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行政や政治のあり方を地域と歴史、2つの軸で分析する「比較歴史分析」とは

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法学部専任講師 羅 芝賢

2022年3月4日更新

グローバル化が進む一方で、世界各国の政治や行政を見ると、国ごとの違いや特色も強く見受けられる。そんな中、政治や行政を考える際に、他の国や地域との“違い”を比較し、なぜその差が生じたのか、歴史をさかのぼって明らかにしようとする研究者がいる。國學院大學法学部専任講師の羅芝賢氏だ。

この手法は「比較歴史分析」というもの。国民番号制度の導入が日本で進まなかった理由を比較歴史分析によって明らかにしようとした著書「番号を創る権力-日本における番号制度の成立と展開」(東京大学出版会)は、後藤・安田記念東京都史研究所の藤田賞で奨励賞を受賞するなどの評価を受けた。

他国と比較するだけでなく、歴史を含めて考えることには、どんな意味があるのだろうか。比較歴史分析の手法やその意義について、羅氏に聞いた。

【後編】世の中の「パズル」を探すことから始まる。政治学者が語る研究のセオリー

国同士の違いを明確にし、さらにその分岐点まで歴史をたどっていく

ある国の政治を分析する際、他の国と比較し、さらになぜ国ごとの差ができたのかを歴史から検証する。これが比較歴史分析だ。羅氏は、その手法の意義をこう説明する。

「政治や行政は、絶対的な指標が存在しないものです。だからこそ、国同士を比較することで相対的な評価を行うことが可能になります。とはいえ、国同士を比較して『違い』を明確にするだけでは、その違いが生まれた根本的な原因はわかりません。歴史をさかのぼり、違いが生まれた『分岐点』で何が起きたのかを明らかにすることで、その原因や成り立ちをより深く理解できるようになるのです」

また、仮に日本では導入されていない制度について考えるとき、日本のみを研究対象にするだけでは「なぜその制度が日本にはないのか」を説明しにくい。制度が導入されている国と日本を比較し、各国の歴史的背景を明らかにすることで、その制度が「日本では導入されていない理由が見えてくる」と付け加える。

羅氏が行った比較歴史分析の一例が、冒頭に記した国民番号制度に関する研究だ。統一的な番号で個人情報を管理しようという動きは各国で起きているが、その状況は国ごとさまざまといえる。

「日本では長年、医療保険や運転免許証、公的年金など、分野ごとに異なる番号制度が運用されてきました。ようやくマイナンバーが出来上がりましたが、すべての行政サービスにつながっているわけではありません」

かたや、第二次世界大戦直後にはすべての行政組織が統一的に用いる番号制度を導入した国もあれば、統一番号が記載された顔写真付きの身分証明証を国民全員に交付する国もあるという。

こういった現状に対し、なぜ国ごとにこれほどの違いが生まれたのか、各国の歴史をさかのぼって分析していったのだ。

比較歴史分析を活用するようになった2つの理由

統一番号制度の研究結果は先述の著書に譲るとして、羅氏がこの手法を活用するようになった理由はどこにあるのか。ひとつのきっかけに挙げるのは、東京大学大学院法学政治学研究科にいた頃の先輩、前田健太郎氏(現東京大学法学部・大学院法学政治学研究科 教授)の影響だ。前田氏に紹介されたある書籍も心に残っているという。

「マイケル・マンという社会学者の書いた『ソーシャルパワー:社会的な〈力〉の世界歴史』(NTT出版)という本です。私たちは普段、ヨーロッパを一つの地域として考えがちですが、その長い歴史の流れの中では、さまざまな形の国家が現れては消えていきました。そのあり方を決める要因としての思想的権力、経済的権力、軍事的権力、制度的権力がどう結びつき、どう離れたか、その歴史が鮮やかに示されています。この本も、私が比較歴史分析を行う大きなきっかけになりました」

もうひとつ、比較歴史分析につながる背景として挙げるのは、羅氏の生い立ちである。

羅氏は韓国で生まれ、大学3年のときに交換留学で来日。その後、IT企業への就職を経て、研究の道へと進んだ。韓国と日本でそれぞれ10年以上過ごした中で「国や文化の違いに対して、自然といろいろな『なぜ?』が浮かんだ」という。

そしてこの「なぜ?」という感情こそ、羅氏の研究の基礎になるものだという。後編の記事で、その意味を聞いていく。

 

羅 芝賢

研究分野

科学技術と行政、比較歴史分析、行政学

論文

疫病と酸っぱい葡萄—感染経路追跡にまつわる権力手段について (特集 統計学/データサイエンス)(2020/09/)

行政改革とマニュアルの生成、その絶えざる悪循環について (特集 コンプライアンス社会)(2019/10/)

このページに対するお問い合せ先: 総合企画部広報課

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