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コピーライターは「共感でつなぐ」
言葉を作る人(前編)

つながるコトバ VOL.1

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クリエイティブ・ディレクター/コピーライター 境野理佳さん

2021年9月10日更新

 令和2(2020)年10月、第69回日経広告賞SDGs部門で最優秀賞を受賞した日本ガイシ株式会社の広告コピー。なかなか人の目に触れることがない製品の役割をわかりやすく伝えるコピーは誰が書いたのだろう? というところから、この広告のクリエイティブ・ディレクターである境野理佳さんにお話を伺うことになりました。広告の世界で生きる境野さんが考える「言葉の力」はどのようなものでしょうか。

TVCMや新聞、雑誌広告、プロモーション、リーフレット、TVドラマの番組宣伝プロモーションから企業ブランディングまで、クリエイティブ・ディレクター/コピーライターとして活躍する境野理佳さん。

 

日経広告賞最優秀作品はどのようにして生まれた?

——昨年、日経広告賞SDGs部門最優秀賞を受賞された日本ガイシ株式会社の広告「100年前から、SDGs発想。」というコピーは、20字にも満たないのに、すごく本質を言い表していると感じます。このコピーはどのようにして生まれたのでしょうか。

境野: ありがとうございます。この広告は、日本ガイシのステークホルダー(利害関係者)に向けて、日本経済新聞にシリーズ広告として掲載されたものです。日本経済社という広告代理店からご依頼を受け、現在勤めている原宿サン・アドのクリエイティブ・ディレクターとして全体をまとめながら表現の方向性を決めていきました。

 このシリーズ広告の目的は、日本ガイシがSDGs(国連サミットで定められた、持続可能な開発目標で、17の項目がある)銘柄であることを日経読者をはじめとしたステークホルダーに知らしめることでした。つまり、日本ガイシが、SDGs達成に関連した製品・サービスを提供する企業であるということを、限られた紙面を使ってキャッチーに表現することが求められていた訳です。


日本ガイシ株式会社の2020年度企業広告。境野さんは、企業ブランドを強化するプロモーション一式(TVCM・OOH・新聞広告・WEB)をクリエイティブ・ディレクター兼コピーライターとして担当。

 

 そこで、まずは日本ガイシがどのような理念の下で、どのような製品を作ってきた会社かを徹底的にリサーチして、〝企業のDNA〟を知ろうと考えました。そして、SDGsで言われている「経済・社会・環境の調和が取れた社会の持続的な発展を目指す」という 理念との共通項を探し出すところから始めようと算段を立てました。

 そのため、社史はもちろん、社報やIR資料、新聞記事などあらゆるアーカイブ資料に目を通し、企業の本質的な価値を探っていきました。日本ガイシは、創業当時の約100年前から、セラミック技術で日本のいろいろな産業をまさに“クロコ ”のように影から支えてきた会社なのですが、調べていくほどに、そのプロダクトや技術は、世の中の課題解決のため、いわば「ソリューション」として生まれてきたものばかりだということに気づかされたんです。そして、SDGsも、まさにさまざまな社会課題の解決のために掲げられた国際目標ですので、「社会課題の解決」という点で日本ガイシの哲学と共通しているなと。そう思い至ったときに「だったら、それをストレートにコンセプトにすればいいんだ」と思いつき、クリエイティブコンセプトとして「100年前から、SDGs発想。」という言葉が生まれたんです。


当時のプレゼンテーション企画書より。コンセプトワードの生まれた道筋が記されている。

 

——雰囲気や、直感ではなくたくさんの資料や実際のプロダクトを調べぬいたときに、1つ1つ結びついて集約された言葉が生まれた感じですね。

境野: そうですね、これしかないなという感じはありました。また、このコンセプトワードは、シリーズ広告を貫くキャンペーンワードとして機能するものなので、コンセプトワードの中に「SDGs」という言葉を入れることによって、伝達スピードを早めよう、という計算もあった上で作っています。そして、この言葉を軸としてコミュニケーションの全体像を考えるべく、社内のアートディレクターやコピーライター、プロデューサーがワンチームとなってさまざまなプランを練り上げていきました。

 SDGsは、17の目標それぞれにテーマカラーがあるんですが、そのテーマに紐づくそれぞれのソリューションを、テーマカラーと絡めてシリーズでシンボリックに見せる、というアイデアがアートディレクターから出てきまして、結果、このアイデアをクライアントに採用いただき、この広告シリーズへと定着したんです。

セラミックス二次電池「エナセラ」はSDGsの17の目標のうち、「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献する技術として紹介されている。

 

——この広告を見るとプロダクトが可愛く見えるし、語っているような口調もかわいらしいです。

境野: コピーについては、日本経済社のご担当者はもちろん、弊社チームのコピーライターがとても頑張ってくれました。技術を一方的に語るのではなく、日経の読者に『なんかおもしろそうな広告だなあ』と思ってもらえるように、自虐のニュアンスも含ませつつ、プロダクト自体がチャーミングに語っているようなコピーに仕上げてもらいました。

 

——新聞で広告を見る側が「なんかかわいくておもしろい広告だな」と思うその裏側に、いろいろな作業があるんですね。境野さんはじめ関わったクリエイターの方々の模索や、想像できない資料の読み込みとか見えない部分が膨大にあって、この広告が生まれている。

境野: そうですね、もちろん、世に出る前に討ち死にしたデザインラフやコピーが山のようにあります。この案件についても、たくさんの屍が横たわってます(笑)。

 

コピーライターに作家性はいらない

——80年代頃には、広告の中でコピーやコピーライターがすごく注目を浴びて、凝縮された言葉で時代を切り取るスターのように扱われたこともありましたね。

境野: 当時もでしょうが、現在も、広告制作はコピーライター単独ではなく、チーム全員の総力を集めてはじめて成立する仕事だと思います。大きな案件だと100人以上のスタッフが集まることもありますし、一番ミニマムな、たとえばWEBバナーや小さい突き出し広告を掲載するといった案件でも、最低でもプロデューサー、コピーライター、デザイナー、撮影が必要ならカメラマン……ぐらいは関わってきます。

 

——チームで動く上に、基本的にクライアントが伝えたいことを成り代わって世の中に出すわけだから、自分の気に入った言葉とか感覚を優先することはできませんよね。

境野: もちろんそうです。クリエイティビティは必要ですが、作家性は必要ないと思います。私はこの仕事をこんな風に考えているんです。クライアントが言いたいことや、クライアントが送り出そうとしているサービスと、それを使ってくれるお客さん——一般の生活者を「共感でつなぐ」ことだと。

 クライアントが「この内容を伝えたい」と思っていたとしても、そのまま伝えるのでは生活者の共感を得られないと思ったときは、まずは本当の課題がどこにあるのかを見極めて、「この訴求ポイントを、こう表現すれば共感を得られるのではないか」と自分なりに咀嚼しながら提案していきます。自分自身もコピーライターである前に、一人の生活者ですから、自分の中の生活者の目線と照らし合わせて、そこに嘘がないように言葉を作っていくことが大事だと思っています。「こう言われたら悪くないよね」とか「うん、いいな」と自分が思えるかどうか、自分の中の本音をないがしろにしてはならない、これは強く思っていることです。

 

——ちなみに、境野さんはもともとコピーライターを目指して今の仕事に就かれたのでしょうか。

境野: いえ、じつはグラフィックデザイナーになりたかったんです。大学は文学部だったのですが、昔から絵を描くのが好きだったため在学中に夜間のデザイン学校にも通ってまして、就職は絶対デザイナーで!と思っていたんです。ところが、時代は就職氷河期でもあり、付け焼き刃のデザイナーとしての就職活動はなかなかうまくいかず、藁にもすがる思いでとある広告制作会社の門を叩き、作文を提出したところ、社長が面接時に「君はデザイナーじゃなくて、コピーライターになりなさい。」とコピーライターとして内定をくれたので、素直に「あ、じゃやります」と(笑)。

 作文に何を書いたか、ですか? 残念ながら、まったく覚えていないですね。でも、結果的にあのときデザイナーになっていたら、いまごろ路頭に迷っていたと思っています。

 「君はコピーライターになりなさい」の一言から始まったキャリアはすでに20年以上となった境野さん。今後は言葉の力を使ってどのような世界を作ろうと考えているのでしょうか。後編では、境野さんが事業コンセプトの立ち上げから取り組んだ新規事業についても語っていただきます。


「一方的に語るのではなく、共感でつなぐ言葉を作る職業がコピーライター」と境野さん。

 

境野理佳(さかいの・りか)
株式会社原宿サン・アドに勤めるクリエイティブ・ディレクター/コピーライター。第69回日経広告賞SDGs部門最優秀賞を受賞した日本ガイシ株式会社などの企業広告をはじめ、映画やファッション、化粧品など多様な業界の広告・ブランディングを手掛ける。2019年より、「クリエイティブの力で社会課題の解決に挑む」をテーマに原宿サン・アドの新規事業「Lashisa 」を立ち上げ、事業運営に携わっている。

原宿サン・アド(https://h-sunad.co.jp/
みんなにおいしいおもいやりスイーツ「Lashisa」(https://lashisa.shop-pro.jp/

 

取材・文:有川美紀子 撮影:庄司直人 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學

 

 

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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