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日本と世界 算数・数学教育はどう違う?

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人間開発学部初等教育学科 教授 吉川 成夫

2022年2月21日更新

タブレット端末などICT(※1)機器の活用などで今の小中学校の算数・数学教育は変化している。前編では、実際に小学校の授業で学ぶ内容や、算数を好きになるヒントを紹介した。後編は日本と世界の算数・数学教育の違いや、今の小中学生の発想力豊かな研究内容をまとめた。

【前編】変わる算数・数学教育 「解けた、分かった」が好きになる近道

かつてイギリスの数学教科書の表紙に次のような言葉があったという。

I hear, and I forget.
I see, and I remember.
I do, and I understand.

「話を聞くだけでは忘れてしまう。実際に見ると覚えられる。自分でやってみるとよく分かる」という意味だ。國學院大學人間開発学部の吉川成夫教授は「この言葉の通りで、算数・数学を好きになりたいなら、自分でやってみる、問題を解いてみること。それが『分かった』につながり、面白さや楽しさにつながる」と話す。

世界レベルで見ると、日本の生徒の数学的リテラシーはトップクラスだ。OECD(経済協力開発機構)が3年ごとに行うPISA調査(学習到達度調査 ※2)では、高校1年生の数学的リテラシーの成績はOECD加盟国中1位(平成30年)だった。

一方で、日本の子どもが苦手にする問題の傾向も分かっている。吉川教授はPISAで出題された問題の一例として「盗難事件に関する問題」を挙げる(下図)。2つの棒グラフから盗難事件の発生件数の推移を読み取り、激増しているかどうかを判断し、理由を記述する問題だ日本は、理由を適切に書けない生徒が多かったという。吉川教授は「日本の生徒は、計算は得意で図形や数量の知識はあるが、それらを使って『自分の言葉で説明する』ということが苦手」と説明する。

 「電卓は複雑な数値の問題に取り組める。調べ、確かめる学習が活発になる」

 では、日本と海外の算数・数学教育を比べるとどんな違いがあるのだろうか。例えば国際比較調査をみると、日本では授業で電卓を使うことが少ないが、海外では電卓を積極的に使うという。吉川教授は「電卓をさまざまな場面で使ったほうがいいと思う。例えば『自分たちの住んでいる街の人口密度を求めてみよう』と、電卓を使って実際の人口データを基にして計算すれば子どもたちも街の人口や面積、計算した人口密度に実感を持てるようになる。電卓を使うと複雑な数値の問題にも取り組め、『調べてみる』『やってみる』『確かめてみる』が活発になる」と話す。

吉川教授は海外の教育者から「なぜ日本の生徒は算数・数学がよくできるのか」と理由を聞かれることが多いという。「生徒の熱意や教員の指導技術の高さ、そして全国的な教育課程基準があることが大きい」(吉川教授)。例えば米国やドイツは教育課程が州によって異なる。掛け算の九九も州によって学ぶ学年が違うそうだ。

モーツァルトの協奏曲を数学的に検証する研究も

今の小中学生や高校生の発想をのぞいてみるのも面白い。理数教育研究所が毎年行い、吉川教授が審査員を務める「算数・数学の自由研究」作品コンク―ルでは、子どもたちが身の回りの「なぜ?」を起点に研究を進める。

「小学校低学年の児童が、電車の鉄橋は柱を三角形に組み合わせてジグザクに作るパターンが多いことに注目し、『なぜ三角形は強いのか』を調べレポートにしている。中学生が『モーツァルトの協奏曲について音の調和を数学的に検証する』といった疑問、興味に満ちた研究」がある(吉川教授)。理数教育研究所のサイトでは入賞作品を公開している。

算数・数学は問題の答えが必ずしも1つではない。例えば、小学6年生の算数の教科書(教育出版)にはデータの度数分布を学ぶ単元がある。2クラスの読書チャンピオンを決める場面設定だが、クラスごとの「平均値」で比べてチャンピオンを決めることもできる。データの中で最も多く出てくる「最頻値」で比べたり、ちょうど真ん中にある「中央値」で比べたりしてチャンピオンを決めるなど、見方によって結論が変わるという問題だ。

実は吉川教授、小学生の時は算数が苦手だったという。でも中学生で色々な考え方がある数学が好きになり、大学は理学部の数学科に進んだ。「算数・数学を楽しむきっかけは身近にたくさんある。構えずにチャレンジしてほしい」と話している。肩の力を抜いて、楽しみながら解くことが算数好きになる近道といえそうだ。


※1 ICT(Information and Communication Technology
情報通信技術。インターネットなどの通信技術を利用し、情報や知識の共有などのコミュニケーションを図るサービスの総称。

※2 PISA(Programme for International Student Assessment
OECD(経済協力開発機構)が実施する国際的な学習到達度調査。国の教育政策や教育実践に生かす基礎的データの提供を目的とする。読解リテラシー、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野について3年ごとに実施され、義務教育終了段階の15歳の生徒が,それまでに身に付けてきた知識や技能を,実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかを評価する。

 

 

 

吉川 成夫

研究分野

算数・数学教育

論文

自分で調べる「プログラミング学習」を通した算数・数学科における思考体系の構成(2021/06/01)

「教育課程実施状況に関する総合的調査研究での小学校ペーパーテスト調査(算数)について」(1998/02/01)

このページに対するお問い合せ先: 総合企画部広報課

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