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今こそ、「初めて(できた)拍手」で良いとこ見つけ ~今だからできること~

すくすく子育てエッセイ(在宅編)Vol.05

  • 人間開発学部
  • 全ての方向け
  • 教育
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法人特別参事(名誉教授) 新富康央

2020年4月24日更新

 國學院大學では、教育学・体育学の教員が中心となり、子育てに関する連載企画を5月上旬まで緊急展開します。自宅でテレワークを続けながら子育てに奮闘しているパパママの心の励みになるものや、お友だちとも自由に遊べず寂しい思いをしている子どもたちへの応援メッセージが込められたテーマでお送りします。

 「緊急事態宣言」下の中で、喫緊の医療問題だけでなく、働き方など社会のこれまでの在り方を見直す動きも出ています。子育てについても、同様です。今日、優等生の「良い子」もよいが、その子らしい個性ある「味のある子」も求められるようになりました。

 「そうさ 僕らは 世界に一つだけの花 一人一人違う種を持つ その花を咲かせることだけに 一生懸命になればよい」

 ご存知のように、SMAPの「世界に一つだけの花」の歌詞です。その種からどんな花が咲くにせよ、その花を咲かせることに一生懸命になれば良いのです。「ナンバーワンにならなくてもいい、もともと特別なオンリーワン」。それが、「味のある子」です。

 アメリカ中西部の小学校で、子どもたちに尋ねたことがあります。「このクラスでは、誰が一番かな?」。すると「みんなグッドだよ」という答が返ってきました。しかも、クラスの一人一人の「グッド」を、互いに言い合うのです。「ジョン君はお絵かきが最高、スミスはかけっこ、本読みならネッソン、リンはとにかくやさしいよ」。このクラスには、いろいろな「グッド」がありました。他校でも、「よさ見つけカード」がありました。私はこれを、子育て「見つめる目」と名付けています。「見つめる目」は、でき―不できでなく、一個の人格として全面的に受け入れ、存在を認めることから始まります。

 『遺愛集』(東京美術、1967年)という歌集があります。著者は島秋人。死刑囚です。彼は昭和9年、満州生まれ。内地に引き揚げてからの生活苦と病弱な体で、ひどい「いじめ」も受けて、転落の人生。昭和34年、強盗殺人を起こし死刑の判決を受け、昭和42年、処刑されます。しかし、獄中において、彼の短歌の才能が花開きました。自らをさげすんでいた彼が、昭和37年には「毎日歌壇賞」を得るまでに上達するのです。

「この澄める こころ在るとは 識(し)らず来て 刑死の明日に 迫る夜温(ぬく)し」

 これは処刑される前夜の作品です。獄中にあって始めは、自分の人生を呪い、世の中を恨み続けていた彼でした。その彼が、たった一度だけ中学生の時ほめられた記憶から、その先生に獄中から手紙を出したことがきっかけで短歌の扉が開かれたのです。短歌を通して身も心も清められました。彼は恩師に宛てた手紙の中で、次のように語っています。

 「長所を伸ばす教育が弱い人間、普通よりも劣る人間には一番大切です。ダメな人間、ダメなやつと云はれればなおさらいしゅくして伸びなくひがみます。ほめてくれると云うことが過去の私の一番うれしいことでした」

 ただ一言のほめ言葉が、彼の心を救い、人生を変えたのです。大人から見ればひ弱な子どもたちも同様です。では、容易にできるほめ方は、ないでしょうか。そこでここでは、その方法として、「初めて(できた)拍手」を提案します。

 「良いとこ見つけ」を実践されている先生が言います。「どうしても、優等生タイプの子どもの独壇場になってしまいます」、と。結果ではなく、前よりも今どれだけ結果を伸ばしたかで測る「伸びの評価」も、学校では推奨されます。しかし、実際には、ここでも忍耐力や持続力のある優等生タイプの子どもが、どうしても優位に立ちます。

 「良いとこ見つけ」の難しさは、家庭も同様です。教育評論家は、しばしば「子どもの良さを見つけなさい」とコメントします。しかし、実際はなかなか難しいものです。しかし、子どもたちは今、家庭で長時間、親子で触れ合いながら生活しています。そこで、通常よりも可能になったのが、「初めて(できた)拍手」なのです。「初めて自分で起きたね」、「初めて『おはよう』と挨拶ができたね」、「初めて食事の前の手洗いができたね」、「初めて後片付けができたね」、「初めて早寝ができたね」、「初めて靴を投げ捨てていなかったね」。どうでしょうか、枚挙にいとまがありません。

 このように、「初めて拍手」なら「良いとこ見つけ」も容易にできるはずです。むしろ、日頃は島秋人氏の言う「ダメな人間」と思われている子どもの方が、「初めて拍手」は、やりやすいはずです。しかも、それができるのが休園、休校中の今ではないでしょうか。

 まずは、初めてできたことを認めて、タイミング良く、その場でほめることです。しかも、「大げさにほめる」ことです。「初めて拍手」によって、子育てにとっての今のマイナス状況を逆手に取って、プラスに転換させましょう。緊急事態の親子の長時間の触れ合い生活の中で、お子さんにできるだけ多く「初めて拍手」を拾ってあげてください。休園、休校中の今こそ、「初めて(できた)拍手」で、子どもは「すくすく」成長です。

 

新富 康央(しんとみ やすひさ)

國學院大學名誉教授 
法人参与・法人特別参事
人間開発学部初代学部長

専門:教育社会学・人間発達学

このページに対するお問い合せ先: 総合企画部広報課

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