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ウクライナ侵攻、歴史的背景や国際社会への影響は(前編)

法学部の宮内教授、佐藤准教授が特別講義

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法学部教授 宮内 靖彦 ・ 法学部准教授 佐藤 俊輔 

2022年5月23日更新

 ロシアによるウクライナ侵攻について学生に深く考えてもらおうと、國學院大學法学会は4月18日、特別企画「ウクライナ情勢を考える」を開いた。法学部の宮内靖彦教授(国際法)と、佐藤俊輔准教授(国際政治)が、ロシアによるウクライナ侵攻に至った経緯と背景、国際社会と国際法への影響などを専門分野から論じた。前・後編に分けて詳報する。(この記事は講義が開かれた4月18日時点の情勢です)

 

【一連のウクライナ危機の経緯】 2014年にクリミア危機

 

 講義の冒頭、佐藤准教授が今回のウクライナ侵攻へと至る歴史的経緯を説明した。

 ロシアによるウクライナ侵攻の背景を理解するには、2014年のクリミア危機にまで遡る必要がある。クリミア危機は2013年11月にウクライナが欧州連合(EU)への完全加盟を目的に進めていた連合協定締結を、ビクトル・ヤヌコヴィッチ大統領(当時)が延期したことがひとつの発端となった。

 これにより開始された反政府デモが次第に拡大し、翌14年2月に政府との間で大規模な衝突が生じると、ヤヌコヴィッチ元大統領はロシアへと亡命した。親欧州の暫定政権が樹立すると、同年2月にウクライナ南部クリミア半島で親ロシア派武装集団等が最高議会などを占拠する。

 ロシア軍も活動する中、3月16日(現地時間、以下同様)、クリミアで「独立」の是非を問う住民投票が行われ、ウクライナからの独立とクリミア共和国の樹立が発表されると、ロシアは直ちにクリミアを併合した。同年4月、親ロシア勢力がウクライナ東部ドンバス地方にあるドネツク、ルハンスク両州の支配地域で「建国」を一方的に宣言。これをめぐり紛争が生じることとなった。

 15年2月、ウクライナの隣国、ベラルーシの首都ミンスクでウクライナ、ロシア、ドイツ、フランスの4カ国による首脳会談が行われ、このウクライナ東部を巡る紛争の停戦に合意した。いわゆる「ミンスクⅡ合意」で、その内容は13項目から成り、全面停戦や欧州安全保障協力機構(OSCE)(注1)による監視、ウクライナとロシア国境の管理回復、外国部隊・兵器・傭兵の撤退の他、ドネツク、ルハンスクの「建国宣言」した一部地域の残敵的な地位を規定する特別地位法適用の恒久化や脱中央集権化を軸にする憲法改正などがポイントになったが、以降、和平プロセスは停滞し続けた。

 そして2022年2月、ウクライナ東部で停戦違反が増えて対立が激化した。21 日にプーチン大統領が、ドネツク、ルハンスク州で「建国宣言」を行った2つの地域を「ドネツク人民共和国」、「ルハンスク人民共和国」として独立を承認する大統領令と、両国との相互援助条約に署名すると、24日にウクライナ東部での「特別軍事作戦」を実施 するとの演説を行い、大規模な進行を開始した。これに対しては3月2日の国連総会決議に現れたように、クリミア併合時と比べても強い非難と反発が国際社会から示されている。

 

Assessed Control of Terrain in Ukraine

Institute for the Study of War と AEI’s Critical Threars Project による ロシアの侵攻状況 (https://understandingwar.org/backgrounder/russian-offensive-campaign-assessment-may-11 または https://www.criticalthreats.org/analysis/ukraine-conflict-updates#UkraineConflictMap )

 

 

【ロシアによる侵攻の説明要因】 NATOの東方拡大、プーチン氏のイデオロギーも

 

 佐藤准教授はロシアによる侵攻の背景について次の4点を挙げ、見解を示した。

 

要因①)ドンバス地方の2国家の保護

 ロシアのプーチン大統領はその演説の中で「ドネツク人民共和国」、「ルハンスク人民共和国」両国での平和維持を特別軍事作戦の理由として挙げたが、ウクライナはロシアへの攻撃を行っているわけではなく、この目的によるキーウへの侵略に正当性を見出すことは決してできない。

 

要因②)プーチン大統領のイデオロギー

 それでは何が今次の侵略を説明する要因となるのか。第1にプーチン大統領個人の要因を考えると、プーチン大統領は2021年に「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」という論文を発表し、「ウクライナの主権はロシアのパートナーシップにおいてのみ可能となる」と主張している。このようなイデオロギーは今回の侵攻を説明する一因と成り得る。

 

要因③)ウクライナの西側への傾斜

 第2にウクライナの内政の変化が要因として考えられる。東西冷戦終了後、ユシチェンコ政権(2005~2010)が欧米との関係強化を目指すようになったが、次のヤヌコヴィッチ政権(2010~2014)は、ロシアの主張する関税同盟への加盟を見送った一方、北大西洋条約機構(NATO)加盟も目標とせず、ロシアとヨーロッパの間でバランス外交を行った。

 その後クリミア併合によりロシアとの関係が悪化すると、ポロシェンコ政権(2014~2019)下でウクライナは独立国家共同体(CIS)(注2)を脱退するとともに、憲法にNATOとEU加盟目標を明記し、西側への傾斜を強めた。この一連の変化により、ロシアが徐々にウクライナに対する影響力を失っていったことがロシアの行動を説明する背景要因として指摘される。

北大西洋条約機構(NATO)の加盟国(ヨーロッパのみ)

 

要因④)NATOの東方拡大 

 第3に国際システム的な要因として挙げられるのがNATOの東方拡大だ。当初NATOの拡大は一定程度慎重に行われたと言えるが、それでも2008年のブカレスト宣言で「ジョージアとウクライナはNATO加盟国となるであろう」との一文が挿入されたことは、その後のロシア側の認識に影響した可能性がある。この記述はその後の宣言では言及されていなかったが、2021年のブリュッセル首脳会議ではブカレスト宣言を再確認している。

 佐藤准教授は、これら諸点を挙げたとしても、それにより今回のロシアによるウクライナ侵攻が正当化されるわけでは決してないとした上で、それによる世界への影響として、(1)欧州の安全保障体制における変化、(2)国際秩序と平和への含意、それゆえの反発、(3)制裁の下でのロシアの孤立と中ロ関係、(4)グローバルガバナンスへの逆風の4点を挙げた。特に(2)に関連して、ロシアによる侵攻は武力不行使や主権平等などといった国際社会の基本原則に対し深刻な影響を及ぼしかねないと懸念を示した。

 

 後編では宮内教授による国際法から見たウクライナ危機の論点と、学生との対話を紹介する。

 

 

注1)欧州安全保障協力機構(Organization for Security and Cooperation in Europe)

1975年に欧州安全保障協力会議として設立され、1995年より欧州安全保障協力機構(OSCE)に名称変更。北米、欧州、中央アジアの57カ国が加盟している世界最大の地域安全保障機構。安保問題の政治的対話の場の提供などにより、政治・軍事、経済、人権などを含むさまざまな課題に取り組む。本部はオーストリアのウィーン。

 

注2)独立国家共同体(Commonwealth of Independent States)

ソビエト連邦が崩壊する際に、同連邦を構成していた15カ国中12カ国が参加し結成された国家連合体。ウクライナは創立当初から関与していたが、CIS憲章は批准せず、正式メンバーとしてではなくCIS創設国・パートナー国として活動に参加していた。ロシアによる2014年のクリミア半島併合に反発し、2018年正式に脱退を表明した。

 

 

佐藤 俊輔

研究分野

ヨーロッパ統合、現代ヨーロッパ外交、国際政治

論文

Civic Integration Policy in Europe between Politics and Law. Diversity within Convergence.(2018/10/09)

'The European Union and the Refugee Crisis: Reconfiguring Its Borders?'(2017/05/00)

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