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ゼブラの夢を叶える力「焦らず、広い心で世界を見よう」

ファーメンステーション 酒井里奈社長に聞く(後編)

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ファーメンステーション 社長 酒井 里奈さん

2021年4月21日更新

 「企業利益」と「社会貢献」。この相反する2つを目標に掲げるスタートアップ企業のことを、白黒の縞模様のシマウマになぞらえて「ゼブラ企業」と呼ぶ。世界的にも難しいとされる持続可能性ビジネスの構築に取り組むファーメンステーションの酒井里奈社長を突き動かす原動力は何か。また、未来を担う若者世代に贈るメッセージとは。

酒井里奈(さかい・りな) 東京都生まれ。平成7年国際基督教大学(ICU)卒業。富士銀行(現・みずほ銀行)、ドイツ証券で勤務。東京農業大学応用生物科学部醸造科学科で発酵技術を学ぶ。21年にファーメンステーションを起業した。【写真:ファーメンステーション提供】

―― 大学時代から起業を考えていたのか

 父が、いわゆる企業戦士の世代で、一生懸命仕事をする背中を見ていたので、社会人になるのがとても楽しみだった。でも、大学の4年間で自分が何をやりたいのか、目指すべき仕事が何かということはわからなかった。何をしたらいいかわからないから、さまざまな仕事とかかわりを持てる銀行に就職、その後外資系金融で勤務していた。充実はしていたが、「この仕事のためなら深夜まで残業し続けてもいいな」と思えるような仕事ではなかった。

 それでも、「答え」を見つけることをあきらめずに、アンテナを立てて情報収集していたら、今の仕事の核になっている「発酵技術」と出会うことができた。見つけたときは、この技術をどう広げていこうかと考えることが止まらなかった。ネガティブな考えかもしれないが「これを誰かほかの人がやってしまったら、悔しい」と思った。私は一生懸命になれることに出会ったのも、30歳を超えていたし、起業家としては遅咲きのほうだ。でも、金融業界で働いた10年の経験は無駄とは思わないし、自分にとっては必要な時間だったのだと思う。若い時は、周りの人たちの中で、自分のやりたい仕事や熱中できることを見つけた人を見ると、まぶしく見えるし、羨ましく思えるかもしれない。でも、焦ることはないので、広い心でアンテナを広げていたら、時間はかかっても、必ず見つかるはずだ。

 

―― 社会貢献をビジネスで実現しようとする狙いは 

 未利用資源の活用やサーキュラーエコノミーの構築を行うにも、大きな力があれば、多くの未利用資源を活用できるようになる。最初は、小さな取り組みから始めて、メディアにも取り上げられるようになったが、休耕田の活用はなかなか増えない。

 ゴミとして捨てられている未利用資源はまだまだある。私たちは、それを資源として活用できる発酵技術を持っている。こうして生まれた商品を世界中の人に使ってもらうところまで広げていくには、もっとペースをあげていかなければいけないと思うようになった。

 大企業などと組んで情報を発信して世の中に訴えていき、外部の投資も導入して、事業を拡大していくことが、スタートアップ企業として効果的だ。私たちが一番やろうとしているチャレンジは、ゼブラ企業としての取り組みだ。

 ゼブラ企業とは、「サステナビリティ」を重視するスタートアップのことを指し、「企業利益」と「社会貢献」の両立を目指している。昨年、日本経済新聞の特集記事で、ファーメンステーションもゼブラ企業のひとつとして取り上げられた。これは、銀行にいた当時からずっとやりたいと思っていたことであり、それにようやく「ゼブラ企業」という呼び名が付いた。ビジネスで社会課題を解決するチャレンジは難しいと思うが、無理だとは思ったことは一度もない。世界的にもまだ珍しいチャレンジをするのが私たちの使命であり、「難しいでしょ」と思っている人たちに、それを実現する姿を見せたい。

JR東グループとアサヒグループとの共創で、りんごのお酒「シードル」の製造工程から発生する副産物であるりんごの絞り残渣を原料として、りんごエタノールを精製し、ウエットティシュなどの商品に展開した。中央が酒井社長。(同社提供)

―― 私たち一人ひとりが持続可能な社会の実現に貢献するには

 一人ひとりが持続可能な社会へ貢献していくにはどうすればいいのかを示すことは、私たちにとっても大きな課題だと思っている。多くの人たちが、こうした課題解決への取り組みに気軽に参加できるような仕組みづくりも考えたい。

 消費者の皆さんは、値段が同じであっても、環境に良い商品を買うかどうかはわからない。環境に良いが、少し価格が高い場合には選ばない方がまだ多いと感じる。売り場に誰もいなくても、環境に良いほうの商品を手に取る方を増やしたい。ファッションとして消費の魅力を伝えていくのか、消費者がそれを判断できる知識を伝えていくのか、どういうやり方が効果的かはわからないが、そういう「文化」をつくっていく必要がある。

 私たちはまだその力が足りないので、大企業と協業し、環境配慮の商品が当たり前のように出回り、「ああ世の中はこんな感じなんだ」と思ってもらえたらいい。AKOMEYAとのコラボも、「わぁ!素敵な商品」と、ファッション性の高い商品を1人でも多くの人に手に取ってもらえることを期待している。若い世代には、少しでも持続可能社会について関心を持ってもらえたら、「この商品は何から作られているのか」「どこから来ているのか」など生活の身の回りのモノの背景についても気にかけるような感覚を身に付けてもらえたら嬉しい。

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