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職人として経営者として。
次の一手を打ち続ける飴細工師・手塚新理(後編)

(伝統をあやなす VOL.4)

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飴細工師 手塚新理さん

2021年3月23日更新

 受け継がれてきた「伝統」で、新しい世界を表現する。
連載「伝統をあやなす人」では、文化や芸術、芸能など「伝統」という表現方法で、“今”を描くアーティストのみなさまにお話をうかがいます。
前回に引き続き、飴細工の可能性を追求する業界の革新児・手塚新理さんにお話を伺います。後編となる今回は、次世代の育成や手塚さん自身が目指す次の一手についてお話を伺った。

 

職人であり経営者。双方のセンスを磨き、5年で2店舗をオープンさせる

 手塚さんが飴細工師と名乗って仕事を始めたのは、平成22(2010)年の終わりだ。

 「そこから3年ぐらいは飴細工だけでは食べていけなかったので、掛け持ちで配送やデザイン会社のバイトをしながら、イベントに芸人を派遣するような会社に登録し、人前で実演するなどして幅を広げていきました。徐々に仕事が入るようになったので、飴細工一本で仕事を拡大するために、思い切って『浅草 飴細工 アメシン』の店舗を浅草の今戸神社前にオープンさせたんです。平成25(2013)年、24歳のときでしたね。
 一大決心だったかって? いやでも仕事を大きくするには必要だと思ったし、内装も外観も全部自分でやりましたしね。友だちも手伝ってくれましたし、だから無借金でのスタートでしたよ」


「ロゴや店のデザインもほとんど自分でやりました。デザイン会社でバイトしてた時代、CG使ってデザインしていた経験が役立ちましたね」

 

 体験教室スペースも作られた店舗は順調に売上を伸ばしていった。テレビや雑誌で紹介されることも多くなり注目も集め、次のチャンスがやってきた。2店舗目をオープンしないかと、数か所からオファーが舞い込んだのだ。いろいろ悩んだが、浅草のランドマークである「ソラマチ」のオファーを受けて平成27(2015)年に2店舗目をオープンさせた。


「浅草 飴細工 アメシン」の東京スカイツリータウン・ソラマチ店

 1店舗目をオープンしたとき、すでに、弟子が2人いた。日本には誇るべき伝統工芸は数多いが、後継者不足で消えてしまうものもまた多い。飴細工の世界を広げるには、自分ひとりが職人としてやっていけばいいのではなく、あとに続く人間を育成しなければしぼんでしまうと分かっていた手塚さんは、即座に後継者育成にも着手したのである。
 手塚さんの飴細工を知り弟子入りを希望してきた人も入れば、一方で、ネットの求人広告も活用した。求人サイト上の企業カテゴリは「クリエイティブ」だった。

 「今、弟子は7人です。人を雇うからには、ちゃんと売上を上げていかなければならない。職人の世界って、弟子入りして何年も無給でひたすら励むっていうのが多いけど、無理ですよ。食べていくことは呼吸するのと同じで、息ができなければ続かない。産業として衰退してしまう」

 現在の弟子は、洋菓子や和菓子など製菓の世界にいた人が多いそうだ。飴細工とは親和性があるように思える。しかし、話を伺う限りでは、技術の習得はマニュアル化できるものではなく、また口伝があるわけでもない。どのようにして技術を伝えて後継者を育てているのだろうか。

 

    花川戸店の内部。販売商品は弟子の手によるものだが、展示作品は手塚さんのもの。イカやタコなどのみごとな造形はここで見ることができる。

 

  「これはもう伝えようと思って伝わるものではないんですよ。口であれこれ言っても、あるいは横に貼り付いて手取り足取り『ハサミはこう動かすんだよ』と教えたとしても、本人のものにはならないんですよ。こればっかりは自分で取り組んで、失敗して、またやってという中で見つけていくしかない。
最初の頃はなかなかインプットできない。だから本人も何が良くて何が悪いのか分からない。自分で模索を繰り返して感覚をつかんでいくしかない。もちろん、できたものについて粗を指摘したりはしますけど」

 しかし、雇用されているという安定感は時として、ある程度の技術まで身につけると安定志向に陥ることもあるようだ。

 「そこが難しいところです。アメシンのことを知ってくださる方が増えるに従って『飴を使ってこんな物を作れませんか?』など企業広告に関係するオーダーメイドの注文もいただくようになりました。そういうものは弟子には作れません。一時期は、2店舗に並べる商品もオーダーメイドも何もかも全部私がフル回転で作っていました。当然その方が早くできるし物も良い。しかし、それじゃ下の人間は成長できないし意欲もなくしてしまう。そこで2年ぐらい前に『店に並べる品はもうオレは作らないから』と宣言したんです」


オーダーメイド作品。美しいたてがみ、四肢の筋肉、いまにも動き出しそう。

 

  手塚さんは弟子たちに「自分と同じになれ」とは思っていないという。

 「平均60点でまんべんなくなんでもできるより、なにか得意分野だけに特化して110点でできればいいと思ってます。たとえば材料に関しては、元パティシエの弟子のほうが私よりも詳しいので、調達を任せることもあります。これだけは負けないという強みを持った人間が集まったほうが組織としては強くなりますしね」

 師匠としては、弟子のステップごとに目標ややりがいを見いだせるような仕事の配分に気を配っている。店舗で人気の「うちわ飴」は円盤状の飴に図柄を描いたもので、立体のものよりは比較的容易に製造できる。自分が手掛けた製品が店頭に並び、売上げがたてばやりがいを得られる。そして、次のステップを目指す意欲が出てくる。


うちわ飴は季節ごとにデザインが変わる人気商品だ。

 

 「店頭の商品は制作しないよ、と宣言したら、みんなメキメキ成長し始めたんですよ」

 そうして、手塚さん本人は企業からのオーダーメイドと、展示会やイベントでの実演販売を中心に手掛けるようになった。

 「企業からの依頼は、ほかで実現不可能なものが流れ流れてうちに来ることが多いですね。ある意味、飴細工でどこまでできるかに毎回挑戦しているようなところもあります。
たとえば、某有名宝飾ブランドからの依頼は、パンテール(ヒョウ)でした。15キロもの飴を細工するのは初めてで、材料を熱して保温する鍋も、業務用のスープジャーを使いました。男子3人がかりで、大きな棒につけた飴を一人が支え、一人が回転させ、私は刃渡り30センチぐらいある巨大な枝バサミみたいなハサミで造形していく。大きいから冷えるのも30〜1時間ぐらいかかって、熱がある間は変形してしまうので『早く固まってくれ!』と思いながら作ってました」

 
 
 
 
 
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宝飾ブランドのベントで制作した体長60cmの特大パンテール(ヒョウ)。手塚さんのインスタグラムより。

 

 この他にも、清涼飲料水のガラスボトルに入ったものを本物そっくりに作ったこともある。瓶の部分は透明で、ドリンクは瓶型の中に詰めてしまうと質感が変わってしまうので、瓶を二重に作り、間の空洞の部分に入れるようにして作ったという。これらの作品はいずれも手塚さんのInstagramにアップされているが、どれも驚くしかない出来栄えで、手塚さんの手にかかると飴細工の可能性はほとんど無限ではないか? と思えてしまう。

 
 
 
 
 
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さて、どちらが飴細工でしょう? 手塚さんのインスタグラムより。

 

すでに次を見据えて準備中「でもお披露目できるまで絶対言いません」

 平成30(2018)年、今戸神社前の店舗は手狭になったため倉庫兼工房に転用、浅草駅からほど近い花川戸に新しく店舗をオープンした。
令和2(2020)年は新型コロナウイルスの影響で店舗での体験教室も思うように開催できず、またインバウンドの客数も減少し「浅草 飴細工 アメシン」にとっても厳しい年になったそうだが、逆に時間ができたため、日頃できなかった勉強や研究に時間をかけているという。
 今の「手塚新理」から次の「手塚新理」への準備は着々と進んでいる。しかし「何をしているかは秘密です」とのこと。
 遠くへ出かけて刺激になるものを見たり、おそらくは試作にも取り組んでいるだろう。


天井にあるアメシンのロゴは手塚さんがデザインしたもの。はさみと飴をイメージしている。店内の内装についてもアイデアを出した。

 

 「いつもそうなんですよ。次のことを考えてあれこれ試しているときは絶対誰にも言わないし見せない。見せられるときが来たらドカンと見せる。今はまだ内緒です。インプットに励んでいます」

 常に進化し続ける。それが手塚新理という職人なのだ。伝統をあやなす人であり、今、伝統を作っている人。10年後、私たちが語る「飴細工ってこういうものだよね」という常識は、手塚さんによってまたも覆されているかもしれない。


花川戸店の外観。和テイストと現代的なセンスが目を引く。

 

手塚新理(てづか・しんり)
1989年千葉県生まれ。飴細工師。手塚工藝株式会社代表取締役。幼少時からものづくりに興味があり高等専門学校に入学、卒業後、花火師として就職するが理想のものづくりの実現のため退職、2010年より飴細工師として活動を始める。店舗「浅草 飴細工 アメシン」として浅草の花川戸店、スカイツリーソラマチ店の2店舗を構える。上海やニューヨーク、バルセロナなどでも実演を行い、世界からも注目を集めている。
インスタグラム  @shinri_tezuka
ホームぺージ「浅草 飴細工 アメシン」 www.ame-shin.com

 

取材・文:有川美紀子 撮影:押尾健太郎 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學

 

 

 

 

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