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恋愛は、書くつらさに見合うほどの興味対象じゃない?(お笑い芸人/作家 板倉俊之さん 後編)

(シブヤの"沼"学 VOL.2)

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お笑い芸人/作家 板倉俊之さん

2021年8月31日更新

前回に引き続き、お笑いコンビ「インパルス」の板倉俊之さんに“書くという沼”についてお話を伺います。「インパルス」でもソロでも、演じるだけではなくコントの脚本もすべて手掛けるという板倉さん。小説を書くときはどんなスタイルで執筆しているのでしょうか。今回は執筆法について伺いながら、板倉さんにとっての“書く”とはなにかを探っていきます。

 

空腹に付き合ってられないから、ファミレスに16時間こもった

——良く聞かれることだと思いますが、コントと小説は書き方として違いますか?

板倉さん(以下敬称略):それは全然違いますね。表現として違うというより、コントは情景の描写が小説ほどありませんから、ネタが浮かんでしまえば制作にそんなに時間かかりません。自分の頭の中で浮かんだものを、台詞のやり取りで構成するだけで、ト書きも一切書きませんから。

 

——コントの脚本、舞台(令和3(2021)年6月に『蟻地獄』が舞台化され、脚本/演出を担当)の脚本、演出とさまざまな形の表現をしていらっしゃいますが、小説でしか表現できないものってなんでしょう。

板倉:そうですね……。たとえば銃も特殊なセットも小説ならお金がかからず使い放題なところ(笑)。まあ、テレビはある程度用意してくれますが、ライブのときは制限がありますから。

 表現方法としての違いは、コントは書いた台本が最終形の商品じゃないんですよね。自分がお客さんの前で演じたことで初めて商品になる。要するに台本って途中のものなんですよ。小説はそれそのものが商品なので、制作に時間がかかるのは当たり前っちゃ当たり前ですね。

 

『蟻地獄』の舞台では脚本、演出も手掛けた。「次は映画化ですね? ってよく言われますが、だったら金持ってきてくれ、俺に2億円くれ! と思います(笑)」

 

——小説を書くときに、書く場所の環境や道具にこだわりがありますか?

板倉:いや、とくに……。最初、大学ノートに書いていたんですが、それこそ伏線の回収とかブロックの移動とかノートだともう自分でもワケわからないぐらいゴッチャゴチャになるので「これは書く作業を中断してもパソコンを覚えたほうがいいだろう」と思ってパソコンを導入しました。それまで使ったことがなかったので、ノートに書いたものを見ながら一文字ずつカチ……カチ……って、打ち込んで使い方を覚えていきましたね。

 

——パソコン操作を覚えるのは大変だったんじゃないですか?

板倉:いやもう覚えてないですが、知らないことを一から覚えていったので大変だったと思います。だけど、もうやるしかないですからね。

 書く時間は、基本的に本業が休みの日や終わった後です。場所は家ですね。カフェで書くとか、気が散ってしまうんで僕は絶対できないです。

 ああ、でも文章を生み出す以外の作業をファミレスでやってたことはありますね。第一稿を入稿して編集部から赤が入って戻ってきたものを見直す作業のときは、ファミレスに16時間ぐらいいたこともあったかな。これも、空腹に付き合ってられないから。家だとご飯を食べるときにいったん作業を止めなきゃならないのが面倒で、ファミレスだったら注文して食べたら作業がすぐできる。

 

——そんなに長く滞在して「インパルスの板倉がいる」って噂になりませんでしたか。

板倉:いや〜だって、店員さんは早番中番遅番で入れ替わるじゃないですか。だから大丈夫ですよ。その日、シフトに入ってる店員さん全員見ましたね。

 

喫煙派だ。「前は作業しにファミレスに行ったこともあったけど、最近のファミレスは禁煙なので行かなくなった」

 

——集中すると、もう寝るのも忘れるぐらい書き続けるそうですね?

板倉:ノッてくるとそうですね。もともとゲームとかやってても夢中になると何時間もずーっとやり続けるようなタイプなんで、小説書いているときも、今まで貼ってきた伏線を回収してまとめていく過程なんかは書きたくて書きたくてしょうがない。書いていて気持ちよくて、仕事で昼間外に出ていても「早く帰って続き書きたい!」と思ってますね。「早く帰ってゲームの続きやりたい、ウズウズ」っていうのと同じです。そういうときは結末まで書かないと気持ち悪くてしょうがないんです。

 そうなっちゃうと、なおさら空腹が面倒くさい。一食しか食べないこともよくありますね。もう、1日3回も飯に付き合っていられないって感じ。3回は多いわ〜、多すぎ! って思いますよ。

 でもタバコを吸うときは、換気扇のところまで移動します。これは腰を伸ばす意味もあるんで、机で執筆しながら吸うってことはないんです。

 

——趣味でサバゲー(サバイバルゲーム)もやられているそうですが、夢中になって書いているときに誘いがあっても行かないですか?

板倉:行かないです! 無視。次の展開が思いつかなくてうなっているときだったら行くこともありますけど、次のシーンが見えてて、文章化できるってときは行かないですね。ちなみに、テレビでもサバゲーの話をよくするせいで「休みの日は全部サバゲーですか?」って言われることありますけど、そんなに行けるはずないですよ(笑)!

 

最近はサバゲーのほかにも、タイムプラスの動画などにも凝っているそう。YouTubeの「板倉趣味チャンネル」で板倉さんの趣味が公開されている。

 

新しい表現を探して一行に何日もかかることも

——逆に1行も書けない日というのもあるのでしょうか。

板倉:ありますね。『蟻地獄』のときには数行を書くのに何日もかかったこともありました。「こういう表現をしたい」っていう気持ちがあっても、自分の中にあるボキャブラリィだけだと同じ表現にしかならないんで、違う言葉でカッコよく言えないか……と思って、言葉を調べたのですごい時間かかりました。小説書き慣れている人なら、頭が辞典みたいになっていると思うんですが、『蟻地獄』を書いていたときは30か31歳かそこらだったし、そもそもそんなに本を読んでいるほうでもなかったので、ボキャブラリィが足りなかった。

 自分の中の言葉だけで表現しようとすると「うーん、なんかダサいなこの文章」となってしまう。でも『蟻地獄』のときから逃げないで納得のいく表現ができるまで向き合おう、と決めていたんです。だからこれでいいと思える一行を書くのに何日もかかったりしたんです。

 『月の炎』は主人公が小学生なんで、『蟻地獄』の孝次郎みたいな思考回路はないから、小難しい文章にしてもしょうがないなと思って自然に書いていった感じですけどね。

『蟻地獄』(新潮文庫) 裏カジノ、人身売買、集団自殺など衝撃的なシーンが連続するハードボイルドエンターテイメント。裏カジノで一攫千金を狙って行ったイカサマを見破られ、唯一の親友を人質に取られて5日間で300万円用意しろと突きつけられた主人公・孝次郎。脳内瞬発力抜群の孝次郎はいかにしてこの難題に立ち向かうか?

 

——前回(前編)、情景描写は自分が考えている世界が読者にちゃんと伝わるように、かなり細かく書くとおっしゃってましたね。心理描写の文章についてはどうなのでしょうか。

板倉:人間の感情を描写することは感じていることをそのまま書くので、あんまり苦労しないですね。感覚的なことを書くのは、建物の構造などの情景の描写をするよりはスムーズかもしれません。

 

次に切り開くのはどんな世界?

 ——今まで書かれた小説は、どんでん返しにあっと驚かされるものばかりでしたが、次は読者が伏線を深読みしたり、展開を予想するようになる気がします。そうなると次に書くときに仕掛けの部分のハードルが高くならないでしょうか。

 板倉:どうでしょう。でも、自分としては毎回違うものを書いているつもりなんです。だから次はどんでん返し無しを書くかもしれませんよね。……というと、ときどき「次は恋愛小説とかどうですか」と言われることがありますが、それはどうだろう。

 書くときって膨大なエネルギーが必要なんですよ。音のしない中、一人ぼっちでパソコン叩きながらコツコツやった作業が、「あ……これ、違うわ」って物語が破綻したことでぶっとんだりすることの繰り返しです。だから書いている中に自分が好きなもの、興味があるものが入ってないと、エネルギーが生まれてこないんです。

 『トリガー』で言えば銃ですよね。僕、銃大好きですから。『蟻地獄』なら、主人公の孝次郎や、暴力、裏社会の描写であったり。『鬼の御伽』だったら、鬼に変化する時の様子とか……。

 そういう自分の気持ちが「カッケー!」みたいに盛り上がる要素がないと、書き続けるエネルギーが保てないんです。そう考えると、恋愛小説にそれほどエネルギー注げないような気がする。

 

「一人きり、家にこもってひたすら文を書く。小説を書くって、本当に孤独で、時にはものすごくしんどい作業です」

 

——恋愛にそこまで興味がない(笑)。

板倉:うーん、興味がないというか……、うん(笑)。

 

——では、次回作はどんなものを考えていますか?

板倉:いや、それは言わないですよ……(笑)。財産ですから!

 

——今までとぜんぜん違う世界を描くのでしょうから、読者としてはどうしても興味があります。

板倉:もちろん、頭の中にはいろんな構想がありますが、それが終わりまで破綻せずにいける物語かどうか? あとは自分自身が「これはおもしろい!」と確信持てるかどうかがわからないですからね。

 僕は、世の中でこれは絶対評価される! という保証があったとしても、自分が「おもしろい!」と思えなかったら、世の中に出さないですから。

 

——逆に言うと、板倉さんがおもしろいと思っていれば、世間から不評でもOK? ますます、その「おもしろい」話の一部だけでも伺いたくなりました。

板倉:うーん……分かりました! まあ、ここで言ったからって必ずそれを書かなきゃいけない訳ではないですし。じゃあ、そうだな、魔法少女の話にしましょうか(笑)。

 

——魔法少女! いや、あのSFかもしれないし、他のなにかかもしれないという意味ですよね?

板倉:いやいや。そこはブレないでください。次回作は魔法少女です(笑)。

 

「魔法少女」は板倉さん流のサービス精神での発言か、それとも!? その答えは、次の作品の発売が決まったときに明らかになるでしょう。

 

『魔法少女』発言の真意は……。

 

プロフィール

板倉俊之(いたくら・としゆき)

1978年生まれ埼玉県出身。NSC東京校4期生。1998年堤下敦と「インパルス」結成。コントネタはすべて作成。2009年『トリガー』で小説家デビュー。以後、『蟻地獄』『機動戦士ガンダム ブレイジングシャドウ』(ノベライズ)『月の炎』『鬼の御伽』を執筆。2021年には『蟻地獄』が舞台化され、脚本・演出も担当。

 

板倉俊之Twitter (@itazuratoshiyuk)

YouTubeチャンネル 板倉作品館

YouTubeチャンネル 板倉趣味チャンネル

 

 

取材・文:有川美紀子 撮影:庄司直人 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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