國學院大學文学部史学科で日本近現代史を専攻した柳下桂一郎さん(平31卒・127期史)。勤務先のクラフトビール最大手「ヤッホーブルーイング」では、卒業論文で研究したビールの歴史と「物事に感情移入しやすい史学脳」をファンとのコミュニケーションや製品開発などに生かしているという。
――ビールと日本史、接点はどこに?
卒業論文を書くに当たって、地元の横浜を起点に西洋文化の広がりを研究しようと考えたのが始まり。大学4年間を通じてみなとみらいのビアホールでアルバイトをしていたこともあり、所属するゼミの柴田紳一教授から「ビールを切り口とする手法もある」とアドバイスをいただいて、わが国でのビールの広がりから西洋文化がどのように伝播したかを考察した。
ヤッホーはファンとのコミュニケーションを大切にしており、「超宴(ちょううたげ)」というリアルイベントなどを開催している。コロナ禍の現在はオンラインイベントも盛んに実施しており、その際に社員からお客様にビールに関する説明させていただくことがよくある。原材料の話だけではなく、「幕末に西洋から入ってきたビールは駐在外国人向けの嗜好品として横浜の山手で初めて醸造された」といった史学的視点でのことをお伝えできるのは私にしかできないと自負している。
元々は社会科の教員を目指して國學院大學に入学したが、3年次に「歴史が好きなことと歴史を教えることは違う」と思い進路変更した過去もある。特定の業界や職種を絞らず就活する中で出会えたのがヤッホー。「ビールに味を!人生に幸せを!」というミッションに新しいビール文化を創造する意気込みを感じ、歴史を学んだ私の心に響いた。社会に出て、出る杭は打たれるという文化の中では生きたくないという思いもあったので、ヤッホーなら「自分のちょっとマニアックな性格も生かせるかも」と思い、長野県へ移住しこの会社で働くこと決意した。
醸造メーカーであるヤッホーには理系のスタッフも多く、入社当初は文系出身の身として、大学で学んだことをどのように生かしていくか迷いもあった。しかし、実務を経験する中で、過去の事象にロマンを感じたり、感情移入できる歴史を学んだ者の強みを生かせている、と感じている。今、仕事としている「ブランディング」や「マーケティング」は製品やお客様に感情移入をし、それを活動として広げていく行為だと思っている。それらを考える時間のワクワク感は、博物館などで好きな遺物や絵画を見ながら過去の事象に思いを馳せている時のあの高揚感と同じだ。
――学生アドバイザーなどの経験から後輩にアドバイスを
学報編集やラジオ出演、オープンキャンパスの企画・運営などを経験させてもらい、記事を書くに当たり「読者は何を求めているのか」を考えたことは「お客様が欲しているのは何か」を模索することに通じる。他にはない紙面レイアウトの工夫を考え、実現させた経験も「個性」が求められる今の仕事に生きている。
史学科は文系で、「史学科に入ったら教職だよね」と私も周囲の友人たちも思っていた。「教職以外に学びを生かせる仕事があるの?」といった壁もあるが、史学科の後輩には、「学びで得たものは歴史に関わる仕事以外にも生きる」と伝えたい。歴史上の事象に向き合い思いを馳せ、感情移入した経験は、自分の仕事の先にある事象を考える力に繫がり、多様な仕事に生かすことができるはずだ。
やぎした・けいいちろう 平成31(2019)年國學院大學文学部史学科日本史学コース卒業、横浜市出身。在学時には学生アドバイザーとして学報編集、ラジオ出演、イベント企画などを経験。クラフトビールメーカー「ヤッホーブルーイング」で通販部門に所属し、マーケティングや製品開発に取り組む。