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異なる者同士が居合わせること――アニメと「リアル」の共存に学ぶ

「新しい世界」を生きるための知

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経済学部准教授 木村秀史

2021年3月8日更新

 夜ごとにアニメを見て、ライブイベントにも足を運ぶ――専門の国際金融とは別に。木村秀史・経済学部准教授は近年、アニメにハマる中で、アニメ産業市場の力と、「リアル」な場のもつ意味を肌で感じてきたという。
 市場の動向と自身のアニメ遍歴を語ってきたインタビュー前編。今回の後編では、「アニメ」における「リアル」な交流の意義について、さらに考えを深めていく。アニメの舞台となった現実の地域をファンが訪れる「聖地巡礼」は注目を集めてきたが、地域とファンの「共存」のあり方も、アニメという枠を超えて示唆に富んでいる。「リアル」と「ヴァーチャル」とを行き来するアフターコロナを生きる私たちにとって、今後を考える試金石にもなるはずだ。

 

 インタビュー前半では、2兆円規模のアニメ産業市場においてライブエンタテイメント市場が持つ意義、そしてその現場の熱気について、私が見聞きしてきた範囲でお話ししてきました。
 面白いのは、アニメソングのライブにくるファンたちは、とてもさまざまな楽しみ方をしている、ということです。通常のライブでしたら、そのアーティストが好き、あるいは音楽そのものが好き、という人がほとんどでしょう。もちろんアニソンのライブにおいてもそうした方々もいるのですが、それだけではなく「キャラクターが好き」というケースも多く存在するのです。ステージ上にいるのは声優さんですが、その声優さんが演じている「キャラクター」を愛している。
 さらに興味深いのは、この「キャラクター愛」は、かなり長く持続する場合があることです。アニメ自体はとっくに終わっていても、アニメの「キャラクター愛」はそこまで急速にしぼんでいかない。
 アニメの製作側もそれをよくわかっています。たとえば私は『となりの吸血鬼さん』というアニメが好きなのですが、この作品は決して大ヒットした作品ではありません。テレビ放送自体も、平成30(2018)年の10月~12月で終わっています。しかしその後も、断続的にキャラクターグッズが出され、「リアル」なイベントも開催され、ファンたちの熱気はゆっくりと持続しているのです。作品によっては、こうした「キャラクター愛」に支えられて、二期(続編)がつくられる場合もあることでしょう。
 「作品愛」や「キャラクター愛」は、「リアル」な場の礎となり、また次なる「リアル」を動かしてもいくわけです。

 

 こうした状況は、近年注目を集めてきたアニメ作品の「聖地巡礼」にかんしても、考える手がかりを与えてくれます。
「聖地巡礼」とは、アニメ作品の中で描かれた現実の地域を、アニメファンたちが実際に観光で訪れることです。大きな注目を集めたのは、平成19(2007)年に放送された『らき☆すた』の中で描かれた、埼玉・久喜の鷺宮神社です。平成23(2011)年放送『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の舞台となった埼玉・秩父、平成24(2012)年放送『ガールズ&パンツァー』における茨城・大洗、平成28(2016)年放送『ラブライブ!サンシャイン!!』での静岡・沼津など、「作品愛」に加えて、長く持続する「キャラクター愛」にも支えられて、いまだに多くのアニメファンが訪れています。

 


埼玉県久喜市の鷲宮神社。末社の八坂神社のお祭りでは「らきすた神輿」渡御が行われている。

 

 そして、現地の人たちもアニメの聖地として、地域をあげてファンたちをあたたかく迎え入れてくれているのです。私自身も、沼津や大洗へ足を運んできました。
やがて「聖地巡礼」をもくろみ、アニメと地域が手を組んでPRしていくような例も多く出てきましたが、決してすべての試みがうまくいっているわけではありません。そもそも作品がヒットしなければ「聖地巡礼」は喚起されませんし、地域の側があまりに盛り上げようとすると、今度はアニメファンの側が冷めてしまう(笑)。このあたりのバランスは、非常に難しいものがあります。

 

昨今では「聖地移住」も増えているという、静岡県沼津市。

 ただ、「聖地巡礼」で人気の場所に共通していえるのは、アニメファンたちに対する地域の理解が深い、ということです。しかも重要なのは、「地元の人たちが決してアニメファンであるわけではない」ということなんです。
 たとえば地元の高齢者の人たちにとって、アニメの世界自体は特に楽しいものではないかもしれません。しかし、自分がアニメを好きではなくても、「ファンたちがそのアニメが好きだということ自体に共感する」ことができれば、「共存」への道が開かれます。
 自分とは異なる趣味を持つ人がいることへの理解。考えてみれば普遍的なことのような気もしますが、これこそが「聖地巡礼」の鍵かもしれません。
 すると今度は、巡礼するアニメファンの側が、地域に魅力を感じていく。聖地巡礼をするうち、アニメやキャラクターへの愛を越えて、その地域自体や、地元の人たちとの交流が好きになっていくアニメファンもいるんですよ。

 

 

 もちろんコロナ禍においては、ここまで述べてきたような「リアル」な場は制限されざるをえません。しかし、アニメと「リアル」の関係性において行われてきた独自の試みは、逆に「ヴァーチャル」が存在感を増している今の私たちにとっても、新しい「共存」へのヒントを与えてくれているように感じます。
 私自身もこれから、専門の国際金融の研究を進めながらも、アニメのことを考え続けたいと思います。その際の観点も本インタビューのように、「リアル」な産業・ビジネスとしてのアニメということになるでしょう。いつの日にか、論文のような形できちんとまとめてみたいですね。これからも、アニメの世界と「リアル」を行き来したいと思います。

 

 

 

 

 

木村 秀史

研究分野

国際金融、途上国の通貨統合、最適通貨圏の理論、GCC通貨統合、Monetary Union in Depeloping Countries Optimum Currency Area Endogenous of Optimum Currency Area Monetary Union in the Gulf states

論文

GCCの金融市場と金融統合の現状と課題(2014/09/00)

ユーロ危機の構造 -域内経常収支不均衡の視点から-(2013/08/00)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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