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東日本大震災を踏まえて見えてきた、アフターコロナにおける宗教者の役割とは
("新しい世界"を生きるための知)

黒﨑浩行・神道文化学部教授 後編

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神道文化学部教授 黒﨑浩行

2020年8月17日更新

 コロナ禍における宗教者の役割を考えるとき、頭をよぎるのは平成23(2011)年の東日本大震災後における、宗教関係者たちの活動だ。黒﨑浩行・神道文化学部教授へのインタビュー後編では、自身も参加してきた宗教間の連携を振り返りながら、アフターコロナの状況との異同点を探っていく。
 特に注目されるのは、「臨床宗教師」といった新たな宗教者の活動、そして医療従事者やエッセンシャルワーカーといった人々の心をケアする「傾聴」といった試みだ。宗派を超えてできることの模索――その先に見えてくるのは、やがてコロナ禍が過ぎた後も宗教者が担うであろう役割だ。
 
 
 
 
 平成23(2011)年4月、宮城県仙台市で、超宗派の取り組みとして「心の相談室」が発足しました。現地・仙台の仏教やキリスト教といった宗教者たちが協力、慰霊や追悼を行ったことをきっかけに、東北大学文学部宗教学研究室が事務局となり、医療者も連携して、遺族の相談に応じる窓口が設置されたのです。
 ここからさらに東北大において、「臨床宗教師」を育成する研修プログラムが、平成24(2012)年10月に設置されました。「臨床宗教師」とは、「様々な信仰をもつ人々の宗教的ニーズにこたえることのできる」専門職。研修プログラムでは「公共空間で心のケアを行うことができる宗教者」の養成が目指されたのです。
 日本での「臨床宗教師」をめぐる動きは、実は震災前から続いているものでした。欧米ではかねてより「チャプレン」と呼ばれる、病院やホスピスといった施設で活動する、主にキリスト教の宗教者たちがいた。彼らの活動の内容は布教のためではなく、自分の死、あるいは愛する人の死に直面している人々などに対して、話を聞くことでスピリチュアルケアを行う、といったものです。
 

 日本にも徐々に同様の試みが、キリスト教のみならず仏教などの宗教者たちの協力のもとで進んでおりました。それが東日本大震災を契機に、避難所や仮設住宅で被災者の方々へのスピリチュアルケアを行おうという動きの中で、「臨床宗教師」として東北大を中心に養成が行われるようになっていったのです(平成30(2018)年以降、一般社団法人日本臨床宗教師会による「認定臨床宗教師」の資格制度が始まっています)。
 こうした仙台を中心にした取り組みの一方で、宗教者たちの情報を交換するネットワークの構築へ向けて、平成23(2011)年4月には「宗教者災害支援連絡会」が発足しました。これは主に東京を拠点にしたもので、そこに仙台の取り組みが伝えられ、さらなる情報や取り組みの共有が進んでいった。宗教学の研究者として情報収集や発信を行ってきた私も、これらの動きに連携、協力していきました。
 そもそも、なぜこうした連携や情報共有が進んでいったのかと言いますと、そこには震災後に見えてきた課題の存在があります。宗教者の方たちは、現地に駆けつけて支援を行ったり、遺体安置所などに赴いて供養を行ったり祈りを捧げたり、といった活動を行ったわけですが、やはり各宗教の個別の取り組みだけでは社会全体へ波及していかない。また、政教分離の問題があり、行政とのかかわりが難しいということもありました。
 そこで宗教者、そして宗教研究者も含めて、きちんと連携し情報を共有する。さらには行政へ要請を行う、交渉するといった場合も、個別の宗教ではなく連携して対応していく、という動きになっていったのでした。
 結果として、たとえば昨年に相次いだ風水害においても、宗教者たちによる支援、そして行政との連携などが行われていきました。

 

 
 
 しかし今回のコロナ禍は、状況が大きく異なります。インタビュー前編でもお伝えしたように、宗教文化において習慣的に行われてきた“集まる”という行為、“場”が成立しないため、災害の際にみんなで結束して乗り越えるだとか、地域のコミュニティを再構築する、といったことができません。超宗派的に連携して何かに取り組んでいこうという動きも、全体的にはあまり目立ってはいない状況です。
 とはいえ一部では宗教間での連携も試みられていて、その中にスピリチュアルケアの一種、相手の気持ちに寄り添い話に耳を傾ける、「傾聴」という活動があります。
 たとえば、前編でも触れた世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会が後援となっている「感染症と闘う医療従事者の話を聴く会」では、公認心理師や臨床心理士といった心理専門職、そして臨床宗教師を含む傾聴の有資格者の方々が、オンラインで医療従事者への傾聴を行っています。
 医療従事者のみならず、エッセンシャルワーカー――今回のコロナ禍で皆が外出自粛をしている中でも、社会の機能を維持するために現場で働きつづけなければならない労働者、こうした方々の心が折れてしまわないように、きちんと研修を積み知識のある宗教者たちによる「傾聴」の活動は少しずつ広がりつつあります。
 傾聴活動を行ってきた宗教者たちの中には、「臨床宗教師」が制度化される以前から、たとえば電話や手紙で自殺対策の相談を行ったり、希死念慮を持つ人々のSNSグループを作って自助的に呼びかけ合ったり、といった活動をしてきた方々がいます。そうした経験を活かしながら、心のケアに取り組んできたわけです。
 もちろん、アフターコロナの社会においては“場”の共有は難しい。しかし、医療従事者やエッセンシャルワーカー、さらには自粛状況の中でDVなどの暴力にさらされている人たちをどう支えていくか――宗教者がどのように状況を受け止めてかかわっていくか、ということが問われている。
 

 外国から感染症のウイルスが入ってきたということで、外国人差別も強まっていくかもしれません。きちんとした科学的な知識を身につけながら、人々の悲しみや苦しみに寄り添っていかねばならないのです。また、これからも国内外では災害は起こっていくでしょうし、日本では少子高齢化がさらに進み、後期高齢者として死と向き合う方々の数も増えていくことでしょう。
 今後到来する社会において、どのように適切な発信を行い、どんな活動をしていくのか――。宗教者が担うべき役割というものは、だんだんと大きくなっていくことでしょうし、その役割を果たすために、オンラインでの取り組みも広がっていくのではないでしょうか。

 
 
 
 
黒﨑 浩行

研究分野

宗教学、近世近代日本宗教史、宗教と情報・コミュニケーション

論文

超高齢社会の到来と神社に関する意識への影響(2018/06/30)

被災地の祭り・祈りを支援する学生ボランティアと宗教学者(2018/01/31)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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