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アニメ産業の興隆とそこから生まれる共存の形とは

「新しい世界」を生きるための知

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経済学部准教授 木村秀史

2021年3月8日更新

 

 アニメというと、「2次元」「ヴァーチャル」といったイメージがあるかもしれない。しかし、昨今のアニメ産業は、音楽ライブや聖地巡礼など、「リアル」な場における人々の交流――いわば「リアル」な「共存」が盛り上がりを見せてきた。
 「リアル」とまじりあうアニメ。そうした場の只中に参加しながら産業の状況を考えてきたのは、木村秀史・経済学部准教授だ。研究者としての専門分野は、途上国の通貨統合といった国際金融。あくまで趣味として知見を広げてきたアニメの世界だが、見えてきたものがあるという。奇しくも現在は「リアル」が制限される状況。示唆的な「リアル」とアニメの関係を、実感を踏まえつつ前後編インタビューで語っていく。

 

 私の専門は国際金融です。アニメ産業やアニメビジネスについては講座などでお話しさせていただくことはあるのですが、お恥ずかしながら専門家ではなく、あくまで趣味の領域ではあります。ただ、作品の内容、コンテンツの批評をする方はたくさんいらっしゃると思うのですが、私の場合はアニメオタクでありながら客観的にアニメビジネスや産業の状況を見てきたからこそ、お話しできることがあるように感じています。

 

 そもそも、アニメオタクといっても少し前までは『機動戦士ガンダム』といったロボットものや、『進撃の巨人』といったバトル作品などが好きで見ていました。私が本学に赴任したのは令和元(2019年)なのですが、それまで6年間教えていた大学で、アニメの世界が広がっていくことになりました。NHKの紅白歌合戦にも出た人気アニメ『ラブライブ!』について、学生から「先生も見てくださいよ!」と誘われたんですね。
 いわゆるアイドルものというのは初めて見たのですが、完全に新たな世界の扉が開きました(笑)。以来、いろんなジャンルのアニメを見るように。『ご注文はうさぎですか?』といったようなほのぼのとした「日常系」や、『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』のような感動ドラマ、『ヒプノシスマイク』といった女性向けのアニメも見ます。

 アニメは産業としても、非常に興味深いものがあります。平成30(2018)年時点で、日本のアニメ産業市場は2兆円超。10年前と比べると、2倍以上の数字です(一般社団法人日本動画協会「アニメ産業レポート2019」)。さすがに近年は急激な成長にこそブレーキはかかったものの、依然として有力な産業であることは間違いありません。さまざまな産業がシュリンクしていく中で、明るい材料として見ることができます。

(『アニメ産業レポート2019サマリー版(一般社団法人 日本動画協会))

 

 たとえば令和2(2020)年5月、ソニーはソニーグループへの社名変更を発表すると共に、経営方針説明会で、「アニメ」を主要な事業のひとつに掲げました。「音楽」「映画」「ゲーム&ネットワークサービス」という既存の複数セグメントにまたがる形の事業であるという位置づけです。配信プラットフォームを強化するために、2020年秋には日本アニメ配信大手、米クランチロールの買収交渉に入ったようです。ソニーミュージック傘下のアニメ会社・アニプレックスは、令和2(2020)年秋に公開された劇場版の映画が爆発的なヒットを記録している『鬼滅の刃』も製作しています。
 私にとってアニメは、個人的な趣味であると共に、こうしたビジネス的な面白さにおいても、注目する価値があると感じているのです。

 さて、こうしたアニメの展開は、映像に留まるものではありません。グッズもたくさん展開されていますし、キャストの声優や主題歌を歌うアーティストたちが出演するようなライブイベントやトークイベントも行われ、あるいはいわゆる「2.5次元」と呼ばれる舞台化もなされる場合があります。ソニーグループが主要事業に位置付けたのも、単に映像作品としての展開だけではなく、収益の幅がさまざまな広がりを見せるからなのです。
 「リアル」なイベントも、そうした中で非常に注目されています。アニメ産業の調査および統計・分析がまとめられている「アニメ産業レポート」においても、平成25(2013)年から「ライブエンタテイメント市場」の調査が行われるようになりました。これに含まれるのは、「アニメ・声優ライブ、イベント、2.5次元ミュージカル、ミュージアム・展示会、カフェ」といったものです。

 数字としては平成30(2018)年においてはアニメ産業全体の2兆1,814億円に比して774億円。決して大きな数字には見えないかもしれませんが、「リアル」な場においてグッズの購買も喚起されますし、コト消費が盛り上がりを見せる中で大きな存在感を放っていると言えます。

 私も、学生と一緒に『ラブライブ!』のライブ公演を見に東京ドームやメットライフドームへ行きましたし、日本最大級のアニメソングイベント「Animelo Summer Live」(通称アニサマ)にも、毎年足を運んできました。アニサマは令和2(2020)年こそコロナの影響で延期になってしまいましたが、さいたまスーパーアリーナで開催された昨年の動員は約8万4000人です。規模の大きさがおわかりいただけることでしょう。そもそもチケットをとることが非常に困難なくらい人気がありますし、現場も熱気にあふれています。

 


神田神社の境内近くの「明神男坂」はアニメファンが多く訪れる「聖地」の一つとなっている

 やはりアニメにとって「リアル」な場が占める位置は、非常に重要なのです。その上でやはり独特なのは、「リアル」な場においてもアニメファンは、「キャラクター」への愛に突き動かされていることが多い、ということです。
 ライブにおいても、パフォーマーがまとっている「キャラクター」が好きだからこそ盛り上がれたり、アニメの舞台として描かれた現実の地域を「聖地巡礼」する場合も、その風景の中にキャラクターを見ていたりする。
 では、たとえば聖地巡礼するアニメファンと「リアル」な地域の人々は、どう「共存」することができるのでしょうか。インタビュー後編では、こうしたアニメと「リアル」の関係を、さらに考えていきたいと思います。

 

 

 

木村 秀史

研究分野

国際金融、途上国の通貨統合、最適通貨圏の理論、GCC通貨統合、Monetary Union in Depeloping Countries Optimum Currency Area Endogenous of Optimum Currency Area Monetary Union in the Gulf states

論文

GCCの金融市場と金融統合の現状と課題(2014/09/00)

ユーロ危機の構造 -域内経常収支不均衡の視点から-(2013/08/00)

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