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歌学・仏教界にも影響を与えた日本書紀注釈書

『信西日本紀鈔』伝藤原信西筆【國學院大學図書館所蔵】

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研究開発推進機構准教授 渡邉 卓

2020年6月29日更新

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 本書は、藤原通憲[1106~1160]の講説を記録した『日本書紀』の注釈書。信西は通憲の法名であり、『本朝世紀』『法曹類林』などの著者としても知られる。

 成立は12世紀中頃とみられ、わずか29丁であるが『日本書紀』の注釈書としては「日本書紀私記」に次いで古く、類似する注釈は皆無であり、語彙を抽出した辞書的性格を有している。諸本は現存せず、異本が上賀茂神社三手文庫にあるのみである。

 本文は上(天・地・草・神・人)、下(雑)の6つの部立で構成され、上下を通じて、305項目からなる。しかし、上巻122項目の末尾1項目の一部と、それに続く3項目が欠脱している。語彙は、ほぼ『日本書紀』全巻から採られるが、神代巻からが多く、それ以外は各巻を通じて説話部分に関心を示している。

 本書は、鎌倉時代初期に成立した歌学書や真言宗・天台宗に関わる仏教書籍に逸文として引用されていることから、成立後まもなくして歌学・仏教界へ伝わり利用されていた。

 本書の影印・翻刻として中村啓信『信西日本紀鈔とその研究』(高科書店・1990年)がある。学報連載コラム「未来へつなぐ学術資産研究ノート」(第11回)

 

 

渡邉 卓

研究分野

日本上代文学・国学

論文

「上代文献にみる「吉野」の位相」(2024/03/22)

「中世の日本書紀註釈における出雲観―『釈日本紀』にみる「出雲」の文字列から―」(2021/03/31)

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