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浪曲界のワンダーボーイ・玉川太福が作る新しい浪曲とは?(後編)
(伝統をあやなす人 VOL.1)

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浪曲師 玉川太福

2020年9月11日更新

 受け継がれてきた「伝統」で、新しい世界を表現する。
 新連載「伝統をあやなす人」では文化や芸術、芸能など、「伝統」という表現方法で、”今”をえがくアーティストのみなさまにお話をおうかがいします。
 記念すべき第1回のゲストは、浪曲界の若き旗手、玉川太福さんです。
 
 注目の若手浪曲師・玉川太福さんは、これまで浪曲にはなかった世界観でそのおもしろさを広め、寄席に行ったことがなかった若者たちにも足を運ばせています。その魅力はなんなのか?後編となる今回は、太福さんの新作制作の裏側や、浪曲の魅力として欠くことのできない三味線の伴奏を行う曲師との駆け引き、古典との向き合い方、そしてこれから目指す方向についてお話をうかがいます。
 

 

男二人のディスコミュニケーションを描く

「地べたの二人」の世界観

 赤穂浪士や侠客同士の闘い、親子の別れなどドラマチックな話や義理人情の話を中心としていた、かつての浪曲。しかし、太福さんが新作で目指すのは「爆笑していただける浪曲」だという。代表作「地べたの二人」シリーズは、何も始まらず何も起きないごくごく些細な日常の中で、男二人のディスコミュニケーションが描かれる物語。ドラマチックではない描写で爆笑させるために「これはしない」と決めていることがあるという。

浪曲への思いを、終始笑顔で語ってくださった。

 「ボケとツッコミみたいな、分かりやすいお笑いはやらないようにしているんです。いかにもお笑い的にしてしまうと瞬間的な爆笑度は高くなりますが、サイトウさんとカナイくんが些細なことですれ違っていってそこに笑いが生まれる……というリアルな世界観から外れてしまうんです。あえてお笑い的にしないことが逆に笑いを誘い、豊かな物語になると思っています。

 究極は、文字で書き起こすと男二人がただ会話しているだけなのに、私の節と啖呵を通すと爆笑してしまうという形になることですね。

 いちばん難しいのは、題材探し。何気ない日常に潜む光景をネタにしたいけど、想像じゃだめ。自分の実感にないものは作れないんですよ」

 一時は時事ネタも組み込んで、たとえばヒアリを登場させたりもしたそうだが、どうしても時間が経つと鮮度が落ちる。やはり、いつの時代にも通用する普遍的なテーマがいいと、日常をネタにすることに戻った。銭湯やサウナがネタになっているのは、太福さん自身が30歳過ぎまで銭湯通いをしていたり、最近、サウナに通い詰めていたりと、自分自身が体験した光景が蓄積されているからだ。

 さらに最近では、自分の身のまわりに芸人さんが多くなり、そうすると非日常的な人ばかり(!)になるので、目指す世界観からずれてしまう。そのため、時にはファミレスで若者たちの会話に耳をすますこともあるそうだ。

 「たとえば若い男の子たちが、“このあと何食べるか?”について本気で盛り上がってしゃべってたりしてると『この話、こうすれば浪曲になるかな?』なんて考えたり。常にリサーチしてますね。

 これはいけるかなと思ったものができたら五・七・五のリズムに乗せてみます。最初のうちは難しかったですね。でも、14年目ともなると、体の中に〽何が何してなんとやら〜〜ってリズムが入っているんで、たとえば最初に『おかずを箸で持って食べている』と起草したとして、いやこれじゃ合わないからえーと……『箸で持って、おかずを食べる』かな……という風に何度か作り直して整えます。ある程度決まっても、稽古しながら、やっぱり違うと思ったら変えていきますね」

 

浪曲は、その場で合わせる

ジャズセッションみたいなもの

 「直前まで、あるいは演じながらも変化します。全部完璧に仕上げてお客様の前に『言葉がないぐらい完璧』って出ていくよりは、手探りで、ある意味お客様と一緒に作っていくようなやり方なんです。

 もちろん、大まかな筋は決まってるし、セリフだって同じなんですけど、最初に放った第一声によって『今日はなんかテンション低いサイトウさん出ちゃってるな』とか『いつもよりサイトウさんくどいな、カナイくんもやらかしたな』とか、毎回その場の空気によって変化するんです。体調ともリンクしてますしね。

 低いテンションのサイトウさん来ちゃったら、修正はしません。それに対してカナイくんはどう反応するか?って感じで進めます。

 加えて会場の反応によって微妙に変化していく。ジャズセッション? そう、そんな感じです」

 だからこそ、「地べたの二人・おかず交換」は年間50回以上口演しても、自身が飽きることがないという。玉川太福ファンの中には、何十回もこのネタを見た人も多いだろうが、毎回盛り上がるのは変化し進化するからだろう。

 さらに言えば、曲師とのやりとりもまた、即興なのである。

 

取材したのは、せみが大合唱する猛暑日でした。

 「初演の時、『地べたの二人〜おかず交換〜』ができあがったのは前日の夜中です。当然、みね子師匠と稽古する時間なんてありませんから、当日ぶっつけ本番です。まあほんと、申し訳ないんですが、でもそもそも、もっと前にできあがっていたとしてもみね子師匠も、覚えませんからね(笑)。もう、頑なに(笑)。その場で集中して、瞬間に弾くタイプなんでしょうね。だから『地べたの二人・おかず交換』みたいに100回以上やっているものだって、そのつど新鮮に弾いてくれるんです。

 私の場合は、予定調和的に次はこの節だからこう、と記憶で弾かれるより遥かにいい。

 そもそも曲師と浪曲師は、毎回がフリーセッション。間がちょっと違ったり、昨日と今日でテンションが違ったりすれば弾き方も変わってくる。

 落語もある意味、始まりと終わりだけ決まってて、途中はフリーなジャズみたいなもんですが、浪曲は曲師との駆け引きがあるからさらにフリーセッションになって、これがまた醍醐味ですね」

 

 

 たとえば義太夫は、太夫と三味線ともに正面を向いて座るが、浪曲の場合、曲師はやや後ろから、演者の方を向いて伴奏する。みね子師匠は口演中、玉川さんの顔から、片時も目を離さない。

太福さんをじっと見つめる、みね子師匠。

 「口演のたびに雰囲気が変わるだけではなく、時間の都合で、長いネタを短く演じるときもあります。だから台本があったとしても、この啖呵の次に必ずこの節が来るとも限らないんですが、曲師は瞬発力で応える。みね子師匠が私の顔をじっと見ているのは、口元を見て息を吸ったり吐いたり、一挙手一投足を見逃さず、瞬間的に合わせて伴奏しているからです。

 こっちが盛り上げに向かっている時は、それに応じてのってくる。私がリードしているようで、時には曲師にリードされることもある。引っ張ったり引っ張られたりっていう、駆け引きをしているんですよ」

 

「アップを撮影させてください」とお願いすると、表情七変化。スタッフ一同大爆笑でした。

 いちばん盛り上がる場面では、啖呵も強い調子になり、浪曲師の表情もまた七変化し、そこに三味線が「チャチャチャーン!」と重なると、観客は映画を見ているような気分になる。太福さんは浪曲のことを「三味線伴奏付き一人ミュージカル」と表現するが、まさにその通り。これこそが浪曲の最大の魅力だろう。

 

現代を生きる自分の体を通して

浪曲の世界を伝えていく

 ところで太福さんは古典の演目も積極的に口演し「新作と古典は自分にとって両輪」とも公言している。新作で「浪曲っておもしろい!」と思った人たちに、古典のおもしろさにも目覚めてほしいと願っているのだ。

ちょっとした所作も、美しい。

 「古典を新作風にアレンジすることはないですね。古典の内容をスピンアウトとして新作にすることはありますが。古典をやる時は、マクラで物語の背景を説明してから唸ったり、現代だと分かりにくい用語の解説を入れることはあります。その演目が作られた当時ならツーカーで分かるようなものでも、時代が変わると何のことだろう? となってしまうので、そういうところに一言、二言付け加えます。でも、古典で語られる喜怒哀楽や人情は、時代が変わっても同じでしょう? だから入り口のちょっとした手引は作りますが、大きくは変えません。

  これは古典でも新作でも同じですが、浪曲という世界を、現代を生きる私の生身を通して伝えていきたい。古典の世界も、自分がいま40代ですので、自分が感情を込めて話せる内容であれば、少なくとも同年代の方には伝わるかな?と」

 

 「國學院大學は、数少ない曲師を2人も輩出している学校です!学生さん、将来に迷ったら浪曲の世界に来る手もありますよ!」と太福さん。

 いまは「爆笑浪曲師」だが、これから先、古典の世界のような人情や涙あふれる新作を書くこともあるのだろうか?

 「やりたいですね! いまは新作、古典の両方が自分の武器だと思っているので、あえて新作では古典にないような世界を作っていますが、そこから一歩進んで『玉川太福がこんな新作を作った!』といわれるようなものに挑戦してみたいです」

 次に太福さんが見せてくれる「三味線伴奏付き一人ミュージカル」はどんな世界だろうか。

 それを見るのが楽しみである。

      

 

玉川太福

たまがわ・だいふく。1979年新潟市生まれ。第1回渋谷らくご創作大賞、第72回文化庁芸術祭・大衆芸能部門新人賞受賞。2007年玉川福太郎師匠に入門。「地べたの二人」などの創作で注目を浴びる。瀧川鯉八、春風亭昇々、立川吉笑の若手落語家との創作話芸ユニット「ソーゾーシ−」で全国ツアーを行ったり、FMラジオ「ON THE PLANET」でパーソナリティを務めたりと、浪曲の世界にとらわれず、様々なシーンで活躍中。

 

 

 

 

取材・文:有川美紀子 撮影:庄司直人 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學

 

 

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