、自分の手でブランディングすることが大事だと考えた。ブランド名の「ウルフシップ・デザイン」は、オオカミを表す言葉に、スポーツマンシップなどのようにあるべき理想の姿を表す接尾語を合わせた造語だ。ロゴマークは七ツ石神社のオオカミ像をデザイン化した。

 

七ツ石神社の狛犬(オオカミ)像をモチーフにしたウルフシップ・デザインのブランドマーク。寺崎さんが携わった作品や制作物に記されている。

―― 七ツ石神社再建をモチーフとした絵本を出版した

 絵本『蒼い夜の狼たち』は、役場観光課が雲取山をPRするために「絵本をつくれないか」と発案したことがきっかけだ。丹波山村のオオカミを七ツ石神社の再建のドラマとともに広げていきたいと考えていたので、絵本の話は渡りに船だった。再建の始まりからグッズ企画を共にし、一番流れを理解してくれている画家の玉川麻衣さんに挿絵をお願いした。七ツ石神社が廃れてしまったところから再建までの物語をモチーフにファンタジーを描いた。主人公は七ツ石神社の2匹のオオカミで、崩れてしまった狛犬の目線で物語が進んでいく。小袖地区で最後の氏子だったおばあさんなど、実在の人物も登場している。玉川さんと登山しながら打ち合わせをして、空に向かって遠吠えするときの空の見え方や、新しい七ツ石神社が蘇る様子、登山した人たちには見覚えのあるシーンなどを楽しんでもらえるように工夫している。この本があることで、七ツ石神社再建の話により興味を持ってもらえている。

 

2022年1月から販売されている「蒼い夜の狼たち」著者:寺崎美紅、絵:玉川麻衣、発行:一般社団法人たばやま観光推進機構

―― 丹波山村郷土民俗資料館を拠点に活動していく

 「丹波山村では最近オオカミが熱い」とイメージしてくれる人が増えてきたが、せっかく村に来てもらっても、オオカミのことを知ることができる場所がない。資料館をこれまで以上に活用し、展示も見直していく必要がある。まず、狛犬のレプリカと再建の様子を説明したパネルを展示した。

 今後も、オオカミや七ツ石神社の物語に興味を持って足を運んでくれる人たちが集う場所づくりを、村内の学校や村外の大学などとも連携して作りたい。使われていない部屋もあるので、積極的にイベントも企画するほか、来館者がウルフシップ・デザインの商品を買えるように、ミュージアムショップの機能も持たせたい。七ツ石神社に登れない参拝者のために、遥拝所として里宮を設けることも考えている。まずは観光として丹波山村を知ってもらい、オオカミに関する文化も体感してもらえたら嬉しい。

 

―― 文化財を伝承するために、どういった行動が大切なのか

 今後は、文化財や文化に関心のある人たちとの繋がりを広げていくことを考えている。七ツ石神社の再建がきっかけになって、文化財を後世に繋いでいくことを諦めない気持ちを持つ人が、一人でも増えて欲しい。文化財というモノがなくなることは寂しいことだが、伝承文学を学んだ者としては、「モノ」という形がなくなることがあっても、人々の中で語り継がれていくことも意義があると信じている。就活時「伝承は仕事にできない」と言われたことが悔しかった。それでも、「好きでやること」と、「やらずにはいられないという気持ち」を諦められずに此処へ辿りついた。活躍の舞台が身近にはなくても、私にとっての丹波山村のように思わぬところから現れることもある。文化財に興味がある人は、同じ気持ちを持つ人との繋がりを広げ、フィールドでの学びを続けていけば、追わずにいられない道の先で出会いを待っている文化財がきっとある。

 

前ページへ

オオカミの縁に導かれ、移住先で神社再建(前編)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

MENU