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殻をつつく「啐」の音を聞いてますか?

おやごころ このおもい

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國學院大學名誉教授・法人特別参事 新富 康央

2021年5月26日更新

近くて遠い? 遠くて近い? そんな親の気持ちや大学生の子どもの気持ちを考えます。


 学生たちは今年も、遠隔授業を余儀なくされています。でも、学生たちは元気に頑張っています。入学後、学習意欲を喪失するなどの「五月病」は、あまり見当たりません。

 コロナ禍の今こそ、本学の教育指針であり、我が国の子育て論である『古事記』の「国生み」を基底とする「修理固成(つくりかためなせ)」の子育て法が生きてきます。

 その子育て法の一つが、「啐啄同時(そったくどうじ)」です。

 春は、雛が卵から孵る孵化の季節です。孵化から子育てのヒントをもらうことができます。以下は、私の友人が語る小学6年時に叱られた時の思い出です。

 その日は、児童会の地区子供会によるソフトボール大会が予定されていました。しかし、朝から小雨交じりのはっきりしない天気。児童会役員でも選手でもない彼は、児童会会長をしている友達のことを思いながら、「今頃、困っているだろうな」と、他人事のように呟きました。その時です。いきなり父親の雷が落ちました。

 「バカやろう。友が困っている時に一肌でも二肌でも脱ごうというのが、真の友達ではないか」

 父親の一喝は、彼にはうれしい言葉でした。実は、彼も心の片隅では、友達のために何かしてやらなければならないのでは、と漠然と思っていたからです。

 一押ししてほしいと思う彼の気持ちと、父親の叱るタイミングが、ぴたりと合ったのです。

 「人が困っている時には、一肌でも二肌でも脱ぐ」。この言葉が、彼の人生訓になりました。父親の一喝は、これまでとは違う社会を見る目を開かせてくれたのです。

 卵から雛が孵るタイミングを見計らって、親鳥は卵をクチバシで突いて雛が孵るのを手助けします(啐啄の機)。

 「啐 啄同時」の「啐」は鶏の卵が孵る時、殻の中で雛が突く音、「啄」は母鶏が殻を外から突き破ることです。つまり、「啐啄同時」とは、雛と母鶏との、両者のはたらきが合致するとき、うまく雛は孵るという意味です。

 これと同じように私たち親は、子どもたちが願いや救いを求めている時に、その機を逃さず指導することが大切です。

 これはまた、まだ雛が殻を破って外の世界に出ようとしないのに、母鶏が待てずに卵の殻を突いてしまうと雛は死んでしまう、という子育ての大切な戒めでもあります。

 子どもたちからは、お節介と言われようとも、私たちは人生の先達として、孵化を助ける親鳥でありたいと願います。学報連載コラム「おやごころ このおもい(第6回)」

新富 康央(しんとみ やすひさ)

國學院大學名誉教授 
法人参与・法人特別参事
人間開発学部初代学部長

専門:教育社会学・人間発達学

 

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