ARTICLE

クリエイティブの力で社会課題を解決したい——
コピーライティングから今、目線は「ブランディング」へ(後編)

つながるコトバ VOL.1

  • 全ての方向け
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

クリエイティブ・ディレクター/コピーライター 境野理佳さん

2021年9月10日更新

 広告の第一線でクリエイティブ・ディレクター、コピーライターとして活躍する境野理佳さんにご登場いただくインタビューの後編は、今、境野さんが言葉の力を使って実現したいと考えていることや、自ら立ち上げた新規事業についてお話を伺いました。


「広告を超えて、企業の志を伝えるブランディングに注力したい」と境野さん。

 

クリエイティブはもっとビジネスを支えられる

——現在はコピーライターというよりもっとクリエイティブ全体を考えてディレクティングしていく立場なんですね。もちろん、芯にあるのは「言葉」だと思いますが、これからコトバの力をどのように使っていきたいですか?

境野さん(以下敬称略):私は今、広告クリエイティブの会社で広告制作の仕事をしているわけですけど、これからは必ずしも広告の枠にとらわれず、言葉の力をもっとビジネスの力に変えることができないかと、考えています。

 

——具体的にはどのような形を考えているのでしょうか?

境野:ブランディングです。「デザイン経営」という言葉も最近よく使われていますが、経営の場面でクリエイターの力が生かされる時代になってきたなと思うシーンが増えているように感じますし、いまや広告業界全体がその方向に行き始めているようにも感じます。従来の広告制作においては、企業が「こんなイメージで」と投げかけて、クリエイターがそれを受けて形にするという、いわば下請け的な構造で行われることが多かった。そこをもう一歩踏み込んで、経営層としっかり話をして、ビジネスにおける上流工程を一緒に作っていくようなイメージです。

 ブランディングのプロセスですが、たとえば、ある企業の社長が「当社はこういう方向性で差別化を図りたいけど、どうもその姿勢が世間に定着できていない」と悩んでいたときに、コピーライターやデザイナーが「あなたのやりたいこと、考えていることはこういうことですよね? 世界観やイメージをこのように定着して、このように発信していくと、共感する人が増えますよ」という風に、その企業の志や理念を言葉やデザインを通して可視化し、アウトプットしていくような感じでしょうか。

 

——言葉を使ったコンサルティングのような感じでしょうか?

境野:そうですね、経営層が形にできないもやもやした思いまでクリエイターがしっかり洞察して掬い上げ、ビジネスのありたるべき姿や未来をいっしょに形作っていくイメージです。私が社内で所属しているチーム自体も企業ブランディングに特化しており、弊社独自のブランディングメソッドを「共鳴ブランディング」という名前でメニュー化していますので、ブランディングにお困りの方がいらしたらぜひご相談いただきたいです。

クリエイティブの力で社会課題の解決に挑む新規事業「Lashisa」

——クライアントが持つ、もやっとした理念のようなものが、コピーやデザインというクリエイティブの力でスパッと伝わるようになる、その形を作ろうということですね。
そういえば、境野さんご自身がゼロから製品を作り上げてブランディングして、販売まで担当している「Lashisa(らしさ)」というケーキがありますね。あれはどのような経緯で生まれたのでしょうか?

 


くまのパティシェが、森の仲間が持ってきた木の実やフルーツで仲間のリスのためにケーキを焼くというストーリーに基づいて世界観が作られた「Lashisa」。アートディレクター、イラストレーターらの力を結集してデザインを決めたという。

 

境野:前職でとある企業のブランディングを担当させていただき、そのやりがいにノックアウトされて以来ブランディングのおもしろさに目覚めまして。経営者と対等に話すためにも、もっと経営の知識を付けたいという思いから、経営コンサルタントの国家資格を取ろうと、5年ほど猛勉強しておりました。しかし二次試験に4回失敗して、「どうやら、向いてないな」と。でもせっかく得た知識がもったいないので、何かに活かしたい。そう思っていたときに、社内の新規事業公募制度を思い出して「そうだ、コンサルの知識とクリエイティブのスキルを生かせる新規事業を立ち上げてみよう!」と思い至ったんです。

 ビジネスのテーマに据えた「社会課題」については、当時読んでいた広告業界誌で、「障がい者の就労支援施設における賃金の低さ」という課題を知ったのがきっかけです。賃金が低い理由は、高く売れる材を作れていない事情があるとのことだったので、「だったら、クリエイティブの力を使って思い切り高付加価値のものを作って販売し、ちゃんと賃金に還元できる仕組みを作ったら良いのではないか」と思い至り、事業計画書をまとめて社内に上申して生まれた事業が「Lashisa」なんです。グルテンフリーで糖質オフのからだにやさしい素材を使い、しかもとびきりおいしく、見た目もきれいでテンションが上がる……というパウンドケーキです。高付加価値のものにするために、レシピ開発は有名なパティシエである辻口博啓さんに猛アタックしてお願いしたんです。パッケージやコピー、イラストはまさにクリエイティブの力を結集して作りました。

 

——事業立ち上げにあたって苦労された点は何ですか?

境野:実際に製品を作る過程で、予想だにしていなかった経費もあちこちから発生して、予算もカツカツでした。たとえば糖質や脂質、タンパク質などの量を明示する栄養成分検査を専門機関に依頼したときに、ケーキ3種類分をまとめてやってくれると思っていたら、1つずつそれぞれに予算がかかると言われ、10万前後のお金が一気に3倍かかることになってしまったこともありました。その他、原価計算やパッケージ素材の選定、流通対策、ECシステムの構築、そして実際にケーキを作ってくださる障がい者の方たちへの利益配分まで、広告畑育ちの人間にとっては経験したことのない課題だらけでしたが、暗中模索しながら1つ1つクリアして出来上がっています。


Lashisaは3種類。それぞれに個性的な味わいで「ヘーゼルナッツとアプリコットのケーキ(写真上)はシャンパンと合わせるとおいしいんです」とのこと

 

——おいしいし、グルテンフリー&糖質オフで身体にもいい、しかも食べることで社会貢献ができる。

境野:はい、そこを目指しました。実際のところ、ビジネスとしてはまだまだ課題山積なのですが……。

 

——今は、言葉を紡ぐだけではなく、その周辺の形も作り上げるブランディングによって言葉の力を使っているのですね。これからは、どんな形で言葉の力を発展させていきたいですか?

境野:これは、ずっと以前から変わらないのですが、「こういうビジネスがしたい」「こんな風に世の中の役に立ちたい」と思っている方を、言葉やクリエイティブの力で後ろから支えていきたいです。自分が表に立ちたいとか、スターになりたいという気持ちはまったくありません。志はあるけど困っている人の役に立ちたい、そのためにクリエイティブの力を使えたら、自分も世の中の役に立てるのではないかと思っています。

 

——なんだか、意欲満載でいろいろやっているけど困ってる若者がいたら、採算度外視で相談にのっちゃいそうですね。

ああ、もう、なんでも聞いてください(笑)。

 


「自分は顔も名前も表に出なくていい。困っている人をクリエイティブの力で後ろから支えていきたいんです

 

境野理佳(さかいの・りか)
株式会社原宿サン・アドに勤めるクリエイティブ・ディレクター/コピーライター。第69回日経広告賞SDGs部門最優秀賞を受賞した日本ガイシ株式会社などの企業広告をはじめ、映画やファッション、化粧品など多様な業界の広告・ブランディングを手掛ける。2019年より、「クリエイティブの力で社会課題の解決に挑む」をテーマに原宿サン・アドの新規事業「Lashisa 」を立ち上げ、事業運営に携わっている。

原宿サン・アド(https://h-sunad.co.jp/
みんなにおいしいおもいやりスイーツ「Lashisa」(https://lashisa.shop-pro.jp/

 

取材・文:有川美紀子 撮影:庄司直人 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學

 

 

 

このページに対するお問い合せ先: 広報課

MENU