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災厄を払う虎

今年の干支にちなんで

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文学部 教授 大石 泰夫

2022年1月15日更新

 「張子(はりこ)の虎」という民具は、古くから端午の節供や八朔祭の縁起物とされ、香川県三豊市はその生産地として知られている。ピンと張ったヒゲやゆらゆらと揺れる振り子式の首など、そのユーモラスな姿は誰もが見たことがあるであろう。

少彦名神社(大阪市)で御守の張り子の虎が付けられたササ飾りを受け取る参拝者(共同通信提供)

 この張子の虎の起源として伝えられるのが、大阪市中央区道修(どしょう)町に鎮座する少彦名(すくなひこな)神社の神農祭である。文政5(1822)年、コレラが大阪に流行した際に、薬種仲間が病除けの薬として「虎頭殺鬼雄黄圓(ことうさつきおうえん)」という丸薬を作って「神虎」(張子の虎)の御守とともに神前祈願の後に奉納したことに由来するといわれる。安政5 (1858)年にもコレラが流行し、その際にこの薬に添えられた効能を記す文書が残されている。この伝承にちなむ少彦名神社の神農祭には、「神虎笹」という縁起物が授与される。五葉笹に、張子の虎と少彦名神社のお札をつけたものとして授与され、家内安全・無病息災の御守とされている。中国の本草書『証類本草』には、「虎骨」が去風湿薬としてリウマチ、関節炎、痛風などに応用され、筋骨を強壮するためにも用いられると記載されている。虎は日本には棲息しない動物なので、この中国の伝承が伝来したものであろう。

 また、「虎頭」ということであれば、『紫式部日記』に新生児を産湯に入れる際に「虎の頭」が用意されたことが記されている。 中国では、虎は古くから鬼や邪気を退け、風を支配する瑞獣とみなされていたので、その知識によるものであろう。

岩手県大槌町の吉里吉里祭りでの吉里吉里虎舞(和藤内の虎退治)※筆者提供(平成25年撮影)

 三陸沿岸、とりわけ岩手県釜石市・大槌町には多くの虎舞という民俗芸能が伝えられる。これらは伝統的な芸能でもあるが、近年青年層の人たちによって伝承団体が結成されたものも少なからず含まれており、この地域では青壮年男子が好む民俗芸能となっている。東日本大震災のあと、瓦礫(がれき)が積み上がった被災地で、復興を願う人々によって上演された虎舞の姿が世界中に発信され、感動を呼んだことはまだ記憶に新しい。

 虎は人々の災厄を祓い、人々を勇気づける瑞獣として、東アジアの人々に信仰され続けてきたのである。

大石 泰夫

研究分野

国文学、民俗学

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