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コロナ禍のいま世界はどこに向かって進むのか
("新しい世界"を生きるための知)

古沢広祐・研究開発推進機構 客員教授 / 菅浩二・神道文化学部 教授 後編

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研究開発推進機構 客員教授 古沢広祐 / 神道文化学部 教授  菅浩二 

2020年8月8日更新

 SDGs(持続可能な開発目標)をめぐる議論と、宗教学の知見が結びつくとは、一見想像がつかない。しかし、コロナ禍の渦中にいる私たちにとって、来たるべき世界のビジョンを根本的に問い直していくという視点において、両者の間に、たしかに通底するものがありそうだ。

  10年にわたって本学の学際的な共同研究、「共存学」プロジェクトを進めてきた古沢広祐・研究開発推進機構客員教授と、菅浩二・神道文化学部教授。かたや環境社会経済学・農業経済学、かたや宗教学と、たしかに専門は異なる。しかしこの対談後編で彼らが語り合ったように、「新しい世界を生きるための知」のヒントは、そうした異なる価値観がまさに「共存」するところに見つかるかもしれない。

 
 
4つの将来シナリオ
 
――前編では「共存学」の歩みを踏まえてコロナ禍を見つめてきましたが、今後の世界について、どのようにお考えですか。
古沢広祐(以下、古沢):私は今後の世界の動向について、4つのシナリオを想定しています。①雇用悪化や差別・排斥などによる「悪循環的な危機の進行」へ、②「現状の回復」へ、③テレワーク普及やデジタル経済化などによる「従来システムの改革」へ、④脱都市化や小規模・適正社会への移行などによる「根本的な文明の転換」へ――という4つです。
 甚大なクライシス(危機)を契機にした社会の動向を、歴史を遡って見てみると、おおよそこの4つのタイプのシナリオに大別されます。そしてパンデミックという大きなクライシスにおいては、④の文明的な大転換というものが見られることがある。
 代表的な例としては、14世紀半ば、ヨーロッパの人口の3~5割が亡くなったとされるペスト(黒死病)の流行です。このパンデミックによって、ヨーロッパの封建制崩壊が早まったという議論があります。それはすなわち、ルネサンス文化の幕開けや宗教改革、さらにいえば近代、産業革命へとつながるような流れでもあるわけです。歴史表記で、AC・BCがありますが、将来はACをアフタ・コロナの略称になるかもしれない、と指摘する人もいます。
 

 

菅:そうした根本的な問い直しとして、コロナ禍以前から継続的に議論されてきているのが、「貧困をなくす」といった17の目標と、169項目のターゲット(達成基準)から成る、2030年に向けたSDGs(持続可能な開発目標)ですね。
 私はこの10年間、古沢先生に同行して世界中のさまざまな国際会議に立ち会わせていただいてきたのですが、2015年9月の国連総会でSDGsが採択されたときも、古沢先生と一緒に現場におり、世界の首脳による演説を聞いておりました。
 対談の前編を含めて古沢先生の議論をお聞きしながらSDGsのことを考えると、まさにこれは構造的な大転換を目指す、全人類的な、共存をめぐる問題意識そのものであるように感じます。こうした幅広い課題を、現代の全人類が共有し、対応しなければならない、という前提がある。

 

国連総会会場、SDGs採択後の各国スピーチ(日本の安倍首相)2015年9月(撮影:古沢)

 
古沢:とはいえ、簡単な問題でないことはたしかです。私たち日本社会のことを考えても、平成23(2011)年の東日本大震災という危機があり、それを契機に噴出した課題があった。しかしその際にあった根本的な構造転換を考えるという問題意識は、だんだんと薄れていってしまったわけです。今回も新型コロナウイルスに対するワクチンができれば多くが忘れ去られてしまう可能性はあります。
 2030年の達成を目指すSDGsの目標にかんしても、2020年のコロナ禍において、その土台が崩れかけている。17の目標のうち、「貧困をなくす」「飢餓をゼロに」、健康や雇用についての目標などは、今後さらに厳しい事態に直面していくことでしょう。
 他にも「質の高い教育をみんなに」というものがありますが、ユネスコの発表によれば、世界の児童・生徒・学生の9割以上に当たる15億人が、新型コロナによる休校措置のため学校に通えなくなったと言います。まさにこれから、SDGsの本領、真価が問われていくことになるわけです。
 状況はきわめて厳しい。それでも、根本的な構造転換を進めていこう――そうした流れにおいて今再び注目され始めているのが、「グリーン・リカバリー」です。
 
 
新たな社会ビジョン?
 
――新たな動きとしての「グリーン・リカバリー」とは、どのようなものなのでしょうか。
 
 
 
 
古沢:2008年の世界金融危機(リーマン・ショック)においても、欧米において「グリーン・ニューディール」、すなわち再生可能エネルギーや地球温暖化対策への資金投入よって雇用や経済成長を生み出そうという政策が掲げられました。今回の「グリーン・リカバリー」は、主に欧州から発信されています。コロナ禍からの復興にあてられる財政出動を、気候変動対策や持続可能な社会形成に貢献するものにしよう、という動きですね。
 
――なるほど。菅先生はご専門の立場から、コロナ禍における動向をどう見ていらっしゃいますか。
 
菅:私が気になるのは、各国において、行政の判断で経済活動に抑制をかけている状況についてです。いえ、これ自体が良い悪いという話ではなく、対談の前編でもお話しした第一次世界大戦の総力戦期のことが頭をよぎるわけですね。スペイン風邪の、まさにパンデミックとも重なっているわけです。
 人間の欲求・欲望による活動というものを政治によって統制する、そうした総力戦におけるナショナリズム、そしてその中で宗教を含めた精神的・文化的な価値というものがどういう意味を持っているのか――。これらは、実はあまり従来問われてこなかったことであるような気がします。ファシズムなどの特定側面の問題を超えた、近現代文明全体への総合的問いかけが必要ではないでしょうか。
 その意味で私にとっては、まだとても「アフター」コロナとして考えられる段階にはありません。まさに現在進行形である、という問題意識で考えているところです。ひとつ言えることは、宗教的な信仰を持っている人であろうとなかろうと、人間の生命とは何なのか、自然や宇宙という時空間の中で自分が生きていることをどう捉えるか、といった根源的な問いを考えるようになっている人がいる、ということです。
 信仰の有無にかかわらずそうした新たな認識を抱く人々がいる中で、では宗教家はどのように対応したのか。決して簡単に答えが出ない状況に対して、どのように宗教的な回答を導こうとしたのか。私自身は、そこに注目していきたいと思っています。
 
古沢:共存学としても、まさに正念場です。もとより共存という概念は、矛盾と困難への向き合い方、新たな可能性を探る試みです。世界中で次なるビジョンが模索され始めている、その方向性をきちんと見つめながら、「本当の持続可能な社会」というものを考えていきたいのです。
 
 
全世界が共通で取り組む目標として掲げられたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)。17の大目標からなり、経済、社会、環境という3つの分野が網羅されている。
 
 
 
客員教授:古沢 広祐(フルサワ コウユウ)
所  属:研究開発推進機構
研究分野:環境社会経済学、地球環境・エコロジー問題、農業経済学、NGO・NPO・協同組合論
 
 
教  授:菅 浩二(スガ コウジ)
所  属:神道文化学部 神道文化学科
研究分野:宗教とナショナリズム論、近代神道史
 
 

 

 

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