コロナ禍で再び注目を集めるクラフトビール。「よなよなエール」などを手掛けるクラフトビール最大手「ヤッホーブルーイング」(長野県軽井沢町)に勤務する柳下桂一郎さん(平31卒・127期史)は、「物事に思いを馳せ、感情移入しやすい史学脳」を「知的な変わり者」を求める社風に生かしているという。
--改めてクラフトビール(*)がブームを呼んでいる。
人気の背景には、クラフトビールの個性的な味わいとそれを多様に楽しむ新たなビール文化の定着があると思う。ヤッホーがつくるクラフトビールは味わいも色も多彩だし、香りも果実を思わせるものがあったり、木を思わせるものがあったりとさまざまだ。「多様性」が求められるこの時代においてヤッホーは「ビールに味を!人生に幸せを!」とのミッションを掲げ、個性的でバラエティ豊かな製品をつくることでお客様にささやかな幸せを提供したいと考えている。
コロナ禍が続く中、「家飲み」が普及したことも人気の追い風に。所属する通販部門の業績を見ても、巣ごもり需要での伸びは明らかだ。お客様の中では、その日の気分に合わせて好みのものを選び、自宅で飲む習慣もヤッホーのクラフトビールの楽しみ方として定着しつつあり、コロナ禍でも「ちょっとした息抜き、ご褒美」の時間に選んでいただいている。
(*)平成6(1994)年の酒税法改正で最低製造数量が2000klから60klに緩和されたことで「地ビール」がブームに。地域おこしに軸足を置いたため「お土産」の側面が強く2000年代に、ブームは衰退。その中でも、一部の醸造所はブーム終焉後も醸造技術やノウハウを磨き続け2010年代に入り、米国でクラフトビールが人気を博すと、国内でも「個性」を前面に出した品質重視の製品が評価され「クラフトビール」として復活。
――ビールづくりへのこだわりは
ヤッホーに集まる社員は皆、「知的な変わり者」ばかり。つくられるクラフトビールだけではなく、つくる“ヒト”も個性的だ。開発に携わるプロジェクトには、部門の垣根を越えてフラットな立場で参加でき、製品の香味やコンセプトはもちろん、デザインやネーミング、プロモーションに至るまで多様な視点を交えて議論するのが常だ。「知的な変わり者」の融合が新たなビールやその楽しみ方を生み出す原動力になると歓迎される。私の史学科での「過去の事象や人々の暮らしに思いを馳せる」経験も、お客様がヤッホーのビールとともに過ごす時間への感情移入に生きているし、歴史を学んだ身として、自分たちで0からビールやファンコミュニティの歴史を創り出していくことに面白さを感じている。
「自分の好きに夢中で生きる」をコンセプトとして、今年3月に発売した新製品「裏通りのドンダバダ」の場合、20代・30代の若手醸造士2人が、いま自分達がいちばん飲みたいクラフトビールをつくる、という思いを起点として開発が始まった。マーケティングチームも含めてテイスティングと議論を重ね2年以上の歳月をかけて、完成に導いている。ネーミングの斬新さもヤッホーの得意とするところだ。「裏通り~」はターゲットとする「自分の好きに夢中で生きる人」が集う場所としてイメージし、語感のよさから「ドンダバダ」と続けた。このネーミングに至るまで数百の案が議論の中で生まれている。
――新たな「ビール文化」が根付いた
個性的なクラフトビールの味わいは、乾杯の人数や、時間・場所に縛られないさまざま楽しみをもたらし、これまで画一的なビールが大半を占めていた日本の市場に、新しいビール文化を切り開いている。
コロナ禍の影響もあって、大人数での飲み会よりも、個人や少人数で好みに合ったビールを楽しもうというお客様が増えた。「アフター・コロナ」の新しいお酒のある時間にもクラフトビールは大いに求められてくるだろう。
「ビール=大人数で乾杯し、どんどん飲む」という今までの定番の場面は苦手な人たちにも、全く違うビールの価値を届けたい。気の合う友人と語るシーンに合うビールや、のんびりした「おうち時間」にマッチしたビール、あるいは月曜日に向けて「よし、頑張ろう!」という時に飲むビールとか、今まで飲酒に対して抱いていた感覚とは違う、「ここにビールがあるといいな」という“ふとした気分”に見合う製品を、楽しみ方とともに届けられればいいと考えている。
やぎした・けいいちろう 平成31年國學院大學文学部史学科日本史学コース卒業、横浜市出身。在学時には学生アドバイザーとして学報編集、ラジオ出演、イベント企画などを経験。クラフトビールメーカー「ヤッホーブルーイング」で通販部門に所属し、マーケティングや製品開発に取り組む。