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関係人口につながる観光は地域の住民がつくる
~ふたたびオーバーツーリズムを起こさないために(連載第5回)

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新学部設置準備室長 西村幸夫

2021年1月29日更新

 過疎化が進む地方にとって、関係人口の創出が急務だ。少子高齢化の対抗策として、地域の外から関わる人を増やす。そういった関係人口を生み出すには、何をすべきだろうか。

「やはり重要なのは観光や交流です。コロナ禍で厳しい状況にありますが、逆に今は、これまでの観光施策を見直す時期でしょう。近年のインバウンド需要や無理のある観光施策は、関係人口につながりにくい面がありました。一方、本当にその“まち”を好きになる見せ方をすれば、むしろ今のような窮地にこそまちの外から支援が来る、本当の関係人口につながります」

 そう指摘するのは、都市工学の専門家である國學院大學新学部設置準備室長の西村幸夫教授。各地の事例を見ながら、まちづくりの魅力を伝えてきた本連載。最終回は、これからの地域を担う「観光×まちづくり」のあり方を考える。

國學院大學 新学部設置準備室長・教授の西村幸夫氏。1952年生まれ。博士(工学)。東京大学工学部都市工学科卒業、同大学院修了。東京大学教授、同副学長、マサチューセッツ工科大学客員研究員、コロンビア大学客員研究員、フランス社会科学高等研究院客員教授、国際記念物遺跡会議(ICOMOS)副会長などを歴任。専門は、都市保全計画、景観計画、歴史まちづくり、歴史的環境保全。

 

平時の観光で関係人口を増やすことが、危機から地域を救う

――この1年、観光業は非常に厳しい状況だと思います。それでも、関係人口を作る上では観光が重要なのでしょうか。

西村幸夫氏(以下、敬称略) そうですね。高齢化や人口減少は間違いなく進みます。何もしなければ地方はシュリンクしていくでしょう。古くから受け継いできたまちを持続可能にするには、地域外の支援者が必要です。観光を起点にまちのファンを増やしていくことが求められます。

 今までに関係人口を築いているまちは、この厳しい状況でこそ支援を受けるはずです。最近はクラウドファンディングやECで地域商品を購入するなど、足を運ばなくても支援ができますから。だとすると、平時の観光で着実に関係人口を増やしておくことが、非常時・災害時のサポートを生みます。以前お話ししたレジリエントなまち、回復力のあるまちづくりにつながるでしょう。

 しかし、コロナ前の観光を振り返ると、当時の観光客がどれほど関係人口に寄与したか疑問も浮かびます。

――なぜでしょうか。

西村 コロナ前は、一挙に観光客を呼び寄せるプロモーションや、他のまちとの差を感じにくいプログラム、似たジャンルの観光施設が乱立しました。確かにそれは、瞬間的に人を呼び寄せます。しかし、他地域と横並びの観光施策では、そのまち固有の良さは本当の意味で発揮されません。

 関係人口とは、長期で継続的に地域と関わる人を指します。たとえ一時的な施策で多くの人が訪れても、継続的に関わるほどまちに愛着を持つとは限らないでしょう。まちそのものに愛着を持たなければ、窮地や災害時に地域の力になろうという感情は湧きにくい。逆に、まちを好きになれば、ブームやインバウンド需要に関係なく人は動きます。地域を訪れるのが難しい状況なら、別の形でまちと関わろうとするはずです。

 実際、コロナ前にはその兆しもありました。オーバーツーリズムの問題です。

地域が何を発信するかで、訪れる観光客の姿も変わる

――どういうことでしょうか。

西村 オーバーツーリズムとは、観光客の増加が地域住民の生活やまち全体に負の影響を及ぼすことです。騒音やゴミ問題、マナーのない観光客の増加など。これらは、そのまちへの愛着や住民への敬意が薄いために起きる問題とも言えます。一部の観光地で実際にオーバーツーリズムが問題となっていました。

 しかし、これは観光客を呼び込む地域側の問題でもあるのです。まちの個性や素顔を伝えようとせず、一時的な観光施策ばかりになれば、訪れる観光客も一時的な消費で終わります。一方、まちの成り立ちや歴史をふまえ、本当にそのまちが持つ財産や個性を伝えれば、観光客の興味は“まちそのもの”になるでしょう。地域や住民への愛着、敬意が生まれ、態度は変わるはずです。観光マナーの悪化を防ぐだけでなく、関係人口につながるでしょう。

――観光客を呼び込む地域も、そのやり方を考えなければならないと。

西村 はい。これからの観光は、地域が「どんな人に来てもらいたいか」を問いただすべきです。観光はもはや一時の利益のためにあるのではありません。10年、20年と続く関係人口を増やす機会でもあるのです。だとすれば、どんな人と関係人口を結んでいきたいのか。求める人の姿を明確にして、その人たちに向けた観光施策をすべきでしょう。

――求める人の姿を明確にする。

西村 そうですね。一つの答えは、住民と同じ目線を持った人がまちを訪れることです。同じ目線になれば、住民と同じようにまちを大事にし、住民に敬意を払い、交流するでしょう。住民もそういった観光客を大切にし、快く迎え入れます。それが関係人口につながります。

 さらに住民は、遠方の人から愛されるまちに誇りを持つでしょう。この誇りがまちを大切にする気持ちを育み、まちそのものが長期的に向上します。そのまちに惹かれて、また観光客や関係人口が増えていく。こういった好循環になるでしょう。

地域の「食」も、文化や成り立ちを見つめ直すと生まれ変わる

――同じ目線を持った人を呼ぶために、観光施策として何がポイントになるのでしょう。

西村 その地域に根付いた価値、まち固有の資産を見せることです。世間のブームや流行でなく、古くから地域が持つ良さを見せるからこそ、訪れる人はまち自体に興味が湧きます。

 そこで必要なのは、観光客を呼び込む側が、自らのまちの歴史や成り立ちを知り尽くすことです。歴史や成り立ちを紐解くと、同じまちはありません。そのまちだけの個性が浮かび上がります。何より、まちの個性に基づいた観光施策や発信は、今あるものを材料にするのでコストもかかりにくい。既存のものを磨き直すのですから。

――この連載でも、さまざまなまちの歴史を紹介してきました。確かに話を聞くと、まちの印象が大きく変わります。

西村 その象徴と言えるのが、前回紹介した北海道・帯広ですよね。住民の方が普段何気なく歩いている“斜めの通り”が、実は北海道開拓史に関係する重要な痕跡なのです。それを知ると、まちが違う輝きを放ってきます。

「帯広市街図」(1965年)(出典:『帯広市史』)

 そういったまちの個性を紹介することが、未来の観光施策では重要でしょう。ガイドが付いてまちの中を巡るツアー企画は分かりやすい例。とはいえ、旅行会社の人がガイドをやればコストもかかります。理想は、住民の有志がガイドとなり、まちの歴史、深い魅力を伝えていくこと。それが有償でできるくらいのレベルになると良いですね。

 あるいは、まちの個性をきちんと伝えるガイドブックが増えると良いと思います。「ミシュランガイド」というと、レストラン紹介が有名ですが、地域を深く紹介する「ミシュラン・グリーンガイド」というものもあります。こういった媒体が増えて欲しいと思います。

 同じことは、地域の「食」にも言えるのです。たとえば和牛や海産物、野菜などには、全国に有名な産地がたくさんあります。それらは、地域ごと少しずつ味わいや調理法、食べ方が異なっています。なぜなら成り立ちや文化が違うからです。それを深く知ると、個性がより際立つでしょう。この料理が地域の中でどう扱われてきたのか、まちの文化、人々の営みの中でどんな位置付けだったのか。それが明確になれば、より差別化できるわけです。

――地域の資産を深く理解すると、食においても差別化が進むと。それがまちの愛着になり、関係人口の創出に近づくわけですね。

西村 はい。観光は関係人口を生み、まちづくりの原動力となります。私が観光とまちづくりを合わせた「観光まちづくり」を研究するのは、こういった関係があるからです。そして観光まちづくりの一歩目は、住民がまちを知ること。今は、その仕掛けを各地域が作る時期ではないでしょうか。

(おわり)

このページに対するお問い合せ先: 総合企画部広報課

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