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【先輩に聴く】絵本づくりで痛感した失敗を恐れぬ精神の大切さ

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天竜浜名湖鉄道 本社総務課 縣健太郎さん(平19卒・115期経ネ)

2021年5月31日更新

 少子高齢化や過疎化が進む中、イベント列車の運行やグッズ販売などの増収策に懸命な全国の地域鉄道事業者。中部圏で事業展開する天竜浜名湖鉄道(静岡県浜松市)もそうした1社だ。本社総務課に勤務する縣健太郎さん(平19卒・115期経ネ)は、沿線を題材にした子ども向けの絵本づくりを提案し、商品化を実現したアイデアマンでもある。地域の子どもたちや親に喜ばれ、併せて沿線をPRする役目を果たし、増収にも結び付けるという〝一石三鳥〟の効果を引き出している。

自身が手掛けた絵本『てんはません』を手にする縣健太郎さん(本人提供)


 私が勤務する天竜浜名湖鉄道の天竜浜名湖線(通称・天浜線、掛川駅-新所原駅)は、旧国鉄の二俣線を引き継いだ地方鉄道路線。地域にとっては通勤、通学の足として無くてはならない存在で、市街地を離れると緑豊かな田園風景が車窓に広がる。そんな、のどかな旅気分を味わえるようにと、当社が国鉄二俣線全線開通80周年記念として商品化し、販売を始めた絵本が『てんはません』だ。

 小学校入学前の子どもでも理解できるよう平易な文章で綴りながらも、ローカル色を織り交ぜて地域の子どもたちの興味を高める工夫をした。一部を紹介すると例えばこんな具合だ。

『~切符を持って掛川出るよ。家がたくさん、お店がいっぱい、かんかんかん桜木着いた。花がきれい~』(原文はすべてひらがな)。

 この絵本づくりは第一子の長男誕生に伴って取得した育児休業をきっかけに思い立った。11カ月間の育休期間中、浜松市内の図書館で行われていた読み聞かせ講座に積極的に参加したことで、絵本への興味が高まった。これを踏まえ職場復帰後の営業企画会議で、新規の増収策として思い切って提案してみたという経緯だ。それまで天浜線を題材にした絵本はもちろんなかったし、生まれ育った地域なので沿線風景を容易にイメージできるという文章づくりでの安心感があり、私のやる気を後押しした。

 それでも改めて2度ほど乗車して、沿線や駅の様子などを再確認した。文章はすべて私が書き、絵は地元に住む若手画家の岩本和保さんに依頼した。

掛川駅から新所原駅をつなぐ天竜浜名湖鉄道(同社提供)

 販売は予想を上回る形で推移しているが、それ以上にうれしかったのは購入した親御さんからの反響だ。2歳ぐらいの子を持つ母親は「1日に何度も読んでくれと子どもにせがまれる」と話してくれた。

 今回の取り組みを通じて改めて感じているのは「自分がやりたいと思っていることには、失敗を恐れずにチャレンジする必要がある」ということだ。仮にトライして成功しなかったとしても後悔することはないし、若いうちなら間違いなくやり直しがきく。このことを、これから社会に巣立つ学生の皆さんに伝えたい。実は私も大学卒業後しばらく歯科器材商社に勤めており、そこから今の会社に移った転職組だ。もともと鉄道が好きだったが、入社してみて保守点検などに担当者が懸命の努力していることを目の当たりにし、驚きとともに頼もしく感じた。このことを鉄道利用者にもぜひ知ってもらいたい。

 絵本は、できるだけ多くの人に読んでもらうように、沿線市町の図書館などへの寄贈の取り組みを進めている。すでに地元の浜松市立細江図書館主催で絵本『てんはません』を活用した読み聞かせが行われることが決定した。事情が許せば第2弾の検討ができればと考えている。

 絵本『てんはません』は全16ページで、サイズは縦19センチ、横17.5センチ。販売価格は税込み880円。掛川駅、新所原駅、天竜二俣駅の売店で販売しているほか、天浜線公式オンラインショップ「てんはまや」でも購入できる。5月に入って地元大手書店の谷島屋の浜松エリア9店舗でも取り扱いが始まった。沿線住民だけでなく各方面での子どもへの読み聞かせにぜひ活用していただければと思っている。(談)

天竜二俣駅にある転車台(国指定登録有形文化財)は絵本の中でも描かれている(同社提供)


あがた・けんたろう 國學院大學経済学部を卒業し、歯科器材商社に入社。9年半ほど勤めた後に天竜浜名湖鉄道に転職。本社総務課に所属し、鉄道事業全般の管理業務を任されている。

 

 

 

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