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子どもを受容する社会の醸成を【後編】

人間開発学部 子ども支援学科 山瀬範子准教授に聞く

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人間開発学部 子ども支援学科 山瀬範子

2022年6月27日更新

 数時間おきのミルクづくりやオムツ替え、夜泣きへの対応――。育児は戸惑いの連続だ。日々、子どもが成長する喜びを感じる一方で、プレッシャーや不安に心が押しつぶされそうな時もある。かつて「女性がするもの」と言われた育児は、女性の職場進出や社会の意識の変化で、男女が分担するものに変わりつつある。国学院大学人間開発学部・子ども支援学科の山瀬範子准教授は「育児に疲れた親が『しんどい』と言える環境を社会がつくり、受け止めることが大切」と話す。後編では山瀬准教授に社会全体で子育てする意義について聞いた。

 

女性の育児時間は男性の2・5倍超 「当然」の雰囲気、払拭を

 令和4年4月、育児・介護休業法が改正され、企業に育休取得対象者への意思確認が義務付けられた。男性の育児休業取得が増えることが期待される。しかし、現状では男性の育児や家事への参加は必ずしも十分とは言えない。令和3年度に東京都が行った男性の家事・育児に対する意識調査によると、未就学児がいる家庭で、女性の一日あたりの育児時間は平均6時間10分。男性の2時間15分の2.5倍を超えている。

 

子育て世代の家事・育児関連時間(週全体平均)

引用:令和3年度男性の家事・育児参画状況実態調査(東京都公式ホームページから)

 

 女性の家事負担も大きい。一日あたり家事や買い物にかける時間は女性が2時間38分で、男性の1時間10分の2倍を超える。

 山瀬准教授は育児に対する男女差の一例として、こんなエピソードを挙げる。「父親が保育園に迎えに行くと、周囲からすごくほめられる。でも、子どもが高熱を出し、母親が仕事を休んでも誰からも評価されず当然という雰囲気になる」

 

男性の育休取得、職場の理解が不可欠

 こうした現状を変えるにはどんな施策が必要か。山瀬准教授は「育児を受容する社会を形成することが大事」と話す。例えば男性が育児休暇を取得する時には、会社の管理職や上司の理解が欠かせない。「女性の育児不安は、社会から隔絶されていることに起因するケースが多いが、男性はキャリアが断絶されることに対する不安が大きい」(山瀬准教授)。育休への心理的なハードルを越えるためには、会社全体のサポートや職場の環境づくりも必要になる。

 また、山瀬准教授は「初めての育児で両親ともに『頑張らなくては』と肩に力が入っていることもある。親が弱音や不安を発することを受け入れ、解決策を提示する環境整備も進める必要がある」と指摘する。

 例えば、育児に悩んだ時には子育て支援の仕組みなどを利用することも選択肢の1つだ。幼稚園や保育園、認定こども園のほかにも、親子で利用できる地域の児童館や、事前登録すれば子どもの送迎や一時預かりを担うファミリーサポートセンターもある。家事にかける時間を短縮できる家電や、便利な育児グッズの利用も負担軽減につながる。

 

育児の悩み打ち明けられたら、否定せずに受け入れて

 山瀬准教授の育児をテーマにした講義を受けた学生からは「できなくてあたり前と考えることが大事だと思った」「子どもが好きだから親になれば育てていけるだろうという考えが変わった」などの感想が寄せられるという。「学生の方にお願いしているのは、周囲から育児の辛さを打ち明けられた時に、否定せずにその人の素直な思いを受け入れてほしいということ。『親だから子どものためになんでもできて当然』と思わないでほしい」

 子どもを連れた人に対する社会の姿勢も大切だ。「電車の中で子どもが大きな声で泣いていたとしても、自分が子どもだったということを思いだして、嫌な顔をしないでほしい。子どもじゃなかった人は1人もいない。自分を顧みる気持ちを1人1人が持つことが、寛容な社会の醸成につながる」(山瀬准教授)

 「地域で育てた子どもが、成長して大人になり地域をつくっていく。子育ての良い循環ができればより成熟した社会になる」と話す山瀬准教授。それぞれが「子育てはみんなで」という気持ちを育てることが大切だ。

 

 

 

山瀬 範子

研究分野

教育学、教育社会学

論文

「保育者養成と子ども理解」(2020/06/30)

書評 住田正樹著『家庭教育論』(2013/06/30)

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